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理人は動揺を悟られないよう、無意識のうちに瀬名に背を向けて電話に出た。
『もしもし、鬼塚さん! 無事でしたか?』
「……なんの話だ?」
開口一番、食い気味に問いかけられて、理人は若干引きながらも低く問い返す。東雲の緊迫した声色から、自分たちにとって芳しくない事態が起きていることだけは察しがついた。
『詳しいことは会ってから話します。……例の「繋がり」、確定しましたよ』
「……朝倉と、反社の件か」
『ええ。向こうから接触してきました。いきなり暗闇から襲いかかってきたのには驚きましたが……まあ、返り討ちにしてやりましたよ。どうやら、例の写真を撮った「俺」を探していたみたいで』
「……そうか」
あの写真が流出して困るのは、岩隈と密会していた娘。そして、その親である朝倉だ。うだつの上がらない、ただの「出来の悪い男」だと思っていたが、どうやら悪知恵だけは一丁前に働くらしい。
『鬼塚さんの近況も知りたいし、渡したい資料もあります。近いうちに会えませんか?』
「わかった。じゃあ……」
手短に待ち合わせ場所を指定して通話を終える。振り返ると、瀬名はもちろん、ナオミや湊までもが心配そうな面持ちでこちらを凝視していた。
「悪い、急用ができた」
「ちょっと、アンタ。何かヤバいことに首を突っ込んでるんじゃないでしょうね?」
ナオミが理人の腕を掴み、険しい表情で覗き込んでくる。
「違う。そういうんじゃねぇよ。……ただのダチに会いに行くだけだ」
ナオミの手をそっと外し、理人はベッドの瀬名へと向き直った。
「理人さん、僕も行きます」
何かを鋭く察したらしい瀬名が、真剣な眼差しを向けてくる。今回の件について、瀬名にはまだ詳細を伏せている。だが、彼は理人の僅かな変化を敏感に感じ取っているようだった。不安を滲ませ、理人の服の裾を掴む指先に力がこもる。
「バーカ。お前はまだ絶対安静だろうが」
「でも……」
「大丈夫だ。危ないことはしねぇし、本当にただのダチだ。……すぐに戻る」
理人が努めて軽く笑って見せると、瀬名は一瞬躊躇ったが、渋々といった様子でようやく指を離した。その頭をポンと撫でてやると、瀬名は微かに目を細める。小動物のようなその仕草に、理人の胸は締め付けられるように高鳴った。 自分の中にこれほど誰かを愛しいと思う感情があったことに驚きつつ、理人は決意を固めて踵を返した。
「そんなに心配しなくていいわよ。理人はこう見えて、チンピラ程度なら瞬殺しちゃうんだから。……なんたって、高校時代は喧嘩で負け知らずだったんだから!」
「へぇ、そんなに強かったんですか」
「……おい! 出て行きづれぇだろうが、クソが!!」
ナオミが余計な「黒歴史」を披露しそうな気配を察し、理人は彼女をぎろりと睨みつける。
「あら、まだいたの? 用事があるんでしょう?」
「……チッ。瀬名に余計なことを吹き込むなよ!」
理人は吐き捨てるようにそう言い残して病室を後にした。早足で廊下を歩き出す理人の背中を、瀬名はいつまでも、じっと見つめ続けていた――。