「よし、終わりましたよ…って部屋から居ないし。」
手に取った本をぱたんと閉じ、終わった事を報告しようとしたのだが、呼び出した当の本人が居ない。私が集中している間に抜けたのだろうか。
「早く報告して帰りたいんですが…仕方がありません、部屋まで行きますか。」
重い体を押し上げ、部屋の扉に手をかける。
そういえば、治療した人はいつになったら目が覚めるんだろう。誰も居ない時に覚めたら困惑するのだろうか。
…いや、私には今関係がない。そもそも仕事だって放置で来てしまったのだ。元々そんなに忙しい訳では無いが、それでも全く仕事がない訳では無い。
それを放置してしまっていて、本来なら今私は仕事をしている。というか、そもそも知らない人の治療しただけでも十分でしょ…。
なんて心配する心を誤魔化しながら、急いで部屋から出て行った。
「水篶さ〜ん、治療終わりましたよ〜。」
部屋に入った時には、いつも作業しているであろう机と椅子に体を任せ、そのまま寝ている状態だった。
この人はこの人で中々に重症だな…疲労系は私だと治せないけれど。
「…あ、しよりちゃ〜ん。終わったの…?」
少ししてからゆっくりとこちらを向き、眠そうに目を擦りながらそう問いかけてくる。その際にふと目に視界が移ると、その目の下に濃いくまが浮かんでいるのが見えた。
質問をしてきたという事は、先程の私の声ははっきりと聞こえてはいないのだろう。それでも起きたという事は、声自体は聞こえていたのだろうか。それとも、扉を開ける音で気がついたとかなのだろうか。
「はい、終わりましたよ。特に後遺症とかもなさそうなので、あのまま目が覚めるまで待てば大丈夫そうです。」
淡々と、必要な事だけを報告する。この人多分だけど目のくまについて言ったら凄い怒るから…。
「良かった〜。私もうちょっと寝てたいから後は自由にしてていいよ〜…」
安堵した様ににこっと微笑いながらそう言い終えると、再び机に身を任せて寝てしまった。
(ど、どうしよう…)
少し悩んでから、私は水篶さんが起きるまでは治療した人の所で様子を見る事にした。
途中で容体が悪化してしまったりしたら困るから…まぁ、これで良いのか。
そう思いながら私は、部屋の扉をそっと閉めた。あの人が1人で住むには到底必要のない程の屋敷の廊下を歩くと、こつこつ、とただ虚しく足音が響き渡るだけだった。
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