「クソッ、逃がすか!」
爆弾魔が消えた瞬間、俺は拳銃を構え直したが遅かった。
既に奴の気配は感じられず、ただ煙が立ち込めるだけだった。
くそ、何処に行った? まさか、窓から逃げたのか……と、俺は窓の外を見たが、彼奴が逃げるはずがないと、俺との戦闘を楽しみにしていたような口ぶりをしたため、その考えはすぐに否定し、俺は煙の中に突っ込んだ。
慎重に且つ、迅速に。
爆弾魔に近づければその身柄を拘束することも可能だろうと、俺は取り敢えず爆弾魔を探すことにした。
「ところで、明智春探偵」
すると、後ろから声をかけられた。
その声は、聞き覚えのある声で……俺が振り向くと、そこには予想通りの人物がいた。それは、先程まで俺が会話をしていた人物……爆弾魔だ。
フードを被っているため表情は分からないが、やはり俺を嘲笑っているように思え、俺は受け身をとり拳銃を構えた。爆弾魔の回し蹴りを腕で防ぎつつ、俺は後方へ滑る。
「神津恭が死んだときどんな気持ちでしたか?」
「……ッチ」
爆弾魔はそう言うと、フードの奥で笑みを浮かべた。
まるで、その答えを期待していたかのように。
俺は舌打ちをしつつ、爆弾魔に銃弾を放つ。しかし、奴はそれを軽々避けると、煙幕で姿をくらます。相手が手練れであることを理解し、俺は情けなどいらないと、引き金にかけている指に力を込める。急所は外すつもりでいるが、ここで逃げられてしまったら元も子もないと、俺は再び姿を現した爆弾魔に向けて発砲し続けた。
「神津恭が死んだ時どう思いましたか?」
「……」
「私は、最高の気分でしたよ。鼻につく探偵を殺せたことが。何よりも、彼に正体を見破られると今後の私の活動にも影響が出ますし、それに、貴方をこうして誘い出すことが出来た」
煙の中から投げられた数本のナイフが俺を襲う。
近接術だけではなく、投げナイフも得意としているようだ。俺はそれをギリギリで避け、奴に向かって発砲する。しかし、奴はそれも軽くかわすと、俺との距離を縮めてきた。
爆弾魔は俺の腹に膝蹴りを食らわせようとしてきたが、俺は咄嵯にそれを避けた。その際、爆弾魔の靴に仕込まれていた刃物が頬をかする。
「俺を殺すことが目的……? 俺なんて殺してどうするんだよ」
「貴方が死ねば、悲しむ人がいるでしょ?」
と、爆弾魔はクスクスと笑う。
そんな奴、もうこの世にはいない。と俺は拳銃を握っていない方の拳を握る。悲しんでくれる人はいるかも知れないが、一番悲しんでくれるだろう人は目の前の爆弾魔に殺された。なのに、此奴はどうして俺を狙うのか。
俺の記憶を辿る限り、俺と接点を持った人の中で、俺が死んで悲しむ人はいないと思った。深い悲しみを植え付けられるような人はいないと。
「いねえよ、そんな奴」
「いるんですよ。まあ、貴方だけが死んで悲しむわけじゃないですけどね」
そう爆弾魔は意味深にいう。
俺は、爆弾魔がこれまでに殺してきた人と同じだという。俺を殺せば、爆弾魔が一番狙っている人物を悲しませることが出来ると、その一つの材料になると言っているのだ。
そんなために……
「ハハハッ! 怒ってるんですか? 良いですよ、怒っても。別に私には関係無いので」
「お前のせいで、死んだ奴らのこと……お前のせいで神津は死んだんだ。お前は人を殺してなんとも思わないのか?」
俺は怒りを爆発させ、爆弾魔に問う。
爆弾魔は首を傾げながら、 そうですねーと、少し考える素振りを見せた後、 爆弾魔は口角を上げ「別に何とも思いませんでしたよ」 と言った。
こいつは何処までも救いようがないと思った。
人の心が欠如しているのか、或いは――――
「それにしても、先ほどから明智春探偵、銃弾を外してばかりですが、私に当てる気がないのですか? それとも、拳銃の扱い方に慣れていないとか」
と、爆弾魔はまたも煽るように言う。
正直、外してばかりはいるが下手なわけではなく、爆弾魔の動きが素早いからだ。これは、これまでに沢山の経験を積んできたからこそ動ける動きなのだと俺は直感的にそう思った。そんな相手に三年も怠けていた自分が勝てるはずないのだ。過去の自分を恨むしかない。
「それか、ただたんに優しいのか。まあ、その優しさが命取りになるんですけどね!」
そういうと爆弾魔は俺に飛びかかってくる。
俺は咄嵯に爆弾魔の攻撃を避け、そのまま反撃しようと拳銃を構える。しかし、それは爆弾魔の足によって防がれ、代わりに腹部に蹴りを食らう。
俺は、爆弾魔から距離を取るように後ろへ下がるが、すかさず爆弾魔は攻撃を仕掛けてきた。俺は、それをさらに避け、逆にこちらから回し蹴りを喰らわせてやった。すると、パキッと音を立てて、爆弾魔が機械音声を出していたと思われる機会が潰れた音がし、その瞬間爆弾魔のフードが脱げた。
「……ッ」
爆弾魔は、いたた……と呟きながらユラリと立ち上がる。
俺は目の前にいる爆弾魔が、その正体が信じられず目を見開いた。ゆらり、ゆらりと揺れる長い蜂蜜色のツインテール、そうして見開かれた目は大きくビスクドールのようで、俺は固唾を飲み込んだ。
「あ~今の、すっごく痛かった。藤子の身体に傷がついたら、一体どう責任取ってくれるんだろう。ね? 探偵さん」
そう言って笑った少女は、俺の知っている女子高校生……現大学生であるはずの高賀藤子だった。
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