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1年後の冬。
妹が生まれた、名前はラナだ。
母は彼女を抱きしめながら、柔らかく微笑んでいた。しかし、その笑顔の奥には、どこか陰りがあるように思えた。
ラナはすくすくと育ち、僕によく懐いてくれていた。
「お兄様、お話しして!」
「お兄様、一緒にお茶を!」
「お兄様! ねえ、お兄様ってば!」
いつも僕の後を追いかけ、無邪気に笑うラナ。
その存在は、少しずつ僕の心の傷を癒してくれていた。
そして、そんな僕たちを見つめる母もまた、優しく微笑んでいた。
……けれど。
最近の母は、ときおり苦しそうに胸元を押さえることがあった。
「母上、大丈夫ですか?」
「ええ、少し疲れただけよ」
そう言って笑う母の顔色は、どこか青白かった。
庭を歩くだけで息を切らし、以前のように長く魔法を使うこともなくなっていた。
幼かった僕は、それが何を意味するのか、まだ知らなかった。
「素晴らしいぞ! ラナ、お前はアクエリウス家の誇りだ!」
父上は珍しく声を弾ませていた。
その顔には、僕が一度も向けられたことのない喜びが浮かんでいた。
僕は思わず一歩、前に出かけた。
……けれど、父上の視線が僕に向くことはなかった。
その瞳は、才能に選ばれた妹だけを見つめていた。
そこにあったのは、かつて僕が欲しかった眼差しだった。
「あなた……」
母の呼びかけに、父上の視線が一瞬だけこちらに向いた。
……だが、それはすぐに逸らされた。
「ああ……すまない」
その返事は、ほんのわずかに遅れたように感じた。
けれど――
その違和感は、胸の奥に小さく残り続けた。
そして、まるでそれをなぞるように――
母は、病に倒れた。
ーーコンコンコン
「失礼します母上、お体の方は大丈夫なのですか?」
扉を開くとそこには、ベットの上で微笑む母がいた。
「ええ。アレンいつもありがとう、さぁこっちに来て」
僕は母のそばに座り、その手をそっと握った。
細く、冷たい手だった。
昔は僕の頭を撫でてくれたその手が、今は壊れてしまいそうなほど頼りなく思えた。
「そんな顔をしないで、アレン」
母は弱々しく笑った。
「あなたが来てくれるだけで、私は嬉しいのよ」
胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。
そんなことを思っていると、勢いよく扉が開かれた。
「お母様遊びにきたよ!あぁ〜、お兄様だけずるーい!」
僕と母は顔を見合わせふっと笑ってしまった。
それからラナ含め3人で楽しいひと時を過ごした。
「お母様!私ね、お母様もお父様もお兄様も家にいるみーんな大好きよ!」
「そうなの? 私もあなたに負けないくらい大好きよ!ふふふ」
ラナの無邪気な言葉に、母は優しく微笑む。
(この時間が永遠に続けばいいのに…)
そんな二人の姿を見ながら、ふとそう思った。
そのとき――
「アレン」
不意に母に名前を呼ばれた。
「なに?」
振り向くと、母はラナを撫でながらいつものように微笑んでいた。
けれど――その瞳だけが、どこか静かで。
「あなたは、きっと自分の道を見つけられるわ」
その声は、どこか遠くへ行ってしまいそうなほど優しかった。
「……うん?」
意味がよく分からず、僕は曖昧に頷いた。
母はそれ以上何も言わず、ただ静かに微笑んでいた。
その朝、屋敷はひどく静かだった。
いつものように母の部屋へ向かうと、扉の前に使用人たちが集まり誰も声を発さず、ただ俯いていた。
嫌な予感がした。
僕は走った
廊下を駆け、母の部屋の扉を開いた。
そこには、眠るように横たわる母の姿があった。
「……母上?」
返事はない。
何度呼んでも、もう二度と。
僕の足から力が抜け、その場に崩れ落ちた。
後ろから、小さな声が聞こえた。
「お兄様……お母様、ねてるの?」
振り返ると、ラナが不安そうに立っていた。
僕は震える身体で立ち上がり、ラナを強く抱きしめた。
「……っ」
言葉にしようとした瞬間、涙が溢れて何も言えなかった。
(僕がしっかりしなきゃ!!)
そう決意しながらも、母のいない世界は、あまりにも冷たかった。
母の死後、父上はさらに人が変わってしまった。
ある日、僕は書斎へと呼び出された。
重厚な机の向こうで、父上は椅子に腰掛けたまま、書類から目も上げずに告げた。
「アレン。今日より、お前は別邸へ移れ」
意味がわからなかった。
「……え?」
「本邸に、お前の居場所はない」
心臓が止まったようだった。
「な、なぜですか……父上。僕が何をしたんですか」
震える声で問いかけても、父上の表情は微動だにしない。
そして、静かに言い放った。
「……何もできぬ者に、ここで生きる価値はない」
頭の中が真っ白になった。
僕は深く頭を下げ、その場を後にした。
扉に手をかけた、そのときだった。
……背後で、父上が何かを呟いた気がした。
振り返っても、父上は俯いたまま動かない。
なぜか胸の奥が、ひどくざわついた。
僕が使用人に連れられ、部屋を出ようとしたときだった。
「いやっ!」
幼い声が響いた。
ラナが涙を浮かべ、僕の腕にしがみついていた。
「お兄様、どこいくの!? やだ、いっちゃやだ!」
胸が張り裂けそうだった。
僕はしゃがみ込み、震えるラナの頭を撫でた。
「……大丈夫だよ、ラナ」
そんなはず、なかったのに。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
本邸から離れた小さな別邸。
冷えた部屋の中で、僕は一人立ち尽くしていた。
母はいない。
父は僕を見ない。
ラナにも、もう自由には会えない。
──僕は、“家族”の中から切り離されたのだ。
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