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僕が別邸に隔離された、あの日から。
父上が僕に会いに来ることは一度もなかった。
使用人たちも必要以上に話しかけることはなく、広い屋敷には静けさだけが満ちていた。
「アレン様、体調はいかがですか?」
食事を運んできてくれる若い使用人の女性だけは、時折こうして声をかけてくれた。
「うん……変わらず、かな」
「何か必要なものがあれば、遠慮なく仰ってくださいね」
その優しさが、かえって胸に痛かった。
「そろそろ戻らなくては……失礼します」
「……うん」
扉が閉まり、また静寂が戻る。
窓の外を見ると、庭の噴水のそばで小さな水しぶきが跳ねた。
「ふっ、また来たのか」
この別邸には、たまに妖精たちが遊びに来る。
今日は水の妖精がくるくると宙を舞いながら、何かを一生懸命伝えていた。
きっと屋敷の出来事や外の話なのだろう。
けれど、今の僕にはどうでもよかった。
妖精が去ったあと、僕は古びた木剣を手に取った。
「……久しぶりに振るか」
庭へ出て、剣を振る。
一振り、二振り、三振り。
身体を動かしている間だけ、余計なことを考えずに済んだ。
(強くならなきゃ)
そうでなければ、僕には何も残らない気がした。
その夜だった。
窓を小さく叩く音がした。
――コツ、コツ。
警戒しながら開けると、そこにいたのはフードを被った小さな影だった。
「……ラナ?」
「しーっ!」
ラナは慌てて口元に指を当てた。
「見つかったら怒られちゃうの!」
思わず笑ってしまった。
ラナは包みを差し出してくる。
「これ、お兄様に」
中にはまだ温かいパンと、小さな焼き菓子が入っていた。
「厨房から……もらってきたの」
「盗んだんじゃないだろうな?」
「ち、違うもん!」
ふくれた顔が、少しだけ懐かしかった。
「お兄様……さみしくない?」
不意の言葉に、胸が詰まった。
僕は少し考えて、笑ってみせた。
「平気だよ」
嘘だった。
ラナは何も言わず、そっと僕の手を握った。
その小さな温もりだけで、目頭が熱くなった。