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【淡路島・荒波祭りの後の夜】
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昼間の戦争のような荒波祭りが終わった夜の淡路島・・・
潮風が山田旅館スイートルームのベランダを心地よく吹き抜けていく・・・
眼下には山田旅館のプライベート・ビーチの砂浜が広がり、花火師たちがせわしなく荒波祭りのフィナーレの花火の準備を整えている、あと三十分もすれば、この海岸から「荒波祭り」のフィナーレの花火が打ち上がる
「あ~・・・いてて・・・ちきしょう」
上半身裸で桜に背中にシップを貼ってもらっているジンがうめいた
クスクス・・・
「いつも穏やかなジンさんがどうして喧嘩祭りの時だけは別人になるのか不思議だわ」
桜は白地に赤い金魚が泳ぐレトロな浴衣を着て、痛がるジンに可愛らしく笑っている、アップに結い上げた髪のおくれ毛が潮風にそよそよと揺れる、黒のハーフパンツ姿のジンが缶ビールを片手に面目ないと頭をポリポリ掻く
「これは男同士の意地の問題なんですよ・・・桜さん」
クスクス
「言っている意味が分かりません」
正宗とは表向き仲良くしているが、ジンにしかわからないことがある、桜を見る正宗の目つきは、明らかにまだ桜に恋をしている、これは同じ女性に恋をしている男にしかわからない、もしかしたら正宗は一生独身かもしれない、自分がいる限り・・・とひそかにジンは思っていた
悪いが正宗がどれだけ良い友人でもこれだけは譲れない、今やジンにとって桜やヨンジュンは自分の命より大切な存在になっていた
ジンは缶ビールを欄干に置き、少し前の事を思い出していた
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「マネジメントコントラクト?」
耳覚えのない言葉にフネも松吉も桜も同時にジンに聞き返した、マネジメントコントラクトの話をジンが持ち出したのは、ヨンジュンが生まれてすぐの頃だった
松吉もフネも今は、ジンがこの旅館に導入した「マネジメントコントラクト=運営委託契約」のおかげで
旅館の「名誉オーナー」として、週に二度だけ顔を出すだけになった、いわば半引退のようなものだ
このマネジメントコントラクトでは、伝統ある旅館の建物・土地・伝統そのものは松吉達が所有して守り続け
格式ある山田旅館代々伝わるおもてなしの精神や「和の心」——これらは一切変えず、ジンが契約したシンガポールの運営団体と外国人スタッフを中心としたオペレーター側が担っている
したがって、今までフネ達の重荷になってきた、スタッフの補充、予約管理、清掃員、仕入れや原価コントロールなど経営の細かいことはシンガポールチームに任せ、要するに金の管理だけをしていれば良いということだ
さらにジンはインバウンド需要で、これからの観光客を何から何まで世話をしないといけない、高齢の日本人より、アプリ操作やセルフサービスが定着している海外の人に目を向けるようにもアドバイスした
今では山田旅館は少し浅黒の肌に彫の深い顔だちのシンガポール生まれの従業員達が働き、受付もタッチパネルと自動精算機を導入することにより素晴らしい人件費削減になり、以前よりも旅館は活発に便利になっていった
そして長年旅館に縛られてきたフネと松吉も、肩の力が少しずつ抜けていくのが桜にも見てとれた
「パパもママたちもジンさんのおかげで変わったわ」
桜はぽつりと言った
「どんなふうに?」
「なんか……軽くなったって感じ、ママも着物じゃなくてジーンズで旅館の中を歩いてたりするし、今もヨンジュンをさらったきり返してくれないし、きっとまた町の人に(ヨンジュン自慢)をしに行ってるんだわ」
「そのおかげで僕達はこうしてイチャイチャできるわけだな」
ジンが桜の胸を優しく撫でて首筋にキスをする
「あん・・・ダメですよ、花火を見ないと」
「僕の代わりに君が見て」
フネが本当に変わったのは旅館の帳場から離れてからだ、今のフネの一番の仕事は、ヨンジュンと過ごすことだった、朝の離乳食、昼寝の添い寝、夕方の砂浜散歩・・・女将として三十年間封じ込めてきた、ただの「おばあちゃん」が、今頃になって伸び伸びと息をしているようだった
「一か月のうち、半分をここで過ごすって最初はどうなるかと思ったけど・・・」
桜は海を見ながら言った、そのぴったり後ろにジンがまるで馬の交尾のように張り付いている
もうすぐ花火が上がる、ベランダの手すりに両肘をついてうっとりとロマンテックに浸っている桜に比べて後ろのジンはすっかり興奮して鼻息荒く、桜の後ろでいろいろしている
「今はこれが当たり前になってきました、月の半分は子育てと大阪の仕事をして、そしてここに帰ってきて、ヨンジュンをお母さんに預けて、ジンさんと二人でこうして海を見て——」
「最高じゃないか」
桜は少し間を置いてから、浴衣の前合わせの隙間から股間に手を滑りこませようとしているジンの手をペシッっと叩いた、途端にジンの手が引っ込み、今は優しく桜の肩や背中を撫でながら許してもらえるのを待っている、まだもう少しロマンティックに浸りたい、体を合わせるのはその後でいい
「私、すごく幸せよ」
「僕もだよ」
その時、ドンと腹に響く音がした、夜空に大輪の金色の花が咲き、ジンと桜の顔も金色に反射した、光が海面に映り、旅館の白い壁を金色に染める
続いて赤、青、白——色とりどりの花が夜空に次々と開いていく
この美しい花火をヨンジュンも父と母の腕に抱かれてどこかで見ているのだろう
桜は夫の腕の中で、夜空を見上げた
偽装国際結婚から始まった恋は、今では一つの小さな命が誕生し、こんなにも多くのものを変えてしまった、旅館の未来も、父の笑顔も、母の肩の荷も、そして自分達の生き方も—
夜空にまた花が開いた赤、金、白
「来年も再来年もこうしてここで君と花火を見ていたいな」
フフッ
「その時はもう一人増えてたりして」
「なんと!それは良い考えだ」
「まぁ!冗談ですよ」
「僕は真剣だよ」
クスクス
「すぐ出来そうですね」
夜空にまたドンと光の花が開く、赤、金、白・・・花火は、まだしばらく続いたがもう二人はもう唇を重ねることに忙しくてそれどころでは無くなった
そしてジンが優しく桜の頬にキスをして言った
「それでは、さっそく今から取りかかろう」
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【完】
コメント
9件
星様完結おめでとうございます㊗️一時はもう続きは読めないのではと諦めましたが縁があってこちらで最後まで2人を見届けられ嬉しいです😆ありがとうございました😊
偽装結婚から始まった2人、今ではお互いが唯一の存在になって幸せに💕 みーんな幸せになったハッピーエンド✨️私もハッピーを貰いましたー🙌 更新楽しみにしていたので、終わってしまって寂しいです🥹次作も楽しみにしてます💕 素敵な作品ありがとうごさいました (*´˘`*)
はぁぁぁぁ💓 うっとりするエンディング✨️✨️ 2人目でも3人目でもこのファミリーなら大丈夫ね😄👍 やっぱりジンさんはデキる男だなぁ🤩 みんながハッピーでめでたしめでたし🙌 浜やん🥸にも最大級の敬意とお礼、拍手を贈りたいです🙇 美人のロシアンワイフとお幸せに☺️💓 そしてSpecial Thanks to奈々ちゃん😊
n217(エヌ・ニイナ)
#アラスター