私は爆音の流れる会場に足を踏み入れ、バーカウンターへ向かった。
通常の収容人数が五十人くらいの小さなライブハウスは、私と光貴の青春時代を過ごした想い出の場所。初めてのライブもここを利用した。RBのコピーと下手なオリジナル曲を披露した初ライブ。
お客様は身内ばかりで、緊張に包まれた私と光貴を盛り上げてくれた。
上手だったという友人のお世辞を真に受けたお陰で、夢を追ってバンド活動を長く続けてしまったのだ。現実をもっと早くに見るべきだったが、ずるずると時を過ごしてしまった苦い思い出に想いを馳せていると、私の好きな曲のイントロが流れて来た。
これ、RBの『Sadistic Lovers』!
めっちゃ嬉しい! めっちゃ好きな歌!
私はRBの歌は全部好きだけど、特にお気に入りの曲だからテンションが一気に上がった。
私は白いドレスを靡(なび)かせて、ステージ中央まで駆けて行った。
メロディアスなイントロ、最高!
この曲を歌おうとしているのは、新郎の光貴だった。白いスーツ姿が決まっていて、今日の光貴はめっちゃカッコイイ。
トレードマークのおさるみたいなチリチリ毛は固めてオールバックにしてある。うん、いいなぁ。Sっぽくて好き!
『俺色に染め上げた 真っ白なお前
永遠に 愛している
花弁散らした夜 真っ赤に染めて
温もりを 探している』
私のために歌ってくれている。でも……。
ギターは抜群に上手いけど、光貴は相変わらずオンチだった。音の外し具合が天才的。思わず苦笑が漏れた。
私はドレスを捲し上げてステージの上に飛び上がった。
「花嫁乱入!」
光貴からマイクをひったくって続きを自分で歌った。
客席から歓声が上がる。わー、気持ちいいー。やっぱり生のライブはサイコー!
『求めるまま応えるお前は いつしか壊れゆくだろう
解っているのに 止められない
黒い髪を撫で お前に銀刀(ナイフ)突き立てる
俺は狂気
Sadistic Lovers
行く先は地獄
Sadistic Lovers
止められない 止まらない
Sadistic Lovers
殺られるのは俺
Sadistic Lovers!』
私もそんなに歌が上手いわけじゃないけれど、光貴よりは百倍マシだと思う。
あぁー。白斗に歌って欲しい。結婚式のお祝いに歌ってくれないかな。私のためだけに。
今夜だけは、お前に聴かせるだけのライブだ――なんて、キャー!
考えただけで興奮しちゃう。どの曲を歌ってもらおうかな。RBの曲はどれも好きだから、全部かな。
Desireもいいし、LairもImitation Love……あぁっ、一曲だけなんて選べない!
脳内乙女モードになっていたら次のセクションで出遅れた。慌てて続きを歌う。ギャラリーを盛り上げて誤魔化した。
ライブ経験は豊富にあるから盛り上げるのはお手のもの。
二番の歌が終わるとすぐにギターソロになるから、ステージの中央を光貴へと譲った。
ギターソロは、RBなら剣(つるぎ)がギターを弾く。今はコピーだから光貴が持ち前の腕を披露する。剣より光貴の方がギター巧い。
味のある光貴にしか出せない音でギターを奏でるから。
ギターソロのリフやメロディーは滑らかで、繊細かと思ったら大胆で、テクニックもあるけど、ひけらかさない丁度良い所で弾くから絶妙。パフォーマンスも巧い。ギターを持たせたら天下一品の男。
光貴の足を引っ張るメンバーじゃなくてもっと凄腕のメンバーに恵まれてたら、メジャーで活躍する夢が叶ったかもしれない。どんどん有名になって私と結婚しない未来が広がっていたかもしれない。
ごめん。
私が光貴の夢を潰してしまったんだと、彼が楽しそうにライブをする度に思う。
そんなことないよ、実力不足だったと言ってくれるけれど、罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。
だからプロポーズが疑問形でつまらないものでも、漫画やゲームの乙女みたいに甘く愛されるのは無縁でも、諦めるよ。
ゲームの世界ならイケメンがハスキーボイスで囁いてくれる。たまにそれで勝手にキュンをチャージしておく。光貴に無理は言わないから。
だからこれだけは自信をもって言える。光貴のことはずっと大事にする。
だから光貴も私のことをずっと大切にしてね。
二人で仲良く、年を重ねていこう――
そんな風に思っていたあの頃の私は、本当に子供だった。
光貴への愛情をはき違えて結婚するなんて、取り返しのつかないことをしてしまった。
でも、それが間違いだと気付いてしまった。
――彼を、愛してしまったから。
死ぬ程恋焦がれて一人の男性を心から愛することを、
あの頃の私はまだ知らなかっただけ――
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