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「なるほどゴツい大男ねぇ……」
移動しながら、ネフテリアはハーガリアンから話を聞いていた。
あの後、ムームーがパフィの威を借りて、レジスタンス達から計画を聞き出していた。すっかり怯えていたレジスタンス達は、ムームーからの質問に被せる勢いで、早口で答えていたのである。
そうして得た情報をハーガリアンが簡易的にまとめ、目を覚ましたネフテリアに共有しているのだ。
「ツインテール派には心当たりがなかったらしいので、ツーサイドアップ派の過激派かレジスタンスが何か仕掛けたのではないか……と私は考えております」
「分かったわ。ありがとうハーガリアンさん」
「いえ、滅相も…ございません……」
王女に礼を言われて目を泳がせる厳つい初老の男。その反応はどう見ても照れているのではなく、明らかに困り果てている。
「さて、捕まえたレジスタンスはありがたく有効活用させてもらいましょう」
ネフテリアは真面目な顔でそう言った。だが、
「あの、あんまり真面目顔にならないでくれます? 笑いそうになるんで」
「そこうるさい! だったらせめてコレ解け!」
その王女は糸で頭以外をグルグル巻きにされ、釣られた状態でレジスタンス達に運ばれている最中だった。勿論、糸はムームーのものである。
「この状況、わたくしが蛮族に掴まって食料か生贄に捧げられる図に見えない?」
『ぶふっ』
「ほら全員笑いやがった! もうちょっと丁重に扱いなさいよおっ!」
グルグル巻きで釣られて運ばれているネフテリアが捕まえた側で、そのネフテリアを笑いながら運んでいるレジスタンスが捕まった側である。間違えてはいけない。
「だってテリア、まだまともに立てないのよ?」
「誰のせいよ誰の! まだピリピリしてるんだからねっ」
ネフテリアの後ろにある小さな囲いの中で、パフィ、ムームー、アリエッタが寛いでいる。
そのパフィがレジスタンス達にネフテリアを運べと命じたのだが、そのレジスタンスが王女様に触れるなど恐れ多いと言って腰が引けていたので、仕方なしとばかりにムームーがネフテリアをグルグル巻きにして棒に釣った結果が今である。
これならば大丈夫と、多数のレジスタンスがアーマメントを組み合わせて運ぶ道具を形作り、ネフテリアを担ぎ上げて街中を闊歩し始めたのだ。そんな事をすればひたすら目立つ。
コロニーの住民達は怖くて近寄れないものの、あれは何だと話している。
「ねぇあのお姉ちゃん、虫みたいに釣られてるよ?」
「しっ、見ちゃいけません」
「なんかの祭か?」
「魔王復活の生贄かねぇ?」
「ははは、それいいな」
(頼むからもうちょっと小声で聞こえないように話してくんないかな!? 全部聞こえてるよ!)
不本意極まりない話題で盛り上がられて恥ずかしいので、何かで気を紛らわそうとネフテリアが口を開こうとしたが、ここでパフィがレジスタンス達に命じた。
「貴方達、もっと声を張り上げるのよ。ほら元気よく!」
『応っ!!』
「おいこらパフィ! 何言って──」
『わっせい! わっせい!』
ネフテリアの苦情は、男達の掛け声によってかき消された。それによって、住民達の視線はネフテリアからレジスタンスに移動する。
「なんだ祭か」
「おういいぞーもっとやれー」
「魔王復活祭かー?」
「違うけど、もういいよ……」
気楽な声援に、ネフテリアはガックリと諦めた。そのまま後ろを振り返る。
そこにはテンションが上がって楽しそうな少女の姿があった。
「わっせいわっせい!」(なるほど今日はお祭りか!)
「わっせいわっせい~かわいいのよーうふふ」
「あはは……」
相変わらずの溺愛っぷりを見せるパフィと、そのノリについていけないムームーを見てなんとなく癒された気分になり、この後の事は到着してから考えようと決めたのだった。
「ふぅ、まぁいざとなったら、まるっと壊滅させちゃえば問題ないか」
優しい笑顔になったその口から魔王女に相応しい呟きが聞こえ、ハーガリアンはタラリと汗を流す事しかできなかった。
一方ピアーニャ達も、ツーサイドアップ派の施設内で情報を整理していた。
「ツインテールはのレジスタンスのシンヘイキなぁ」
「ええ、レジスタンスは色々な派閥が集まっているはずです。でしたら、手柄を取る為に焦る者がいてもおかしくありません」
「それはまぁ、そうなんだが……」
爆破を阻止した人物の情報が少なすぎて、憶測しか出来ていない。
「いっそツインテール派に聞きに行くとか」
「まぁそれもアリだよな」
「えっ、今から?」
「んー……総長どうします?」
「うむ、いくか」
クォンが唖然としているが、雲を操るピアーニャのフットワークは文字通り雲のように軽い。必要とあらば空を飛び、異世界を駆け巡るのだ。
ミューゼはすっかり慣れているので、ただ大人しくついていくのみ。
「というわけで、アンナイたのむ」
「えっ、あの、何しに行くと?」
「だから、そのオトコらしきモノのジョウホウをききに」
「いまから?」
「いまから」
エンディアはこの勢いに全くついて来れていないようだ。クォンと同じ事を聞いている。
「いやいやいやいや! 相手は結構大きいですよ? ソルジャーギアの一部ですし!」
「えっ」
「いきなり行って戦争なんて事になったら……」
「なんかこまるのか?」
「そりゃあもう……あ、あれ? いつもと変わらないような……」
ツインテール派との全面戦争を想像し、それがいつも通りの光景な事に気づいて、首をかしげてしまった。
隣のフーリエを見るも、何も分かっていないという顔でエンディアを見ている。
「つまりどういう事だ? リーダー」
「なんていうか、このまま流されてブロントに行くのもアリな気がしてきました」
エンディアは瞬時に画策した。目の前のバケモノ幼女がどう出るか分からないが、上手くけしかければツインテール派を壊滅に追い込む事が出来るかもしれない。そうなればこの世界の覇権は握ったも同然。異世界の者達は、その戦闘中に始末してしまえばいい。
もしミューゼ達に知られたら、『成功する気が全くしない所が凄い』と総ツッコミを喰らいそうな計画である。
「おおっ、ついに攻め込むのか?」
「ええ。えっと、戦闘準備したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ハナシをしにいくだけなんだが?」
「えっ」
「えっ」
ツーサイドアップ派の過激派にとってツインテール派との邂逅は、それすなわち開戦の合図である。本拠地となればなおの事。だからこそ、エンディアとフーリエは戦争と勘違いし、準備の許可をピアーニャに求めた。
しかし戦闘の予定は無い。
しかし戦闘だと思ったのは、この2人だけではなかった。
「リーダー! 行きましょう! ツインテールを撲滅し、クォンちゃんを手に入れるんだ!」
「えっ、クォンを?」
壁に埋まったイケメンの尻が言った内容に、最も驚いたのはクォン。何故自分が戦利品扱いなのかという疑問でいっぱいである。
バァン
「そうだ、その通りだ!」
「ん?」
「は? えっ?」
その時、突如扉を開き、多数の男女が部屋に入ってきた。その先頭には見知った顔が立っていた。驚きのあまり、クォンは固まってしまう。
「俺たちのクォンを、いくら美人でもツインテールなんぞに渡すわけにはいかねぇ! クォン戻ってこい! 俺たちが守ってやるから!」
「何でジェクト先輩が!?」
「アイツ、ツーサイドアップはだったのか」
「ああ、それであの時転移の塔にいたんですね」
「ってコトは、ハンニンはアイツかぁ……」
「えっ、ジェクト先輩が爆発の実行犯って事?」
「その通りです。邪魔が入ったお陰で今までバレませんでしたが」
「えぇ……」
クォンをツーサイドアップ派に誘ったからには、遅かれ早かれいつかは分かる事である。なのでエンディアとしては、ジェクトがいる事を隠す気は無かったのだ。ただ治療でいなかっただけで。
「しかもレジスタンス……」
「当然です。貴女が恋人の美女を連れてきて、最も悲しんでいたのですから。異世界のツインテールに取られてしまったと」
「シツレンってやつか」
「はい」
「へ? ジェクト先輩がクォンを?」
「ちょっとリーダー! なに勝手にバラしてくれちゃってるんスか!」
いきなり失恋話を明かされ、赤面しながら叫ぶジェクト。そんな男の秘めた恋心を知ってしまったクォンはというと、
「えっ、やだぁ……」
「そんな汚物を見るような目をしながら引くなよぉっ! 泣くぞチクショウ!」
心底嫌そうであった。どうやらジェクトは頼りになる以上に生理的に受け付けなかったようだ。先輩、涙目である。
「くそーっ、こうなったらあのムームーとかいう女を追い出して、絶対塔を粉々に破壊してやるからな!」
完全にヤケクソである。今更塔を壊したところで、ただ不便になるだけで転移自体は出来るので、あまり意味は無い。だが嫌がらせだけはしてやろうという、酷いフラれ方をした男のしょうもない意地が、そこにはあった。
しかし、それを本人に言ってしまうのは、悪手でしかない。
「ちょっと先輩。クォンとムームーさまの甘い時間を邪魔するのは、どうかと思うんですけど?」
「うるせえ! さっきからずっとそんな目で見やがって! 1回くらいは嫌がらせしねぇと気が済まねぇよ!」
「ふぅーん? そんな事言っちゃうんだ。へー」
ジャキン
クォンに怒りが芽生え、アーマメントを構えた。標的はもちろんジェクト。
そんな珍しい攻撃的な姿を、ピアーニャとミューゼはレジスタンスに出された飲み物を飲みながら眺めていた。
「まぁ、さっきのフラれかたなら、それくらいのイヤガラセはカワイイもんだな」
「殴り合って終わりなら平和ですね。どうします? 出発はこれ終わったらにします?」
「そーだな、そーするか」
人の恋路であり、トラブルにまで引き上げたのは他ならぬクォン自身なので、進んで協力する気は無いようだ。
先程とは打って変わって、のんびり観戦する姿勢になった2人を見て、エンディアはフーリエに戦いの準備をしておくようにと進言した。
するとフーリエが立ち上がり、部屋の隅にいたイケメン達にも声をかける。その時、壁から出ている尻を、しっかりと丹念に撫で回した。色っぽい男の声が突如響いて、ミューゼとクォンが赤面しながらそちらを振り向く。
(アリエッタのお尻撫でたら、可愛い声で鳴いてくれるかな?)
(ムームーさまのお尻って触ったら気持ちいいかな? 後でやんわりとお願いしてみよう)
うら若き2人の乙女は、セクハラをする側なのだった。