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バコオオオオン
『!?』
ソルジャーギアの隣にある建物が吹き飛んだ。突然の爆音に、ファンシーな飾り付けをしていたむさい男達が、何事かと窓に駆け寄る。
「あそこってまさか!」
「間違いない! 接待役の待機所だ! 何があった!」
爆煙が落ち着くと、そこには数名の男女がアーマメントで浮かんでいた。回避や防御が間に合わなかったのか、下には数名がボロボロになって落ちている。そして白い雲に乗った幼女と少女の姿もある。
「って、王女様のお連れのミューゼオラちゃんじゃねーか!」
「あとピアーニャたんも!」
「あそこにクォンもいるぞ!」
「何してるんだ?」
窓に張り付く男達。流石のプロ意識というべきか、しっかりアーマメントを身につけつつ注意深く観察している。
「あそこに今夜の接待役が!」
「本当に何が起こってるんだ?」
その疑問には、真剣な眼差しを向ける少し痩せた男が応えた。
「……おそらく何らかの理由で、鉢合わせしてしまったのでしょう。そして折角だから予行練習としてミューゼオラさんとクォンさんに接待を仕掛けた」
「なるほど。それで何かトラブルが発生した」
「そのようです。何やらジェクトと睨み合っていますし」
『………………』
ジェクトの姿を見た瞬間、全員が察したという顔になった。
「あー、そっちの決着ついちゃったか」
「ですねー」
「結果は見えてたけどな」
「はははは」
「をぅ、お前ら酷いな……」
ジェクトとクォンの関係は、本人達以外には有名だったようだ。建物が吹き飛んだ事はいいのだろうか。
「いやそんな事よりも、今夜の接待役がやられてるんですが」
「……よし、別の接待を急いで考えろ!」
『応っ』
接待役達はあっさりと切り捨てられた。
今夜もミューゼ達はソルジャーギアに宿泊する。その為全員が張り切って、王女一行に接待をしようとしているのだ。イケメン達はその為に雇われたのだが、実はツーサイドアップ派だったという事は、ここにいる者達は知らない。
「きっとあの方達には早かったのでしょう」
「よく考えたら、小さいお子様もいるからな。一番年上っぽいパフィたんも若い。女性だけとはいえ、功を焦り過ぎたな」
「やる前に破綻してよかったです」
一応爆破騒ぎなので、数名のソルジャーギアは警戒と鎮静に当たるが、それを理由に本物の王女様の接待はおろそかには出来ないと、今夜の食事会の準備を進めるのだった。
平和なお隣さんとは違い、こちらは修羅場真っ只中。
「ってぇなクォン! おもっくそぶっ放しやがって!」
「うるさい! ねちっこいしキモい! 頭ブチぬいてクォンの事忘れさせてやる!」
「ちょっと! まだ家賃10回以上残ってたんですけど!」
「ンなことよりこれ弁償どーすんだリーダー!」
その場にいるサイロバクラム人による口喧嘩。それを雲に乗ってジュース片手に眺める異世界人2人。
「ところで総長?」
「なんだ?」
「クォンの武器ってあんな威力でしたっけ?」
「ん? ああ、ネマーチェオンでオマエたちとやりあったトキは、エーテルのホジュウができないとかで、セツヤクせざるをえなかったんだと。いまはホンキョにいて、エーテルのシンパイがないから、ゼンリョクでできるんだ」
「へー。そーなんですね」
「それだけじゃないがな」
「?」
「ところで、あのときのリベンジは……まぁ、やるきないよな?」
「へ? そんな無意味な事やってもアリエッタが泣きますし」
「……よくバルドルのシタにいて、そんなフウになったもんだ」
実はミューゼは対人戦の経験があまり無い。新人だからというのと、アリエッタの世話であまりリージョンシーカーに入り浸らないのが原因である。逆にパフィは以前からバルドルに散々襲われているので、対人接近戦もかなり出来る。
だからといってミューゼが対人に弱いかというとそうでもない。うっかり海で覚醒してしまったその魔力と植物を使って周りの地形ごと変えてしまうので、自分に有利な状況を作る事が出来るのだ。
それにミューゼが対人の特訓に気乗りしないのにも理由はある。
「そもそも武器が雲だったり影だったり食材だったり……対人戦って意味あります?」
「いやまぁそこはケイケンというか、とっさのハンダンリョクをきたえるというか……」
「そこは森とかで経験してますよ」
「そうだな……」
その辺の動物よりも変幻自在で何を武器にするか分からない人々に囲まれ、人に対する特訓と対策の無意味さに打ちのめされていたのだった。だからといって何もしていないわけではないが。
「それにクォンみたいになるのは嫌ですし」
「チッ……」
(この人達一体何したの……?)
頭をチリチリにしながら近くに浮いているエンディアが、2人の会話を聞いて得体のしれないものを感じていた。
そんな話をしている間に、クォンがジェクトに攻撃を仕掛ける。蛇行しながらエーテルガンを使った遠距離射撃だ。
「しねっしねっ!」
「おまっ、一応先輩だぞ俺!」
「うおおおお!」
「聞けよ!」
殺意しか感じないクォンの攻撃。しかし盾のアーマメントを得意とするジェクトには通用しない。
そのジェクトが盾ごしにクォンを捉え、アーマメントの機能でロックオン。そして盾の左右両側から十字型の弾を射出した。
「ほう、あんなアーマメントもあるのか」
十字型の弾は、回転しながらクォンに向かって飛んでいく。
クォンはすぐにエーテルガンで1つを迎撃。もう1つはギリギリで回避した。しかし迎撃した弾は破壊したわけでなく軌道を逸らしただけ。一旦離れたが、そのままUターンして再びクォンに向かっていく。避けた方も当然後ろから再び襲い掛かる。
アーマメントの事を知っているクォンはそれが分かっていたのか、弾が戻ってくるタイミングを予測し、後ろに宙返りをして回避、そのままエーテルガンで再度迎撃。ついでにジェクトも撃った。
「あぶねっ」
ジェクトに嫌がらせをした後は、すぐに腰から伸びるアーマメントを起動。それは鎖状につながった伸縮自在のアームだった。それも2本。
そのうち1本を操り、ジェクトが飛ばした十字型の弾を掴んで止めた。
「あ、くそっ。戻れっ」
慌てて弾を盾に戻そうとするジェクト。1つはすぐに戻ったが、掴まれている方はそのままである。
ならばと、続いて盾から5つのパーツを射出し、近くに浮かべた。
「あのタテ、ベンリだなー」
「1つだと思ったら色々出来るんですね」
のんびり観戦中の2人は、同時に近くにいるエンディアをチラ見した。解説が欲しいようだ。
無駄に殺気を込められた視線に驚き、観念して説明に入るエンディア。レジスタンスがそれでいいのだろうか。
「あの盾は、ソルジャーギアでも『DD』達がよく使うアーマメントで、様々なギミックを組み込む事が出来ます。扱いが難しいので──」
「ウンチクはいらない。あのうかんでるのはなんだ?」
「あぅ……はい。エーテルガンより出力が弱めの弾を連射する、迎撃用のパーツです」
「ほー」
「なにそれ便利~」
(なんでわたくしが異世界人にこんな解説を……)
どういう物か知りたかっただけのピアーニャは、すぐにエンディアへの関心を失った。
タイミングよく、ジェクトがそのパーツを使って攻撃を開始。エーテルの細かい弾丸を広範囲に撃ち、クォンの逃げ場を無くした。バリアを展開し、動けなくなったところに、再度十字型の弾を放ち、背後から撃ち落とす算段である。
しかし、クォンはバリアを展開しなかった。
「っ、やああああ!」
「は?」
2本の鎖状のアーマメントのうち、十字型の弾を掴んでいない方を盾にして、頭からジェクトに向かって飛んだ。頭から突っ込む事で、被弾する面積を減らしつつ、アーマメントで唯一の被弾箇所である頭を守っているのだ。
「おいおいおい!」
慌てて盾に隠れ、飛来するクォンを防ごうとするジェクト。しかしクォンはギリギリで軌道をずらし、浮かんでいるパーツを3個巻き込みながらジェクトの横を通り過ぎた。巻き込まれたパーツは機能を停止し、落下する。
「まさか、当たっても痛いだけとはいえ、あんな特攻をするなんて……」
エンディアはクォンの行動に驚いていた。
普通ならばバリアで耐え、隙をついて反撃する……というのがサイロバクラムでの基本戦術である。
「また思い切った方法を……総長」
「ふっ、そのとおり。クォンはわちがそだてた」
「デスヨネー」
(もうやだ異世界怖い、早く帰ってくれないかなぁ)
避けられない攻撃なら、いっそ意表ごと突き抜けてしまえばいい。そんな戦術はネフテリアと同じく、クォンにもしっかり伝授されていたのだった。
その思い切った戦術に完璧に嵌ってしまったジェクトが慌てて後ろを振り向くが、その時にはすでにクォンがアーマメントを振りかぶっていた。
「返すね先輩っ!」
「うひっ!」
長く伸びたアーマメントによって投げられた十字型の弾は、その持ち主であるジェクトに直撃した。
さらに追撃をかけるべく、腰から伸びる2本のアーマメントを大きく振り、先端を飛ばした。それはジェクトの盾の周りをぐるぐると回り、密着した。
「ん? さっきは暗くてよく分からなかったけど、あれってムームーの?」
「うむ、イトだな」
クォンと投げられたパーツは、ムームーの糸で繋がっている。つまりジェクトの盾は縛られたのだ。
「ちょっと待って! それ建物壊したやつ!」
慌てるエンディア。ジェクトを助けようとするツーサイドアップ派数名。
止める間も無くクォンが地上に降り、糸をウィングの射出口に付けて、糸を伝わせるようにエーテルを発射した。
ムームー達アイゼレイル人が出す糸には、燃えやすいという以外にも、魔力を通しやすいという性質がある。燃えやすさと通しやすさは質を変える事である程度調整できるものの、その特徴は完全に無くす事は出来ない。
クォンがムームーから受け取り、アーマメントに仕込んだ糸は、最大限まで魔力を通しやすくしたもの。そんな糸に向かってエーテルを放てば、導火線のように糸を伝い、燃えやすい糸を焼きながら目標に向かって突き進む。
さらに、糸の終着点であるアーマメントのパーツには、糸がぎっしり詰まっている。高出力のエーテル弾がそんなパーツに着弾すると……
どおおおおおん
『ギャーーーース!!』
爆発を起こし、逃げようとしたジェクト達を思いっきり吹き飛ばした。悲鳴を上げながら遠くに飛んでいった。
「まったく。先輩のくせにムームーさまに嫌がらせしようなんて、嫌になるわ」
「いや、だいたいオマエのせいなんだがな……」
転移の塔の爆破実行犯……痴情のもつれにより撃沈。