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『預言者のメモ④』
期末テストが終われば、生徒も教員も頭の中は夏休みモードである。
どこに行っても”何をして遊ぶのか?”とか”どこに行くのか?”とか、そういう話題で持ちきりである。
俺だってそういう話に花を咲かせたい。
珠奈が実家に帰りたいと言っていたので、スケジュールの調整もしなければならない。
「はぁ……」
それなのに、まだ何一つ話は先に進んでいない。
何気なくスマホを見ると、”また右手の無い遺体が見つかる”というネットニュースの見出しが目に入って心臓が萎縮するような感覚に襲われた。
震える指先でその記事をタップすると、古びた建物の写真とともに”見つかったのは小宮祥太(こみや しょうた)か?”の文字が書かれていた。
(小宮…祥太……)
二人目の犠牲者の名前だ。
(これも……偶然、なのだろうか…)
蛍太には、未来が見える能力でもあるのではないか。などと愚かにも俺は思ってしまった。
そのバカな思考を打ち消すために、記事を読む。
****
近所の住人から異臭がすると通報を受け、警察が廃工場を訪れたところ建物の中に腐敗したバラバラの遺体が発見されました。
警察の調べでは、遺体はK市の別荘地で起こった殺人事件で重要参考人として指名手配されていた小宮祥太(こみや しょうた)さんと見られるとのことでした。
また、この遺体にも右手が無く、霧島唯(きりしま ゆい)さんを殺害した犯人と同一人物の犯行の可能性が高いと警察関係者は話していました。
****
(バラバラの遺体、そこまでする必要あるのか…)
記事を読むと記憶の中で優しく笑う蛍太の顔が、霞む。
蛍太が、遺体を解体するなんて、想像もしたくない。
「ノベセーン!」
「うわっ!!」
その言葉とともに背中を思い切り叩かれ、その衝撃で蛍太の顔が飛んで消える。
「驚き過ぎでしょ」
振り返ると、一人の女子生徒が呆れたような表情を浮かべて立っていた。
「お、大貫(おおぬき)…な、なんか用か?」
「なんか用か?じゃないんだって。ノベセン、授業は?もう始まってるよ?」
「え?うわっ?ごめん!!」
俺は慌てて教科書を掴むと立ち上がる。
チャイムが鳴ったことすら気が付かないとか、なにやってるんだ俺は。
「考え事でもしてたの?夏休みモードに入るのは早いんじゃない?」
「バカ言うな」
言いながら大貫と並んで教室へ向かう。
「それとも、右手の無い事件のことでも考えてた?」
「うえぇ!?」
「うえぇってなに」
大貫はケラケラと楽しそうに笑う。
「ミステリー好きなノベセンなら興味津々じゃないの?」
「俺はそんな不謹慎な奴じゃない」
「だといいんだけど」
大貫は俺の顔を覗き込んできたので、俺は慌てて目をそらす。
「ほら、教室着いたぞ。座れ」
「はーい」
「あ〜すまん、遅くなった」
俺は一通り生徒たちにイジられてから、授業を始めた。
***
「ねぇねぇ、実際のところノベセンはどう思ってるの?あの事件」
授業が終わるや否や大貫とその友人の市井(いちい)が俺のところに来て、そんなことを尋ねてきた。
「あのなぁ、それは軽々しく口にしていい話題じゃないだろ」
「でも、気になるじゃん。私たちの周りで人が何人も死んでるんだよ?」
「梨々花(りりか)の言う通り。このままだと誰か巻き込まれそうじゃん」
「市井、お前まで物騒なこと言うなよ」
俺が口を「への字」に曲げると、大貫と市井は互いに顔を見合わせる。
「SNSだと、霧島唯は菊原親子を殺した犯人なんじゃないかとか、小宮祥太は自分の選手生命を断った同級生に復讐したんじゃないかっていう話で持ちきりなのに」
「そ、それ本当なのか?」
「あ、食いついた」
大貫がニヤニヤ笑いながら言う。
「う、うるさいな。だが、そういう根も葉も無い情報を鵜呑みにするのはどうかと思うぞ」
「いやぁこれが実は本当なんだなぁ」
市井はそう言ってスマホの画面を見せてきた。
そこには、SNSの書き込みのまとめサイトが表示されていた。
「菊原親子の隣の部屋に住んでた人の通報で警察が動き出して、何度か事情聴取を受けたっていう書き込みとか、小宮祥太と同じ中学校だった人の書き込みとかあるから信憑性は高いんだなぁ」
「大西茂が犯人!なんて書き込みもあるんだよ」
「おおにししげるって誰だっけ?」
「あれ、いっちー、ハムおじさんの本名知らないの?」
「初耳〜」
俺はそこに、蛍太の名前が無いかつい探してしまった。
いや、さすがに無い、よな。
「ノベセン、目が怖いって」
「……あ、ああ、悪い」
俺が身を引いた瞬間、チャイムが鳴った。
「ノベセン、次の授業は?」
「あ、やばっ!!」
次は1年生だった。
俺が急いで教室を出ると、背後から大貫と市井の楽しそうな「ノベセン急げぇ〜!」の声が聞こえてきた。
(くっそ、あいつら……!)
楽しそうに話すな、と説教したいところではあるが、俺の心の中にあるのも恐怖心より好奇心の方が勝っていたのは事実である。
不穏な事件が起きていて、人がすでに亡くなっているというのに。
(楽しんでる場合じゃないだろ……人が死んでるんだぞ)
そう自分に言い聞かせて、一回大きく深呼吸すると1年生の教室に入った。
「ノベセーン!まだ夏休み始まってないよ〜」
「わかってるって!」
「あ!ノベセン!あの右手が無い事件さぁ」
「はいはい!気になるのはわかったから!授業するぞ!」
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羽海汐遠
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コメント
2件
**美月ゆめか🌸の感想** わあ、めっちゃ気になる展開になってきたね〜!!😭✨ 蛍太くんの「未来が見える」って思考、ノベセンが必死に打ち消そうとしてるの切ない……でも記事の内容がまさに予言通りでゾッとしたよ💦 大貫と市井の軽いノリと事件のシリアスさのギャップがリアルで、高校生の日常ってこんな感じだよな〜って共感した!「ノベセン急げぇ〜!」の掛け声、思わず笑っちゃった🤣 でもSNSで蛍太の名前がないか探すノベセンの心理描写がすごく生々しくて、続きがマジで気になる……!!次が待ち遠しいよ🌸