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北斗は、自室でスタッフと一緒に本を読んでいた。
「その明くる日もごんは、くりを持って…兵十の家へ出かけました。兵十は……」
「ものおき、と読みますよ」
「物置でなわをなっていました。それでごんは……。せんせ、つかれた」
スタッフは困って眉尻を下げる。まだ本を読み始めて数分しか経っていない。
「それじゃあ、戻ってきてからまた続きにしましょう」
「はーい」
明るい返事を残し、北斗は部屋を出る。向かったのは多目的ルームだ。今日は、みんなと遊びたい気分なのだった。
1階へ下りると、案の定いつもの4人はテーブルを囲んでいる。と、思ったが。
「…あ」
その片隅に、大我を見つけた。会話には加わっていないけれど。
「お、北斗くん! こっちおいで、お喋りしよう」
やってきた北斗に気づいたジェシーが呼ぶ。北斗は、樹の隣に腰掛けた。
「みんな来たことだし、ボードゲームでもする?」
慎太郎の提案に、高地が「いいね」と笑う。北斗の表情も緩む。
慎太郎がボードゲームの箱を膝に載せて戻ってくると、樹が立ち上がる。向かった先は、大我のところだ。来たはいいものの近寄ってこない彼を心配していた。スマホを取り出し、文を入力する。
『みんなで一緒に遊ばない?』
大我はちょっと苦笑いしたのち、首を横に振った。それから、「ありがとう」の手話をする。樹は笑みを残して、5人の輪に戻った。
「大我くん、来ないって?」
ジェシーが訊く。うん、とうなずいた。
「そっか。でもいつかでいいよね」
5人はゲームを始める。慎太郎が高地のために実況をして、樹がジェシーの駒を動かしている。
5者5様に笑いながら進めていると、思い出したように高地が口を開く。
「そういえば、こないだスタッフさんが『来月の夏休み旅行、花火大会かも』って言ってたよ」
クラリティでは、夏休み期間に希望者で出かける行事がある。大我は行ったことがなく、北斗にとっては初めてだ。
「花火?」
北斗がくいっと首を傾げた。
「うん。北斗くん、見たことある?」
「ない」
そっか、と慎太郎が笑った。「じゃあ楽しみだね」
「花火ってなあに?」
んー、と慎太郎と高地が揃ってうなる。
「空にでっかい花が咲くんだよ。ドーン!っておっきな音で」
ジェシーのそのダイナミックな説明を聞いた北斗の笑みが消える。「おっきい音、いや…」
「ああ、そうなんだ。じゃあスタッフさんに言ったほうがいいかな」
慎太郎が言う。
うつむいてしまった北斗の背中を、樹がとんとんと叩く。まるであやすように優しい手つきだった。
そのとき。大我が静かに立ち上がり、北斗のもとにやってくる。
『耳当て、貸してあげるよ』
北斗は何のことか理解できていなかったが、「良かったじゃん! きっと耳当てがあれば怖くないよ」というジェシーの言葉で、「ありがとう」と大我に伝えた。
大我は微笑み、座っていた席に戻っていく。
4人は顔を見合わせて笑い合った。初めて2人の会話を見て、嬉しいのだ。
今まで完全に重なり合うことはなかった6人それぞれのピースが、確かに繋がろうとしていた。
続く