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#創作
こと
29
#第3回テノコン
ひなーびぃ@続編連載中✌️
15,426
第5話:遠藤の尋問と、独占欲
トタン屋根を激しく叩く雨音が、一瞬で遠のいたかのように錯覚するほどの静寂。
蹴破られた扉の向こうから現れた遠藤蓮は、一歩、また一歩とコンテナの奥へ足を進めた。
ずぶ濡れの黒髪から滴る水滴が、彼の美しいフェイスラインを伝って床に落ちる。冷たい三白眼はいつも以上に鋭利で、まるで触れるものすべてを切り裂きそうなほど尖っていた。
「先輩、僕の後ろに……っ!」
浅雛が咄嗟に律を庇おうと前に出た。だが、遠藤の動きは圧倒的に速かった。
遠藤は浅雛の突き出した腕を鮮やかに巻き込むと、そのまま彼の巨体をコンテナの床に叩きつけた。鈍い音が響き、浅雛の手首にチャキリと冷たい手錠が嵌められる。「がはっ……!? クソッ、離せ……!」「公務執行妨害、および犯人蔵匿(ぞうとく)の罪で現行犯逮捕だ。大人しくしてろ、ガキ」
遠藤は床に這いつくばる浅雛を一瞥もせず、ただ静かに立ち上がった。その視線は、部屋の奥で微動だにせず佇む律だけに向けられている。
彼の目が、律の肩に引っ掛けられた大きなメンズパーカーに留まった。浅雛の体温と香りが残る、明らかにサイズ違いの服。それを見た瞬間、遠藤の端正な眉が不快そうにピクリと跳ね、瞳の奥に狂暴なまでの光が宿った。
「さて――お前が次の中毒性物質を俺の目に吹きかけないか、まずは安全確認をさせてもらうか、氷室」
遠藤が長い脚を踏み出し、律との距離をゼロにする。
律は背後の壁に背中を押し付けられた。逃げ場はない。遠藤は律の頭の横にドン、と力強く手を突き、退路を完全に断った。いわゆる壁ドンの体勢だ。
すぐ目の前に、息が触れ合うほどの近さで、あの国宝級の美貌がある。濡れた長い睫毛の隙間から、射抜くような視線が律の瞳の奥をじっと見つめていた。衣服から漂う泥臭い煙草の香りと雨の匂いが、律のパーソナルスペースを容赦なく侵食していく。
「現在の心拍数を当ててみようか。一分間に百二十回、いや、もっと行ってるか?」
遠藤は低く、地を這うような色気のある声で囁いた。彼の薄い唇が、律の耳元のすぐ近くで動く。
しかし、律は衣服の擦れる音の合間で、自分の内なる鼓動を冷静にカウントしていた。
「残念ですが、私の心拍数は現在七十四。あなたの脅迫行動による防衛本能でわずかに上昇していますが、いたって正常値です。驚くほど論理的(ロジカル)ではない尋問ですね、遠藤刑事」
「口の減らない女だ……。だが、目が泳いでるぞ」
遠藤はふっと冷たく笑うと、律の肩に掛かっていた浅雛のパーカーを、長い指先で乱暴に剥ぎ取った。そのまま床へクズのように投げ捨てる。
「……何をするのですか。現在の私の体温は平時より低く、保温は最優先タスクです」
律が眉をひそめて抗議すると、遠藤は自分の濡れた黒いスーツのジャケットを強引に脱ぎ、律の細い肩にバサリと叩きつけた。
ずっしりとした重み。男物のジャケットは、まだ遠藤の熱い体温が残っており、濃厚な煙草の香りが律の全身を包み込んだ。「あいつの服、似合ってねえよ」
「、、、は?」
遠藤は律の顎をぐいと指先で持ち上げ、強制的に目を合わせにいかせた。
彼の綺麗な指先は冷たいが、触れられた皮膚の奥が熱くなるような不思議な感覚が走る。
「おい、氷室。お前は本当にあのガキを信頼してんのか? そこのパソコンに入ってるデータ、俺たち警察もすでに一部を確保してる。大河内に不正なデータを送ってたアカウントの持ち主は――」
「浅雛、ですね。すでに把握しています」
律の淡々とした返答に、遠藤の瞳が驚きに揺れた。床でうめいていた浅雛の身体も、一瞬で強張る。
「分かってて、あいつと逃げたのか? お前をハメた真犯人が、そこの忠犬かもしれないってのに。……そんな不合理な真似、お前らしくないだろ」
遠藤の声に、先ほどまでの冷酷さとは違う、どこか焦れたような、独占欲に似た暗い感情が混じる。
「私は、すべての可能性を検証しているだけです」
律はまっすぐに遠藤の美しい目を見つめ返した。その瞳には、恐怖ではなく、事件の核心を見据える強い意志の光が宿っていた。
「私の脳内にある計算式では、浅雛が真犯人である確率は四七%。そして――」
律は遠藤の胸元を指差した。
「あなたが、私を犯人だと決めつけることで、本当の黒幕から目を逸らされている確率は、九九%です。刑事さん、あなたは私の身体を拘束できても、この事件の真実を拘束することはできません」
至近距離でぶつかり合う、冷徹なロジックと、泥臭い刑事の執念。
遠藤は顎を掴む指の力を少しだけ強め、それから、観念したように不敵な笑みを浮かべた。
「……やっぱり、お前を他の奴らに引き渡すのは、面白くねえな」
その時、コンテナの外で、複数の激しい足音が近づいてくるのが聞こえた。遠藤が呼んだ警察の応援か、それとも――別の『捕食者』だろうか。
コメント
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あおいです🌷 第5話、めちゃくちゃ熱かったです……!壁ドンからの至近距離での心理戦、遠藤刑事の独占欲が滲むような“似合ってねえよ”のセリフに胸がざわつきました。律が「九九%」と論理で切り返すシーンは、知的でかっこよくて鳥肌立ちました。雨の匂いと煙草の香りが立ち込めるような臨場感に引き込まれました!続きが気になりすぎます。