テラーノベル
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うわ、綺麗な内装だな。歩きながらそう思う。日本ではこんな装飾など見ることはできなかっただろう。
「あ、いたいた。君、アンドリュー伯爵家のイアン…だよね?」
不意にかけられた言葉にドキリとする。
「あ、そうですけど、………っ!」
言葉を発してから気づく。まさかの、声をかけてきた人はシャルル・サヴォイアだったのだ。その後ろにはケリー・アラスタンが立っている。
「失礼いたしました。アンドリュー伯爵家のアンドリュー・イアンと申します…。」
「いや、いいよ。堅苦しいのはナシにしよう。ところで、なんで僕が君に声をかけたと思う?」
「えっ、と…?すみませんが、見当がつきません。」
「ははっ、そうだよな!ごめんごめん。」
やけに愛想がいいなと思いつつ、トップに立つ人のオーラに圧倒される。
「いやぁね、滅多にお目にかかれないアンドリュー伯爵家の息子に会ってみたかったんだ。」
(…なるほど。お目にかかれない、か。)
イアンは納得してしまった。確かに、貴族が集まるようなパーティは苦手で自ら出向いたことはないし、社交界にも行ったことがない。
「これは失礼いたしました。」
「いいんだ。僕が勝手に会ってみたかっただけだしね。イアン君は成績もトップ層だって聞いたよ。」
「いえ、そんな恐れ多いことです。」
「遠慮しないでさ。君、弟がいるんだってな。ラファエル君だね。」
「…よくご存じで。」
「知らない人はいないと思うな。ラファエル君って結構表舞台に行ってるでしょ。ご令嬢のなかで専ら噂だよ。」
ラファエル…、父上に連れられて嫌々いろんなところに参加していたな。いつもべったりだったのに、社交界とかの話題は全くしなかった。一度話題にしたことがあるが、『兄さんは知らなくていいコトです。行ってみたいなんて言わないでくださいね?』と言われた。
「…さようですか。」
周りをちらりと見渡すと、王子と会話していることが物珍しいのか、やけに見物人が集まっていた。注目されることが苦手なため、一歩引いて会話を終わらせようとする。
「ああ、待って。きみに話しかけたかったのは本当だけど、別に言いたかったことがあるんだ。」
その言葉に足を止める。
「イアン君、生徒会に興味ない?」
「生徒会…?」
その時、シャルルが生徒会長を2年生ながらに務めていたのを思い出した。しかしこの展開は予想外だ。前世の知識もあり、尚且つこのゲームに出てくる問題はせいぜい中学までの範囲だったため、試験の内容は楽勝だった。入学当初の成績は学年2、3番に収まったそうだが、それだけで生徒会を務められるのか。
「失礼ですが、そのお話…」
お断りさせていただきます、と言おうとした瞬間、シャルルが遮った。
「まあこの話を断るってかなり肝が据わってると思うんだよね。学生は学園内でみんな平等とか言うけど、貴族社会のモラルは守ってもらわないと。僕って一応王族なんだ。」
イアンは冷や汗をかいた。まさか脅しのようなことを言われるとは。
「うん、ゆっくり考えてよ。返事はなるべく早くがいいけどね。」
「…かしこまりました。」
「じゃあね、いい返事を期待してるよ。」
イアンはすぐに踵を返し、早足でその場を去った。目立ちたくないというのに。
(まてよ、ゲームのイアンは生徒会なんてやってたか…?)
思い出す。乙女ゲームにおいて生徒会は必須。しかし生徒会メンバーのイラストを見たことがあるが、イアンらしき人はいなかった。
(時間が経って記憶が衰えたのか、それとも俺が展開を変えてるのか…。いや、やめにしよう。)
イアンは考えるのをやめ、また歩き出した。
「イアンか…。」
シャルルは、アンドリュー・イアンの後ろ姿を眺めて呟いた。
「シャルル様は彼に興味があるのですか?」
「はは、まあね。他の人よりはあったけど、もっと気になっちゃったな。 」
ケリーはシャルルを見て、誰にも聞こえないようため息をついた。次に言う言葉がもう分かったからだ。
「ケリー、僕、彼が欲しいな。」
やはり。こうなったシャルルは面倒くさい。小さな頃からずっと見守っているのだ、考えていることはだいたい分かる。
「ほら、噂が全く当てにならないってわかったろ?」
「ああ、あの噂ですか?」
アンドリュー伯爵家にやってきた養子しか表舞台に顔を出さない。そしてその養子の顔が美しいとなったら、当然実子のほうへも注目が集まる。ラファエルが初めて顔を出したとき、対照的にイアンはどれほど醜い顔をしているのかと噂された。
「黒髪と黒目ってことしか分からなかったから見つけずらいとは思ったけど、あんなに分かりやすいとはね。」
「はい。他の人の髪色と比べて、目立っていましたね。」
明るい髪のなかに紛れる黒。新入生のなかでひときわ目を引いた。
「彼の顔を見たかい?」
にやりと口角を上げてケリーの方へ向き直る。
「下手したら、王室の女どもよりも小綺麗で美しいぞ。」
一瞬ケリーは目を見張らせた。
「それは…、言ってはいけませんよ、シャルル様。」
「事実だろう。」
(まさか、シャルル様がこれほど関心を引き、褒めるとは。今まであり得なかったことだ…。)
揺れる黒髪を思い出し、ケリーは再度イアンが去っていった廊下を眺めた。
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