17 夜桜
「○○ちゃん今日はもういいよ」
『いや、お客さんいますよ?』
「約束、してるんでしょ」
『…ありがとう、ございます、!』
・
前、桜坂公園で深澤先生と見た、桜はもう散ってしまっているだろうか。
先生と見たかった、桜はなくなってしまったのだろうか。
でも、先生と居られるなら、なんでもいい。
・
あたりは真っ暗で、公園についている電気が、先生をキラキラと輝かせていた。
『先生』
「おう、やっほ」
『すいません、遅くなって。』
「いや、俺が誘ったから。ほい」
ほい、と言って先生は私に1本のコーヒー缶を渡した。
もう、忘れてしまったのか。ご褒美。
先生に覚えてもらいたくて、ご褒美は毎回、ミルクティと決めていたのに、
忘れちゃったの?先生。
「ふはっ、そんな顔すんなよ。」
「姫野はこっちだよな?」
『……はい!』
なんだ、笑
覚えてくれてたんじゃん。
ミルクティー。
「前はさ、深澤とよく学校帰りに夜桜見て帰ってたのよ」
『深澤先生ですか?』
「そう、でもあの人辞めちゃったからねー」
『え、!深澤先生辞めたんですか!?』
「家業継ぐ為にね。ボヤーとしてるように見えても、それぞれ抱えてる問題あったりすんだよな」
深澤先生は、いつも笑顔で怒る時だって優しい。
優しくて、穏やかで、きっと彼を嫌い、だという生徒は一人もいないと思う。
あの時だって、悩みなんか、無さそうだったのに、
「大人には色んな事情があんだよな。」
ポツリ、先生が一言呟く。
まだ、自分だけが大人だ、お前はまだ子供、って言われてるみたいで溜息を深呼吸に変えて落ち着かせた。
「綺麗だな。」
『綺麗ですね。』
暗闇に浮かぶ、白い小さな花達。
こんなに、人の心を惹きつける花は、他にない。
『桜、見てると落ち着きます。先生は?』
「落ち着くよ。こんなにゆっくり見たの久しぶりかもな。」
『先生は、忙しいんですよ』
「忙しい、って嫌だな。」
『え?』
「だって、心を亡くす、って書くんだぞ?」
『たしかに、嫌ですね、』
先生はそこまで言って、私の顔を見た。
先生が見つめてくる瞳は、
あの時は見れなかった、あの時とは人目違う、私の目だけを真っ直ぐ見つめて、なにか言いたそうな顔だった。
その顔が、怖かった。
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