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宇津Q
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猫さん
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そして一月の中旬の土日二日間をかけて、その年のセンター試験が行われた。試験が終わった後、晶子は他の受験生と同様に問題用紙一式を持って塾へ行き、講師が読み上げる正解に沿って自己採点を行った。
自己採点のプロセスだけで丸一日を費やした。他の同じ塾に通っている受験生たちは、あるいは晴れやかな顔を、あるいは沈痛な表情を見せていた。
晶子の自己採点の結果は、68%が正解というところだった。晶子の国立大学二次試験と私立大学の受験スケジュールは、二月上旬に都内の私立大学入試、二月下旬に国立大学前期試験で一橋大学、三月上旬に国立大学後期試験でお茶の水女子大を受ける事になっていた。
自己採点の二日後、晶子は塾の講師との面談に臨んだ。中年の講師はやや難しい表情で晶子に言った。
「篠崎さんの場合だと、一橋は正直厳しいですね。足切りがあると危ないかもしれません」
晶子は青ざめた顔で訊いた。
「あたしの点数だと、二次試験は受験できないんでしょうか?」
「そうと決まったわけじゃないですよ。知ってると思いますが、一部の国立大学はセンター試験で一定以上の点数を取っていないと二次試験の出願を受け付けない、いわゆる足切りですね、それをやる可能性はあります。ただ、一橋大学の場合、足切りをする年としない年があります。出願は予定通りしておくべきでしょうね」
「お茶の水の方はどうなんでしょう?」
「篠崎さんは文系の点数はまあまあですから、半々というところですね。私立の方の志望は、文学部日本史学専攻で変わりはないですか?」
「はい、変わっていません」
「なら私立の方は、センター試験の点数は大丈夫でしょう。本試験まで気を抜かないでがんばってください」
その夕方、久しぶりに帰りが一緒になったカンナに晶子が不安を口にすると、カンナは大げさにため息をついて、身もふたもない感想を口にした。
「贅沢な悩みだなあ、おい。私立なら大丈夫そうなんだろ? 何がそんなに不安なんだよ?」
晶子は唇を尖がらせて反論した。
「だって、やっぱり国立に受かりたいじゃない。学費の事で親に苦労かけたくないし」
「私立だって晶子の親なら払えるんだろ?」
「お父さんもお母さんも学費の事は心配するなって言ってくれてるけど……できれば学費が安い国立の方がいいかなって。なんか今までの努力が報われない感じがして」
「あのなあ、晶子」
突然カンナが立ち止まって晶子の肩に手を置いて言った。
「努力が出来るって事自体が恵まれてんだぞ、晶子は」
晶子にはその意味が分からなかった。
「え? カンナ、それどういう事?」
「あたいもそうだけどな、世の中には、大学に行けるかどうかが、オギャーって生まれた瞬間から決まってる人間もいるんだぜ。小学生の頃から高い金払って塾に通ったり、中高一貫の私立学校行けたり、そういうのが努力だってんなら、その努力さえさせてもらえない連中もいるんだ。あたいが住んでる団地の住人なんてそんなのばっかりだぜ」
「そう言えば、カンナも小3の頃には大学進学諦めてたって言ってたね」
「そういう事。貧乏人でも努力すりゃあ報われるなんて世間を知らねえ連中の綺麗ごとだよ。努力なんかしたってどうせ報われねえ、そう思って生きてる奴らだっていっぱいるんだ。いいじゃねえか、もし私立に行く事になってもさ。あたいはそれでも晶子がうらやましいぜ」
いつもの踏切で別れた後、晶子は立ち止まって去って行くカンナの後ろ姿を見つめながら思った。
分譲マンションが立ち並ぶ踏切の、晶子にとっての「こちら側」、カンナが住んでいる公営団地がある踏切の向こう側。こんなに近くにありながら、相容れない二つの違う「世間」。それは個人の努力では決して越えられない境界線なのだろうか?
コメント
1件
晶子の自己採点結果にドキドキしちゃった…。68%って微妙なラインだよね。でもカンナの「努力できること自体が恵まれてる」って言葉が刺さった。踏切の向こう側とこっち側の境界線、考えさせられるな。晶子の不安もわかるし、カンナの現実的な視点も重くて、二人の距離感が切なかった🥀