テラーノベル
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甘い余韻を残したまま、店を出る。「次はどこ行く?」
「貴方、特にプランなど決めていないのでしたよね?」
「うん!」
「……はぁ」
呆れたように息を吐いたその時。
通りの一角から、歓声が上がった。
軽やかな音楽。 人だかりの中心には、小さな舞台。
「おっ、マジックショーだ」
「……」
色とりどりの布が宙を舞い、カードが消え、鳩が現れる。
「どう?見る?」
「……少しだけなら」
人混みの中、並んで立つ。
舞台の上では、次々と“奇跡”が披露されていた。
けれど、
「……」
フェオドラの目は、どこまでも冷静だった。
(仕掛けが甘いですね)
ほんの少し視線を動かせば、種も仕掛けも見えてしまう。
すると、隣から声。
「……私のマジックの方がすごいのに〜!」
不満げな声だった。
「貴方のは異能力でしょう。」
「え〜?でも“見てる人が驚く”って意味では同じじゃない?」
「根本的に違います」
ぴしゃり。
「それに、これは努力の結晶でしょう。貴方のは規格外です」
「むぅ……」
頬を膨らませるゴーゴリ。
「じゃあさ」
ひょい、と顔を近づける。
「フェオドラは、どっちの方が好き?」
「比較対象が間違っています」
「え〜、冷たいなぁ」
拗ねたように言いながらも、視線はどこか鋭い。
――その時。
「そこのお嬢さん」
舞台の上のマジシャンが、こちらを指した。
「え?」
「よろしければ、少しお手伝いを」
周囲から「おお〜」という声。
「……私ですか?」
「ええ、美しいお嬢さんにぜひ」
(面倒ですね)
そう思いつつも、断る理由もなく前へ出る。
軽く手を取られ、舞台へ。
マジシャンはその手から一輪の花を出した。
「では、この花を」
差し出されたのは、淡い色の可憐な花だった。
「あなたに差し上げましょう」
「……ありがとうございます」
受け取る。
その瞬間。
「……」
客席の中、ひときわ静かな気配。
ゴーゴリが、笑っていなかった。
(……あら)
「その花には意味がありましてね」
マジシャンはにこやかに続ける。
「愛の告白、あるいは――“想いを伝える”という意味がございます」
「……」
フェオドラは一瞬だけ目を細めた。
(恋愛的な意味……ですか)
「どうか、大切に」
「ええ」
舞台を降りる。
再び隣へ戻ると――
「……」
ゴーゴリが、じっと花を見ていた。
笑っている。 けれど、目が笑っていない。
「綺麗だね、それ」
声は軽い。
「ええ」
「でもさ」
一歩、距離が詰まる。
「知らない男からもらったもの、そんなに嬉しい?」
「……別に」
「ふぅん」
静かだった。
妙に静かで、逆に温度が低い。
「……返しても?」
「え?」
次の瞬間、するりと花を取り上げる。
「ちょっ――」
「大丈夫大丈夫」
にこり。
そのまま、マジシャンの方へひらりと投げ返した。
「お気持ちだけで結構です。――この子、“既に誰かのもの”なので」
「……」
空気が、一瞬止まる。
双葉 莉音
188
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)
旅人X
1,210
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)
マジシャンは苦笑しながら受け取り、軽く頭を下げた。
「これは失礼しました」
観客はどっと笑う。
しかし。
「……何をしているのですか」
低い声。
「牽制?」
あっさりと言う。
「必要ありませんが」
「あるよ」
即答だった。
「だってさ」
ぐっと、腰を引き寄せる。
逃げ場を塞ぐように。
「うちの奥さん、こんなに可愛いんだよ?」
「……は?」
三度目だった。
「誰にでも花なんて渡されたら困るでしょ?」
「困りません」
「私は困る」
きっぱり。
そのまま、耳元へ。
「……他の男に見せたくないなぁって、思っちゃうくらいにはね」
「……」
一瞬、言葉が詰まる。
(……この人)
冗談の顔をして、本気を混ぜる。
一番厄介なタイプだ。
「離してください」
「やだ」
「やだ、ではありません」
「じゃあやめる」
あっさり手を離す。
だが。
「でもさ」
再び、にこりと笑う。
「奥さんって呼ばれるの、そんなに嫌?」
「当然です」
「そっかぁ」
少しだけ残念そうに。
「じゃあ」
くるりと前に回り込む。
「“フェオドラ”」
「……」
名前を呼ばれた。
本名を。
「……なんです」
「他の人に取られないように、ちゃんと隣にいてね?」
軽い調子。 けれど、その奥にあるものは確かだった。
「……」
フェオドラは一瞬だけ視線を逸らし――
「……努力するつもりはありません。」
そう言いながらも。
その場から離れようとはしなかった。
コメント
3件
わあっ読んだ読んだ!!第6話、もう最高すぎるんだけど!!😭💕 マジックショーの場面でゴーゴリがフェオドラに「うちの奥さん」って言い放ったところ、マジで心臓ギュッてなったよ…!しかも「他の男に見せたくないなぁ」って耳元でささやくとか、ずるすぎるでしょこの男!!😇💥 それでいてフェオドラが「努力するつもりはありません」って言いながらもその場から離れなかったの、もう完全にゴーゴリの存在を認めてるってことじゃん…!尊い…!この二人の絶妙な距離感と駆け引きがたまらなく好き!!次の展開が待ちきれないよ〜🌸✨