テラーノベル
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ステラの真っ直ぐな言葉によって焦燥から目を覚ましたジョシュアは、翌日から人が変わったような神速の冴えを見せていた。
「シエル。強硬派の貴族たちが提出してきた開拓案、その裏にある物流のルートを全て洗い出してくれ。彼らがなぜあれほど強制執行を急ぐのか、その理由(わけ)がそこにあるはずだ」
「御意、殿下。すでにアストリア家の情報網を動かしております。彼らが現地領民の立ち退きを急がせていたのは、鉱山そのものの利益ではなく、裏で計画していた密輸ルートの隠蔽が目的のようです」
生徒会室では、ジョシュアとシエルが目まぐるしく書類を精査し、新たな戦略を組み立てていく。
本来の冷静さを取り戻したジョシュアの指揮は、一寸の無駄もなかった。
そこへ、温かいハーブティーを淹れたステラが静かに歩み寄る。
「ジョシュア様、お兄様。お疲れを癒やすために、こちらをどうぞ。……それと、現地の領民の方々のことで、私からも一つ、ご提案がございますの」
「ステラ、君の意見なら喜んで聞くよ。何かな?」
ジョシュアは先日の頑なな態度が嘘のように、サファイアブルーの瞳を優しく輝かせてステラを見つめた。
「はい。立ち退きに反対している現地の方々は、代々あの土地の豊かな水源を守ってきた民だと聞き及びました。でしたら、無理に追い出すのではなく、国が彼らの水源保護の技術を『国営の管理事業』として正式に雇用してはいかがでしょうか。そうすれば、民は生活の糧と故郷を守れ、国は鉱山開拓による水質汚染を防ぐことができますわ」
ステラの丁寧で理路整然とした提案に、シエルは眼鏡の奥の瞳を丸くし、ジョシュアは深く感嘆したように息を呑んだ。
「……素晴らしいな、ステラ。ただ民を憐れむだけでなく、国の利を損なわずに共存する道を瞬時に見つけるとは。シエル、すぐにステラの案を組み込んだ新しい『王太子特命開拓案』を作成してくれ。明日、強硬派の貴族たちを一網打尽にする」
「了解いたしました。妹ながら、恐ろしいほどの賢妃ぶりですね。殿下、惚気けている時間は一分もありませんので、すぐに仕上げますよ」
シエルがやれやれとペンを走らせる横で、ジョシュアはステラの細い手をそっと握りしめ、その甲に熱いキスを落とした。
「君が僕の隣にいてくれて、本当に良かった。明日は僕たちの完全な勝利だ」
翌日、王宮の御前会議。居並ぶ高位貴族や強硬派の権力者たちを前に、ジョシュアは堂々と壇上に立っていた。
「王太子殿下! 現地の愚民どもなど強制的に排除すれば済む話です! これ以上開拓を遅らせるのは、国の損失でございます!」
強硬派の筆頭である侯爵が、大声を張り上げてジョシュアを急かす。
彼らは裏の密輸ルートが露見する前に、力ずくで土地を奪い取ろうと必死だった。
だが、ジョシュアは冷徹な笑みを浮かべ、手元の書類をパサリと机に投げ出した。
「そう焦るな、侯爵。お前たちがそれほど強制執行を急ぐのは……現地を更地にして、隣国との不法な密輸ルートを完成させたいから、ではないのか?」
「なっ……な、何を根拠に……!」
「根拠ならここにある。アストリア家が掴んだ、お前たちの不正な資金流出の証拠一式だ。――シエル、これを全員に配れ」
シエルが冷淡な手際で証拠の書類を配ると、会議室は一瞬にして静まり返り、強硬派の貴族たちは一斉に顔を青ざめさせた。
「さらに、私は本日付けで『現地領民の水源保護を目的とした国営雇用計画』を発令した。現地民はすでに我が王家の全面的な保護下にあり、彼らに手を出した者は、理由を問わず王家への反逆とみなす」
ジョシュアの圧倒的なカリスマ性と、一切の退路を断つ完璧な二段構えの戦略に、貴族たちは誰一人として反論の言葉を紡げなかった。
「これにて、鉱山開拓は王家直轄で正当に行う。……異論のある者は?」
水を打ったように静まり返る会議室。ジョシュアはサファイアの瞳を鋭く光らせ、自らの実力で、国政の危機を完璧に解決してみせたのだった。
シエルが冷淡な手際で証拠の書類を配ると、会議室は一瞬にして静まり返り、強硬派の貴族たちは一斉に顔を青ざめさせた。
その日の放課後、無事にすべての大仕事を終えた三人は、生徒会室でささやかなお祝いのお茶会を開いていた。
「お見事でしたわ、ジョシュア様、お兄様。これで領民の方々も救われますわね」
ステラが嬉しそうに微笑むと、ジョシュアは深く背もたれに寄りかかり、張り詰めていた緊張を解いてステラの手を引いた。ごく自然に彼女を自分の膝の上へと抱き上げる。
「きゃっ……! ジョ、ジョシュア様!?」
「今回は本当に君のおかげだよ、ステラ。君が僕の隣で間違いを間違いだと正してくれたから、僕は目が覚めた。僕を最も優しく甘やかしてくれるのは、君のその気高き正論だ」
ジョシュアはステラの首元に顔を埋め、あの聖夜に贈ったサファイアのネックレスにそっと触れながら、愛おしそうに囁いた。
「もう……お兄様が見ていらっしゃいますわ」
真っ赤になって助けを求めるステラだったが、傍らに立つシエルは、アストリア家の紋章が刻まれた万年筆を胸のポケットに仕舞いながら、やれやれと首を振った。
「私なら気になさらず。ステラが殿下を正しく導いてくださったおかげで、今回の国政はこれ以上ないほどスムーズに片付きました。それほどまでに大きな功績を上げたのですから、どうぞそのまま妹を存分に労ってあげてください」
「ありがとう、シエル。そう言ってもらえると助かる。……今回の逆転劇がこれほど見事に決まったのは、君という最高の右腕が、僕を支えて動いてくれたからだ。いつも本当に感謝している」
ジョシュアが真っ直ぐにサファイアの瞳を向けて心からの感謝を伝えると、褒められ慣れていないシエルは一瞬だけ驚いたように目を見張った。
「っ……、主君からそのように仰っていただけるとは、補佐官冥利に尽きます。……ですが、感謝の言葉の割には、妹を抱きしめる腕の力が強くなっておられませんか」
眼鏡の奥の瞳を僅かに揺らし、シエルはこほんと一つ咳払いをした。
「……これ以上ここにいては、殿下の当てつけのような甘さに私の胃が持ちそうにありません。私は、次の会議の資料をまとめに……、その、退出、させていただきます。……ステラ、あまり殿下に甘やかされすぎるなよ」
いつもは冷静沈着で理路整然と話すシエルが、少しだけ言葉を詰まらせ、耳をほんのり赤くしながら、逃げるように生徒会室を後にした。
「シエルまで……もう……」
部屋に残されたのは、完全に二人きり。
「シエルも気が利くね。 では、お言葉に甘えて……」
ジョシュアは悪戯っぽく微笑むと、ステラのふっくらとした唇に、甘く、深いご褒美のキスを落とすのだった。
#暴力表現あり
篠原愛紀
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コメント
1件
いやー、めっちゃカッコよかった!!ジョシュアがステラの言葉で立ち直ってからの神速の動き、シエルとの連携も完璧で胸熱だったわ。御前会議での「異論のある者は?」のシーンは鳥肌もん。ステラの水源保護案もすごく賢いし、最後の二人の甘い時間にシエルが逃げたのが笑えたw 第9話、完璧な逆転劇だった🔥