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◻︎発覚!



日曜の朝。

「おはよー、コーヒー飲む?」

「うん、ミルク入れて」

「そこはまだ子どもだねぇ。私は仕事行くから、ご飯は父さんに頼んで」

「了解でーす」


旦那は珍しく寝坊をしたようでまだ起きてこない。

今日は私が侑斗にコーヒーを淹れる。


「えっと、新聞は…と、あれ?」


2、3日分の新聞が積み上げられてるテーブルの上。

今日の分を取ろうとした侑斗が何かに気づいた。


「母さん?なんだろ、これ」

「ん、ダイレクトメールじゃないの?最近、健康食品とか多いのよ」

「いや、そんな感じじゃないよ、これっ!」


見てよ、と渡されたその封筒の表書に、赤いハンコが押されていた。


【督促状】


「なに、これ」


宛名は[松村邦夫]。

なんの督促状?


「ね、父さんを起こして聞いてみたら?何かの間違いか詐欺かもしれないし」

「うん、そうだね、詐欺かもね」


2階に上がり、ベッドで丸くなってる旦那を起こす。


「ね、起きて、ちょっと。聞きたいことがあるんだけど」

「ん?あ、寝坊した!ごめん、朝ご飯!」


ガバッと起き上がった。


「朝ご飯はいいから、これ、見て!何か思い当たることある?それとも詐欺か何か?」


督促状と書かれた封筒を、じっと見ている。


「詐欺だよね?」

「いや…」

「じゃ、間違い?中身、確かめようよ、悪質だったら警察に行かないと!」

「違うから、警察はいいから」


旦那の顔色が変わった。

ぎゅっと目を閉じている。


「なんなの?これ、説明して!中、見せて」


封筒を開けようとしたら、バッと取り上げられた。


「侑斗がいないときに話すから。これは間違いだったことにしてくれ」

「どういうこと?」

「頼むから…」


チラッと時計を見た。


「あ!やばい!遅刻しちゃう。帰ってからね、ちゃんと説明してよ」


バタバタと準備をして、仕事に出かける。


「母さん、あれ何だって?」

「あー、なんか間違いみたい、大丈夫よ。じゃ、仕事行くけど、気をつけて帰ってね」

「う、うん、行ってらっしゃい」


車に乗り、仕事へ向かう。

なんだろう?

督促状って、あれだよね?

なんのお金なんだろう?

何か高価な買い物したっけ?


運転しながら考えたけど、思い当たらなかった。

もやもやしてたけど、職場はいつものように慌ただしくて、働いてる間は忘れていられた。

仕事してて良かったと思う。


こんな調子でずっと家にいたら、ストレスがハンパないはず。

仕事にきて動き回っていれば、頭をリセットできる。

この日は、いつも以上に動いた。



仕事から帰ると、侑斗はもう独身寮に帰っていた。

ご飯はちらし寿司とおすましが出来上がっている。


「えっと、とりあえず手を洗ってくるね」


ダイニングテーブルには、あの封筒が置かれて旦那は黙って座っていた。


「ふぅ、疲れた。で、何なの?その封筒は!と言いたいけど先にご飯食べてもいい?」

「え?あ、うん、おすまし、あっためるね」


ちょっとホッとした顔をする旦那。

封筒をよけて、ご飯から先にいただくことにする。

もしも、イヤな話を先に聞いてしまったらせっかくのご飯の味が悪くなりそうな気がして。

そうすると、それはそれで作ってもらってる手前、申し訳ないと思う。

作ってもらったご飯はキチンといただかないといけない。

特に話題もなく、作業のようにもくもくと食べる食事が終わる。


「あー、美味しかった!食器は私が片付けるから、話を聞かせてよ」

「…うん、何から話せばいいんだろ?」

「理由はあとで、結論を先にお願い。それは間違いじゃないのね?」

「うん」

「借金してるんだね?いくら?」

「ざっと500万くらい…」

「そんなに?なんで?何か高価な買い物したの?」


旦那は、お茶の入った湯飲みを両手でぎゅっと握っていた。


「色々なもの…」

「色々?何か買ったっけ?」

「食費とか…」

「えっ!えっ?なんて?ハッキリ言ってよ」


なんだか言いにくそうにモゴモゴ言う旦那に、イラッとしてしまう。


「生活費だよ、いろんな」

「どうして?」


また黙り込む。


「説明してくれないとわからないよ?」


穏やかに聞くことにする。

たまに、この人は子供のようだと 思うことがある。

上手く行ってる時は、ぐいっと強気だけど何かしくじるとシュンとしてしまってうつむく。

こんな時は、責め立てず母親の気分で対応しないと、話してくれなくなるだろう。

それが、長年夫婦としてやってきて私がつかんだこの人との付き合い方だ。



「会社の業績が悪くなって…」

「ん?うん…」

「リストラっていうか、早期退職者を募集してたから…」

「うん…」

「退職した」

「は?え?いつのこと?」

「去年…」


もう一年近くになるということか?


「でも、毎朝仕事行ってたじゃない?」

「日雇いとかバイトとか…。ハローワーク行ってもこの年じゃ、社員なんてなくて」

「まぁ、年齢的にはそうだよね。でも早期退職って会社の理由なんだから、多少の退職金も出たんじゃないの?」

「……」


また黙り込む。

しばらく待つ、待つことが大事!と自分に言い聞かせながら。


「親孝行のつもりで、両親に渡した…」

「……」


今度は私が黙り込む。

言いたいことが一気に込み上げてきて、何から言えばいいのかわからない。




「ちょっと待って!一年くらい前のことなら、まずどうして私に言ってくれなかったの?」

「…言えなかった」

「でも、会社辞めたのに、少しも生活レベルを下げてないよね?」

「…できなかった」

「どうして?そんなに私が信用できないの?」

「……」


ふぅ、とため息をつく旦那。


「僕が洋子を守るって決めてたから!」


いつのまにか、ママが洋子になっている。


「んぁ?なに?どういうこと?」

「結婚する時、約束したでしょ?これからは僕が洋子を守るから結婚してくださいって」


プロポーズの話?


「そんなこと言われた気がする…けど」

「だから!お金のこととかで洋子に心配かけたくなかった。退職金のことは、すぐに次の仕事があると思って考えが甘かった、それは失敗したと思う」

「退職金はね、もういいよ。でもね、そんな状態なら私のパンツのゴムが伸びててもほっといて欲しかったよ、ブラがほつれてても関係ないのに…」

「でも、それは洋子のことはちゃんとしてあげたいと思ったから…」


何か違うと思うけど、どう説明すれば伝わるんだろう?

旦那の話を聞きながら、頭の中では違うことを考えている。


「私、頼んだっけ?」

「なにを?」

「下着まで買ってきてって、頼んだっけ?下着だけじゃないよ、この前買ってくれた犬柄の大きな傘も、通勤用の靴も、頼んではいないよね?だって、まだ使えるものがあるんだから」

「頼まれたわけじゃないよ、僕が買ってあげたかったから買ってきただけだよ」

「そこ!何か違うのはそこだよ!!」


思わず大きな声が出た。

ビクッとする旦那。

わかった気がする。


「あなたは私の世話をやくことで、自分が満足してたんじゃない?やってあげてる感で満たされたかったから、じゃない?」

「だって、それが愛してるってことでしょ?」

「少し、違うと思う。私が病気をして頼りっぱなしだったからそれがよくなかった…ずっと当たり前だとやってもらってて、それが私もラクだったから甘えてた、それがよくなかったんだよね?」


「僕は好きでやってたよ」

「うん、わかる。でも、時々窮屈だったんだよ。あれもこれもやってもらってて贅沢言うなって言われると思うけど…」

「……」

「でもいまは、言わせてもらうね!どうしてお金もないのにそこまでするの?お金がないことを私にも言ってくれなかったの?返せる予定はあるの?」

「……ない。でも、頑張るから!」

「一人で頑張ってなんとか形を作っていても、それは家族じゃないと思うよ?督促状がきてしまって、こっちの方が私が悲しむとは思わなかったの?こうなる前に言って欲しかったよ」

「……だって、洋子に買ってあげたかったから…」

「だ!か!ら!そこが違うって言ってるんでしょ!」


ガタン!

思い切り立ち上がったら椅子が倒れた。


「ごめんね…」


ごめんじゃすまない、心の中で怒鳴った。

気持ちを落ち着かせるために、私はそのまま食器の後片付けを始めた。











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