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◻︎前向きな離婚
どうしようか?
さっきの督促状は、銀行とかではなかった。いわゆるサラ金(いまどき、そんな呼び方はしないみたいだけど)だ。
ということは、利息がとても高いんだろう。
私は自分名義の貯金通帳を見ている。
侑斗が就職する時に、お祝いにと車を買ってあげたから、200万くらいしか残っていない。
あとの我が家の貯金というものは全部旦那に任せていて、よくわからないけど、あの様子ではもうないだろう。
他の家事と同じように任せっぱなしだったことをとても悔やんだ。
私にも責任がある。
旦那ばかりを責めることはできない。
かと言って、実家には頼りたくない。
それは、旦那も同じようだった。
「確認だけど。それ以外のローンはうちにはないよね?」
旦那が出してきた督促状はあと二通あって、全部の合計が500万円くらいだった。
「うん」
運良く?というべきか、家はずっと賃貸だし、車も現金で買ってたから他にはローンはない。
でも…と考えた。
これから二人で返していくのか?と。
ずっとイライラしてたことが、またさらに続くと思ったら、なんだか…頭痛がしてきた。
そういえば最近、体調がよくない。
肩こりもするし、朝の起き抜けは目眩もする。
スマホを出して検索してみた。
[頭痛、イライラ、耳鳴り、めまい、肩こり、汗]
答えは、更年期障害、らしい。
あ、そうか、そうだよね。
順調だった生理も、不規則になってきてるし、年齢からしてもそうだ。
あーー、もう、なんかあれもこれもイヤになってきた。
お風呂に入ろう、ビールでも飲んでさっさと寝てしまおう。
いますぐ解決できないことは、明日考えることにする。
「お風呂、入るね」
声をかけたけど、旦那は督促状を眺めたまま、そこにいた。
「あー、もう、頭痛いよー」
「何言ってるの?いきなり帰ってきて泣き言?」
旦那の督促状の件から2日。
スーパーが休みで、私は実家にやってきた。
旦那は、今日はイベントのガードマンのアルバイトがあるらしくて、朝から出かけて行った。
「誰か友達にでも相談しようと思ったんだけど、みんなパートしてたり介護で大変だったりで、誰もつかまらなかった、トホホ」
「現実にトホホと言う人、初めて見たわ、お母さん」
「じゃあ、ギャフン!」
「それも初めて。じゃなくて、何の話をしにきたの?お母さんもこれでなかなか忙しいのよ。今日も午後からサークルに行くし」
お母さんのサークル、それは、環境に恵まれていない子どものための食事の場を提供するサークル。
「あ、そうだ、これ、使って!」
私はスーパーで売れ残った野菜をたくさん持ってきた。
少しの傷や、ラッピングの破れでも売り物にはならないのだ。
「あらっ!助かるわ、今日はこれで何を作ろうかしら?」
楽しそうに野菜を並べて見ている。
「ねぇ、お母さん、お父さんと喧嘩ってしたことないよね?」
「あら?そう見えてた?」
「うん、見た記憶がないと思う、二人が喧嘩してるとこ」
「まぁね、子どもの前では激しい怒鳴り合いはしないようにしてたわよ、でも、喧嘩はそれなりにあったよ」
「そう?」
「そうよ。お互いに言いたいことが伝わらなくて腹が立つと、黙り込む夫婦だからね、見た目には喧嘩してるってわからなかったかもね」
私は自分で、紅茶を淹れる。
冷蔵庫からレモンを出して輪切りにして皿に乗せた。
「ね、じゃあ今は?今は私もいないから言い合いしてもいいでしょ?」
「今?今はね、距離を置いてるから喧嘩することないわよ」
「距離?夫婦の?」
「そうよ。子供が巣立って夫婦二人になったから、それぞれ好きなことをして過ごそうと話したの。親としての責任ももうなくていいでしょ?」
「そういえば、今日はお父さんも出かけてるの?」
「昨日から二泊で静岡のね、富士山が見えるあたりに句会の集まりで旅行に行ってるよ」
「ほんとに?」
「ほんとって?」
「もしかして、女性と2人きりの旅行だったりして、とか疑ったりしないの?」
紅茶にレモンを入れて砂糖を入れてたお母さんが、あははと笑った。
「あの人がそんなにモテるとは思わないけど。でも、もしもそんな人がいたら、それはそれでよかったなと思うよ。人生あとどれくらい残ってるかわからないでしょ?だったら楽しいことして過ごしてほしいよ」
「そんなもの?」
「そんなもの。それがたとえば家庭の生活を脅かすようなお金の使い方したり、あからさまにそんな旅行をしたら、それは怒るけどね、世間体があるでしょ!って」
「ねぇ、お母さん…」
「なぁに?」
「私、離婚しようかな」
「なにがあったの?」
私は、旦那の借金の話をした。
借金の理由が生活費だったこと、生活のレベルを下げようとしなかったのは、私のためだったこと。
「でもね、私のためと言っても、私が頼んだわけじゃないんだよね」
「ふぅーん…、それが邦夫さんの愛情表現だったのかもしれないけど、それに甘えてた洋子もよくないよね」
「うん、それはわかってるつもり」
「借金を返す宛はあるの?」
「あの人も、実家に頼るつもりはないみたいなんだけど…」
「洋子もそんなつもりはないよね?」
「うん」
そうだねぇ、と考えてる。
「もしかしてだけど。邦夫さん、洋子のてまえ、実家には頼らないと言ってるだけで、本人は頼りたいんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「そんな気がするんだよね、邦夫さんの実家は裕福だし。そのためには離婚したほうがいいかもね」
「やっぱり?」
「ちゃんと、理由があるから聞いて。まず、持ち家じゃないからすぐ引っ越せるでしょ?
子どもはもう独立してるし、他に借金はない。だったら離婚して、邦夫さんも洋子も自由になったほうがいいと思うよ」
「そうだね」
「でも、覚悟しなさい、洋子もこれから一人で生活していくことになるんだから、しっかりしないと!」
ぽん!と背中を叩かれた。
「邦夫さんも、一人になったら我慢せず実家に頼るだろうし、もしも自己破産することになっても、一人の方が楽だと思う。法律のことはよくわからないけどね。今まで窮屈だと言ってた洋子も、気楽になるはずだし。どっちかの不倫が離婚の原因じゃないし。お互い好きだけど距離が近すぎてうまくいってないだけだと思うから」
「…うん」
「離婚してもね、仲良しでいればいいのよ、そんな夫婦がいてもいいと思うよ」
そうか。
そんな考え方もあるか。
ぐちゃぐちゃになってた気持ちが、少しずつ解けていく、そんな感じがした。
前向きな離婚を考えてみることにした。