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アルベドから話してくれるとは思わず、私は目を丸くするしかなかった。
(グランツと、アルベドの関係?)
話してくれることに関してはありがたい。でも、どうして言おうと思ったのか、というか隠していたのかそこも気になって仕方がなかった。けれど、アルベドは別に聞かれなかったから答えなかったという感じで私を見ているし、私が何かを言う理由も何もないと思った。
「矢っ張り、その、アルベドって」
「一つだけ、お前の勘違いを訂正させろ。俺は、ヘウンデウン教の信者でも何でもねえ。お前の敵じゃないことは確かだ」
「信じろって言うの?」
「お前が勝手に考えればいい。俺が、味方なのか、敵なのか。名目上は、皇太子殿下と同盟を組んでいるからな、裏切ることはねえだろう」
と、アルベドは、他人事のように言う。どうしてそんなに冷静なのか、他人事のように言えるのか。アルベドにとって私はどうでもいいのかと思ってしまった。
いいや寧ろ、この場合、アルベドは人の信頼があろうがなかろうがどうでもいいという風にも見えた。それぐらい、アルベドの人からの信頼や、自分が相手を信頼することに関して壁があるのだろうと。前々から、アルベドは孤独を好んでいたし。
そう私は一人で自分の疑問を解決しつつアルベドを見た。
何処か悲しそうに月を見上げるアルベドを見ていると、酷く胸が締め付けられた。アルベドも色々抱えていること、それを思い出したからだ。
「ごめん……」
「何がだよ」
「私は……私は、アンタのこと信用している。信頼している。この世界にきて、アンタだけが私に嘘をつかなかった。嘘ついてもわざとバレるようなそんな馬鹿馬鹿しい嘘。アンタは、嘘が嫌い何でしょ。裏切られるのも、嫌い……だから、一人でいる。そんな感じがしたから……」
私がそう言うと、アルベドはこちらをちらりと見た。
まるで何かを確かめるように、私の方をじっと見つめているのだ。視線が鬱陶しくなって私は咳払いした。
「兎も角、私は別に疑ってるわけじゃないの。アンタが、はぐらかすから白黒はっきりしてって言いたいだけ。アンタ意地悪なんだもん」
「そりゃー悪かったな。癖なもんで」
「直したほうがいいい癖ナンバーワンだと思う。嫌われるわよ」
「へいへい。もうとうの昔から嫌われてるんだよ。俺は」
と、アルベドは自傷気味に笑った。
そんな笑い事じゃないのに、言っていて悲しくないのかとみてやれば、アルベドは何てこと無い顔をしていた。そういう、感覚が麻痺しているのではないかと、つくづく悲しい男だと思う。まあ、そんな男だから、しっかり嘘を混ぜずに話してくれるんだけど。
(リースは、嘘はなくても引き気味で言い渋っていた頃があるし、ブライトは初っぱなから嘘ついたし、グランツもあれで……)
掘り返したら切りが無い。そう思って、考えるのをやめて、アルベドの言葉に耳を傾けることにした。
「それで、いいから続けて」
「おいおい、俺のこと誉めるのはもう終わったのかよ」
「初めから誉めてないのよ」
「いやいや、誉めてただろうが。急に恥ずかしくなったんならいえよ」
アルベドはニヤニヤと笑って私の頬をつついた。地味に痛いからやめて欲しい、と私は彼の手を払う。それでも、アルベドは終始楽しそうだった。攻略キャラの中で、嘘はつかないけれど、こういうしょうも無いちょっかいを掛けてくるのはアルベドだ。そこだけは、あまり好かない。
でも、アルベドが楽しいならそれでいいかと思ってしまう自分がいたのが、驚いた。
(誉めているというか、ただそのまま事実を述べただけなんだけどな……)
何がそんなに嬉しかったのか、私には理解できない。けど、アルベドが嬉しいならまあそれはそれで、いいのかも知れないと思った。私には関係無いし。
「まあ、いいや。あまり戯れてると、巡回にきたやつに見つかっちまうかも知れねえからな」
「そうだった、不法侵入だものね。アンタ」
「だから、人聞き悪いんだよ」
「事実を述べたまで」
はいはい。とアルベドは面倒くさそうに言う。
すっかり忘れていたが、ベランダから勝手に入ってきたのはアルベドだった。そして、皇宮の一室に勝手に侵入してきたのも。私が声を出さないから良いものの、それを巡回している騎士達に見られたらどうなるか。いくら公爵家の人間であるアルベドでもただじゃ済まされないだろう。私が「私が呼びました」なんて言いたくもないし。庇うつもりは毛頭無いから。
そんな風に、アルベドを見れば、近くにあった椅子に腰を下ろして、態度でかく足を組んだ。長い脚は、足を組んでも床につきそうだった。
(スタイルとかはめっちゃいいのよね……さすが、攻略キャラ)
恋愛要素も、乙女ゲーム要素も何処かに行ってしまったため、忘れていたが、ここは乙女ゲームの世界なのだ。攻略キャラに限らず、スタイルも顔もいい人達ばかりなのだ。廻がキラキラしていて、自分が浮いていないか心配になる。エトワールもきれい系だし、別に悪くは無いと思うのだが……攻略キャラを見ていると、もう眼服! とはなる。性格は最悪中の最悪が多いけれど。
「ああ、それで、彼奴と俺の関係だったな」
「そうよ。話がそれすぎて、全然前に進んでないのよ。もう、私も余計なこと言わないから続けて」
「そうだな……そんで、お前は本当に聞くのか?」
「当たり前でしょ。グランツは、アンタのことよっぽど恨んでいたみたいだし、その復讐心って私が思っている以上だった。感情を隠すのが得意だったみたいだから、全く気づかなかったけど……アンタに対しては殺意むき出しだったの。気づいていないとは言わせないから」
と、私が言えば、アルベドは「そうだな」と素直に答えた。
グランツがああなったのは、私だけのせいじゃないかもだけど、このアルベドとグランツの関係を知ることで、どうにかグランツをこちら側に引き戻すことが出来るんじゃ無いかと一縷の希望を掴もうと考えている。
でも、和解したとしても、グランツとアルベドの相性は最悪な気がするし、グランツが戻ってこれば、グランツとブライトの連携があればどうにか敵を一掃できるのでは無いかと思った。後は、リースとアルベドも……悪くは無いと思うけど。
(何か、ゲームみたい)
相性を考えて、敵と戦う。でも、実際そんなに甘くないし、これは命がかかっている。攻略キャラを駒のようには動かせない。
そう考えて、また余計な方向に話がそれていると、私は自分の頬を叩いた。アルベドはそれをじっと見つめ、私がアルベドの方を向くまで待っていた。
「大丈夫。話して。私も、彼と向き合わないといけない気がするから」
裏切られたショックも勿論ある。でも、ちゃんと向き合ってこなかったからこうなったんじゃ無いかと思った。ブライトも、最後までしっかり向き合おうと思ったから、ファウダーのことを話してくれたのだ。だから、きっとグランツを知ることで、グランツと向き合う覚悟が出来ると。
それを感じ取ったのか、アルベドの目つきが変わった。
「分かったよ。そんなに聞きてえって言うなら教えてやる」
と、アルベドは頭をかいた後、深く息を吸って吐いた。
「グランツ・グロリアス……彼奴が、ラジエルダ王国の生き残り、第二皇子って言うのは知ってるよな」
「う、うん。そう言ってた。それで、グランツのお母さんを、アルベドが殺したって……」
ちらりと見ればアルベドは、肯定するように頷いた。
「……矢っ張り、それが原因なの?」
「だろうな」
「だろうなって、アンタ……」
「だが、彼奴が勘違いしてるだけだ。彼奴の母親は、裏切り者だった。そして、改心したように見せかけて、その重圧に耐えられず、心中しようとしていたんだ。お前の騎士は、それに巻き込まれそうだったんだよ。それを助けた……って言ったら聞こえがいいだろうが、彼奴はそう思っていないだろうな」
「……じゃあ、グランツの勘違いって事?」
「まあ、そうだな。でも、殺した事には変わりねえし、恨まれるのも分かる。そういう、汚れ役は、いつも俺だからな」
と、アルベドは言うと、寂しそうな目で私を見た。