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曰く、アルベドは、グランツを逃がしたというのだ。
「その話が本当なら……グランツは勘違いしたまま、アルベドを恨んでるって事?」
「俺も別に話す気はねえし、彼奴の人生の悪役のままでもいいと思ってるからな。恨まれようが関係無い」
アルベドは、他人事のように言った。
本当に興味なさげに言うので、アルベドにとってグランツは取るに足りない存在なのかも知れないと。そして、アルベドの話が本当なら、アルベドは、確実に光側の人間だと思った。やり方は間違っているかも知れないが、こちら側の人間だと。
「……」
「そんな難しい顔すんなよ。俺の話し信じてくれたんなら、俺はそれでいい」
「私が、信じないと思ったの?」
「さあな。お前なら、信じてくれるとは思っていた。でも、お前の大切はあの護衛なんだろ?」
と、アルベドは言うと悲しそうに目を細めた。少しだけその瞳が揺れた気がして私は目を見開く。アルベドは時々悲しそうな顔をするから、何て声をかければ良いか分からなくなってしまう。
(アルベドは、グランツを逃がした。でも、グランツはそれに気づいていなくて、アルベドに母親と兄を殺されたっておもってるっていうわけか……)
グランツの母親は裏切って、その後改心、そして重圧に耐えられずグランツと共に心中しようとしていた。それをグランツは気づかなかった。守られていると勘違いしていた。それで、それを見かねたアルベドがグランツの母親と、ヘウンデウン教に寝返ろうとしていた王太子を殺したと。そういうことらしい。
にわかには信じがたい話だったが、アルベドの話は信じたいと思った。こんな所で嘘をつく人間じゃないし、ついたところで彼に得など無かった。あったとしてもそれは、彼の望むものじゃ無いと思う。
それで、結局グランツは勘違いに勘違いを重ねた結果復讐の鬼となってしまった訳だが、数年の間ずっとその殺意を抱いて生きてきたことになる。アルベドは、何故訂正しなかったのか。
平民落ちしたグランツが貴族のアルベドに話しかけに行くことは難しかっただろうし、アルベドからグランツに話にいくと言うこともあり得ない事だった。だから、放置していたということかも知れない。また、アルベドはグランツを逃したが、生きているとは思っていなかったのかも知れない。どちらにしても、アルベドは、グランツと関わらないようにしていたという風に思えた。
「何で、グランツの話……訂正しなかったの?」
「訂正したところで、彼奴が復讐と殺意にまみれてるんだ。俺の話を聞くわけねえだろ」
「でも、アルベドが可哀相じゃん」
「俺が可哀相?」
アルベドは、不思議だというように首を傾げた。
自分がかわいそうだと思っていないなら、それでもいいけど……と言うか迷ったが、私はその流れのまま話を続けた。
「だって、恨まれ続けるんだよ? それって、可哀相じゃない。アルベドは、グランツを助けたっていうのに、あっちは誤解して、アルベドの事殺そうとしてるんだよ」
殺そうとしているかどうかは分からないが、少なくとも、それに近い形ではある。
グランツがアルベドを見る目を見ていると、こちらの毛が逆立つぐらい恐ろしいものを感じるから。ヘウンデウン教についたから、アルベドを殺す命令とか受けたら本当にそうなってしまうのでは無いかと思った。アルベドは、ラヴァインの問題もあるのに、本当に可哀相だと。
私がそういえば、アルベドは、「そうだな」と顎に手を当てて考えるような仕草を取った。それから、空中に意味のない形を画いた後こちらを見た。
「まあ、俺も俺の願いのために彼奴を逃がしたんだし、そこの所はどうでもいいと思ってるぜ」
「願い?」
「そう、俺にも叶えたい夢があるんだよ。そのピースになると思ったんだ。彼奴を生かせば」
と、アルベドは言ってニヤリと笑った。
彼の事が理解できずに見つめていれば、アルベドはからかうように「穴が空くだろ」と笑ってきた。少しはぐらかされた気になったが、そうべらべらと夢を語るタイプでは無いと思ったため、私も深くは聞かなかった。
(でも、願いのためのピースって言うんだから、相当グランツには期待しているのかも知れない。でも、グランツがあっち側についたことに関して何も言わなかったから……うーん、分かんないけど)
分からないけど、アルベドにとってグランツがヘウンデウン教側でもこちら側でもどちらでもいいのではないかと思った。その理由も分かりかねないけど、アルベドには策があるのだと何となく思った。アルベドの考えることは分からないけれど。
そう思ってアルベドを見るが、余裕そうな顔は、何を考えているか分からなかった。
(……ユニーク魔法を持っているから。そういうことなのかも知れないけど……)
ユニーク魔法を持っている人は数少ないから、そういう意味で、アルベドにとってのピースなのかも知れない。グランツが使える人材なのは確かである。アルベドが何をするか分かったもんじゃないけれど。
「あ、アルベドはさ」
「何だよ。んな、カチコチになって」
「……別にいいでしょ。カチコチでも」
そういえば、アルベドは滅茶苦茶馬鹿にしたように笑ってきた。ダサいなあ、何て小学生が言うような悪口叩いて、私はむかつきながらも、同じレベルにならまいと、咳払いをする。
「アルベドは、そのユニーク魔法使えたりするの?」
「俺か?俺のユニーク魔法の話か?」
「それ以外ないでしょ」
頭湧いてるの? と言いかけてしまったため、私は慌てて口を閉じる。アルベドは、疑い深い目で私を見てきたが、私は首を横に振ってその場を何とか逃れた。
リースもユニーク魔法が使えるとか何とか言っていたし、グランツも魔法を斬ることができる魔法が使える。あの双子はどうかは分からないけど、ブライトは使えないと言っていた。でも、多分攻略キャラだからその内使えるようになるんじゃないかなあという予想の元、アルベドはどうなのか気になったのだ。
まあ、必殺技というか、奥の手だからそう簡単に教えて貰えるとは思っていないけれど、持っているか、持っていないかだけは教えて欲しかった。そんな風に食い入るように見ていれば、アルベドはまた可笑しそうに笑った。
「そんなに知りたいのかよ」
「だって、使えそうだから……今後のためにも、知っておいた方がいいなって思って」
「聖女様は、お気楽だなあ。お前は存在そのものがユニーク魔法みたいなもんだから、他の奴のユニーク魔法なんてそんなたいした事ねえだろ」
と、アルベドは言う。
確かに、聖女は他の魔道士と違うし、存在そのものがユニーク魔法とか言われても納得できる。ブライトも聖女は他とは違うと言っていたから、アルベドの言うことには一理あるけれど。でも、私のこれとアルベド達が使えるかも知れないユニーク魔法は違うと思ったのだ。
「教えてくれないの?」
「人に、手の内見せるような真似しねえだろ」
「意地悪な」
「どうとでもいえよ。まあ、でも、使えねえわけじゃないぞ?使えるが、教えねえし、見せねえ」
「え?」
「えって、何だよ。持ってちゃ悪いかよ」
アルベドはそう言って眉間に皺を寄せる。
今の発言から、アルベドがユニーク魔法保有者と言うことが分かった。まあ、内容まではさすがに教えてくれないけれど、既に持っていると言うことだ。
「え、いや……持ってるんだと思って。へ、へえ」
「何か思ってた反応と違うな。馬鹿にしてんのか?」
「してない、してない。そ、そうなんだって思って」
「まあ、たいしたもんじゃねえし、条件が幾つもあってめんどくせえからな」
「……い、いつか見せてください」
「ふーん、いつかな」
と、アルベドは意地悪に言う。
まあ、それはいいとして、条件が幾つもあって……と言うところから、揃えばかなり強大なユニーク魔法なのでは無いかと思った。こういうのは相場でそう決まっている。
そう考えると楽しくなってきて、私は一人ガッツポーズした。アルベドには白い目で見られたが仕方がない。
「そうだ、アルベド。まだ、ちょっと聞きたいことがあって」
「……ッ、いや今日はこの辺にしておく。また、お前の所に手紙送ってやるから、俺のところにこい」
「は、はあ? 何それちょっと!」
じゃあな。と、アルベドは廻を確認した後、ベランダから出て行ってしまった。一体どうしたのだろうかと下を覗いたがもう既にそこに、アルベドはいなかった。
「変なの……」
そう呟いて静寂が戻った部屋の外から、足音が聞え、私は扉の方を振返った。足音はピタリと止まり、私の部屋を叩く音が響いた。
(こ、こんな深夜に誰?)
お化けだったらどうしようと怯えつつ、私はそろりと歩き、扉の前で、誰かと尋ねた。すると、少しの間沈黙が続いた後、声が帰ってきた。
「俺だ、エトワール」
「り、リース?」