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ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
コメント
1件
うわああ!このエピソード最高すぎる!!キツネ兄弟が案内してくれたエメラルドグリーンの霊泉、めっちゃ綺麗で癒される〜。疲労が一瞬で回復するチートヒール温泉って完全にRPGじゃん! でもそこでアキヤ兄さんが「これはプラシーボ効果です」って氷結玄米おにぎり食べながら理屈でぶった切るのが笑えるww 小春ちゃんのヒノキ湯桶ツッコミも炸裂してて、音が「除夜の鐘」って表現が秀逸すぎる。VIPたちの軍拡競争と日常の温度差がたまらなく好きです!今回も最高の癒しでした🔥
第206話:キツネ兄弟が発見した隠し湯。カムイの霊泉と足湯
春の農作業が本格化し、黒土との格闘が続く十勝の限界集落。
巨大ヒグマの圧倒的な牽引力と、専属アシスタントである小春ちゃんの献身的な働きにより、我が陣地(古民家)の畑は順調に開墾が進んでいた。
しかし、どんなにロジスティクスが最適化されていようとも、連日の肉体労働による疲労の蓄積は避けられない。
「ふう……お兄さん、今日のノルマ終わりましたよ。さっきからコン吉ちゃんとコン次郎ちゃんが、裏山の方へ行こうって裾を引っ張るんですけど……」
泥だらけのOD色作業着を着た小春ちゃんが、肩で息をしながら俺の元へやってきた。
彼女の足元では、キタキツネの兄弟が「キュンキュン!」と甲高い声を上げ、しきりに裏山の奥を指し示すように鼻先を向けている。
「……先行偵察部隊が何かを発見したようだな。よし、陣地の安全確認も兼ねて同行しよう」
俺たちは農具を置き、キツネ兄弟の先導に従って、春の息吹に満ちた裏山へと足を踏み入れた。
獣道を抜け、シダの葉を掻き分けた先。
そこには、今まで全く気づかなかった、岩肌に囲まれた小さな窪地が隠されていた。
「わぁ……っ! なにこれ、すっごく綺麗……!」
小春ちゃんが感嘆の声を漏らした。
窪地の中央には、エメラルドグリーンに輝く澄み切ったお湯がこんこんと湧き出しており、周囲には幻想的な白い湯気が立ち込めていたのだ。
そして、その天然の岩風呂の縁では。
純白の神獣シロ様が、すでに特等席を陣取り、ちゃっかりと前足を湯につけて『足湯』を満喫していた。
サファイアブルーと琥珀色のオッドアイが、心地よさそうに細められている。
『ミャウ(遅かったわね。ここのお湯、最高よ)』
どうやらここは、アイヌの伝承に語り継がれる『カムイの湯(神の霊泉)』と呼ばれる隠し湯のようだった。
「お兄さん、私たちも少しだけ足を入れてみましょうよ!」
小春ちゃんに促され、俺たちは岩場に腰掛け、長靴を脱いでエメラルドグリーンの湯に足を浸した。
その瞬間である。
「えっ……!? 嘘、なにこれ……っ!」
湯に触れた足先から、まるで全身の細胞が急激にリセットされるかのような、圧倒的な快感が駆け上がってきた。
連日の農作業で蓄積していた筋肉痛も、関節の軋みも、重たい疲労感も、文字通り『一瞬』にして消え去ってしまったのだ。
神の霊泉による、完全なる状態異常回復(チートヒール)。
ジンバルカメラがその神秘的な隠し湯と、驚愕する小春ちゃんの表情を捉えた瞬間、五千万人の同接リスナーのチャット欄が爆発的な勢いで流れ始めた。
『うわああああああ!! 神の温泉キタコレ!!』
『浸かった瞬間に疲労回復とか、完全にRPGの回復の泉じゃねえか!!』
『エメラルドグリーンの湯とか、美しすぎて画面越しでも癒される……』
リスナーたちがファンタジー展開に熱狂する中、この『究極の霊泉』の価値を誰よりも正確に弾き出した世界の超弩級VIPたちが、突如として常軌を逸した暴走を始めた。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”The ultimate healing spring!! A fountain of youth! I must secure the rights to this water! I am dispatching a Carrier Strike Group to the seas near Hokkaido right now! Take my 500 trillion yen for the initial suppression costs!“(究極の治癒の泉だ!! 若返りの泉だ! この湯の権利を確保せねば! 今すぐ北海道近海に空母打撃群を派遣する! 初期制圧費用として五百兆円を受け取れ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”We cannot let Dubai monopolize the supreme asset! I will deploy a fleet of nuclear submarines to block their advance! I bid 600 trillion yen to claim territorial rights over that mountain!“(至高の資産をドバイに独占させるわけにはいかない! 原子力潜水艦隊を展開して彼らの進軍を阻止する! あの山の領有権を主張するために六百兆円を提示するぞ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Oh my god!! That spring is the ultimate beauty serum!! I’m buying a fleet of Aegis destroyers to protect Shiro’s private bath! I’m sending 800 trillion yen for the naval budget!!!“(なんてこと!! あの泉は究極の美容液よ!! シロのプライベートバスを守るためにイージス艦の艦隊を買うわ! 海軍予算として八百兆円を送るわよ!!!)』
総額数千兆円規模の電子マネー(赤スパ)が、エメラルドグリーンの湯気を凌駕するほどの極彩色弾幕となって画面を完全に埋め尽くした。
国家予算どころか、世界の軍事バランスそのものを崩壊させるレベルの軍艦の買い付け資金が乱れ飛び、様子を見に来ていた村長が「ひぇぇぇ……! 温泉の権利争いで第三次世界大戦が起きちまうべさ……!」と呟き、白目を剥いて岩場から転げ落ちて気絶している。
誰もが、この世界一美しく、世界大戦を引き起こしかねない神の霊泉に魂を震わせているそのド真ん中で。
俺――アキヤは一人、足湯に浸かりながら、ストイックに薄型の特製タッパーを開けていた。
中に入っているのは、完璧な水加減でストイックに炊き上げられた『氷結状態の玄米おにぎり』と、自家製の『大豆ミートの湯上がり風冷しゃぶ(無添加ポン酢和え)』である。
俺は、数千兆円の赤スパのまばゆい光と、軍拡競争に狂うVIPたちを横目に、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、大豆ミートを氷結玄米おにぎりと一緒に口の中へ押し込み、淡々と咀嚼し始めた。
ゴリッ、バキッ、モグモグ……。
(……ふむ。温かい足湯による血管拡張効果に対し、あえて氷結玄米の冷徹な硬度と冷しゃぶの爽やかな酸味を胃に叩き込む。急激な副交感神経の優位化(湯あたり)を防ぎ、己の自律神経を強制的に戦闘状態に引き戻す究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に維持しながら、俺は水筒の冷やしほうじ茶で喉を潤すと、五千万人を突破して世界の造船業の株価を暴騰させているカメラと、呆然としている小春ちゃんにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、新たな水源の発見および水質調査ご苦労。そして画面の向こうで、ただの野湯の権利争いに巨額の資本を投下して軍艦を買い漁っている皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『VIPたちが空母と潜水艦買ってるのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・カムイの霊泉完全スルー編ww』
『さあ、この明らかにヤバいチート温泉をどうやって需品科の業務にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは神の霊泉でも、チートヒールの魔法でもありません。このお湯の疲労回復効果が異常に高く感じるのは、地殻変動による地熱で温められた豊富な『硫酸塩泉系のミネラル成分』が、末梢血管の拡張を促し、乳酸の排出を一時的に加速させただけに過ぎません。一瞬で疲れが消えたように錯覚するのは、シロ様という愛らしい存在と自然環境の美しさがもたらす強烈な『プラシーボ効果(偽薬効果)』と、脳内エンドルフィンの過剰分泌による痛覚の麻痺です。ええ、すべては冷徹な『温熱療法による血流改善』と『心理的要因による生化学反応のバグ』ですね。私が氷結玄米を噛み締めているのも、霊泉という名の非科学的な幻覚に惑わされず、一刻も早く農作業のスケジュール(兵站)に復帰するための、需品科としての徹底した『メンタル防壁構築訓練』です」
「んなわけあるかあああ!!!」
ドガァァァァァンッ!!!!
神秘的な湯気が立ち込める裏山に、重装甲車のエンジンブロックを真っ二つに叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、どこから調達したのか『特注・純銅タガの特大ヒノキ湯桶(高密度木材・温泉街の鈍器仕様、重量約六キロ)』を両手で軽々と大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
六キロの硬質なヒノキと純銅の塊が肉体に直撃した、鐘を突いたような恐ろしい大爆音が、春の青空へと虚しく響き渡る。
「ただの温熱療法とプラシーボ効果で、一瞬にして全身の疲れが吹き飛ぶわけないでしょうが!! どう見たって、農作業で疲れた私たちを癒やすために、シロちゃんとキツネちゃんたちが案内してくれた、神様の奇跡のご褒美でしょうが!! 家族で足湯に入ってる最高のエモい時間を、冷たい生化学反応とかエンドルフィンとかいう理系用語で粉砕するんじゃないわよ!! そもそもなんで温泉入りながら凍った玄米食ってんのよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大ヒノキ湯桶スマッシュ炸裂www(音が完全に除夜の鐘ww)』
『温熱療法による血流改善(ただの神のチートヒール温泉)』
『強烈なプラシーボ効果(シロ様の尊さによる完全回復)』
『適応力バグおじさん、ついに神の霊泉をただのプラシーボ効果に分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、壮大な軍拡競争だったのに腹筋が完全に崩壊したわww最高すぎる!!』
俺の理不尽極まりない生化学的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない六キロの湯桶ツッコミに、五千万人の視聴者たちは軍事衝突の危機から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、神の湯に入ってもヒノキの桶で叩かれないと目が覚めない、特大サイズの鈍感下僕ね)』
岩場から、前足を湯につけた純白の神獣シロ様が呆れたように俺の方を見やり、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、数千兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに眩しく、白い湯気の中で、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
足元では、キツネ兄弟が「キュンキュン!」と、小春ちゃんのツッコミを見届けて満足そうに笑いながら、お湯の周りを跳ね回っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の労働リソースが速やかに回復し、専属アシスタントによる六キロの質量ツッコミが温泉でも完璧に機能していることが確認できたのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺はヒノキの湯桶の凄まじい衝撃で痺れた頭をさすりながら、春の風が吹き抜けるカムイの湯の中で、再びタッパーの氷結玄米おにぎりを口に運んだ。
「完全勝利じゃないですよ! ほら、この気絶してる村長どうするんですか! それにスマホ見てください、VIPの人たちがガチで軍艦買おうとしてますってば!」
「慌てるな。まずはその障害物(村長)を引きずってでも下山させるのが先決だ。温泉の領有権争いより、明日の畝作りのスケジュール(兵站)のほうが重い」
「だからお兄さんの優先順位、絶対におかしいですからね!? キツネちゃんたち、村長を引っ張るの手伝ってーっ!?」
気絶した村長を巡って岩場でワーワーと騒ぐ俺たちの声と、軍艦配備に湧き上がるチャット欄の通知音が、春の裏山へと響き渡る。
そんなカオスな日常の延長をよそに、シロ様は「やれやれ」といった様子で小さくあくびをすると、エメラルドグリーンの足湯の中で心地よさそうに再びオッドアイの瞳を閉じた。