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#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第107話:女優からの差し入れ(ピッチングマシン・改)
週末に控えた『十勝地区・親善草野球大会』に向けて、俺は古民家の庭で素振りを日課としていた。
ギラギラとした夏の太陽の下、愛用のミズノのバットが風を切る音が響く。
俺の足元では、神獣シロが「もっと腰を落としなさいよ」とでも言いたげな目で俺のフォームをチェックし、キタキツネの兄弟であるコン吉とコン次郎が、落ちているボールで楽しそうにじゃれ合っていた。
「お兄さーん! またとんでもないものが届きましたよー!!」
縁側から、小春ちゃんが悲鳴のような声を上げた。
彼女の背後には、宅配便のお兄さんが二人掛かりでようやく運んできた、冷蔵庫ほどもある巨大な黒いクレート(輸送箱)が鎮座していた。
「今度はなんだ? 爆発物じゃないだろうな」
俺が首に巻いたタオルで汗を拭いながら近づくと、箱の側面には見慣れたハリウッドの高級スタジオのロゴと、差出人の名前がデカデカと印字されていた。
「……ハリウッド女優、シャーロット。またあいつか」
嫌な予感しかしないまま、俺はバールを使って頑丈な木箱をこじ開けた。
パカッ。
『ピュィィィィィィン……ッ!』
開けた瞬間、箱の中から七色に発光する強烈なLEDライトが放たれ、サイバーパンクな起動音が庭中に鳴り響いた。
「うわっ!? 目が、目がぁぁ!」
小春ちゃんが目を覆い、コン吉とコン次郎が「キュンッッ!?」と驚いて俺の後ろに隠れる。
箱の中に収まっていたのは、マットブラックの装甲に包まれ、無数のゲーミングLEDが脈打つように光る、二輪式の超巨大ピッチングマシンだった。
同封されていたメッセージカードには、流麗なサインと共にこう書かれている。
『愛するアキヤへ。草野球の大会に出ると聞いたわ! 私の美貌と名声にふさわしい、最高の特訓環境を用意したわ。メジャーリーグのサイ・ヤング賞投手のデータを完全再現した、最高時速160マイル(約257キロ)の魔球を打ち返してみてね! P.S. 夜は七色に光るからパーティーにも使えるわよ!』
「……草野球の練習に、時速250キロのピッチングマシンを送ってくるバカがどこにいる」
俺が呆れ果ててため息をつくと、ジンバルにセットされたiPhone miniのチャット欄で、一千万人のリスナーたちがいつものように物理的爆発を起こしていた。
『時速257キロwwwww』
『草野球(メジャーリーグでも打てない)』
『ゲーミングピッチングマシンってなんだよww 光る意味ある!?』
『ハリウッド女優の金銭感覚と野球の知識が完全にバグってる』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! Charlotte, you have good taste! But it needs more gold!“(ハハハ! シャーロット、いいセンスだ! だがもっと純金装飾が必要だな!)』
「お、お兄さん! これ絶対危険ですよ! 時速250キロのボールなんて当たったら、お兄さん粉々になっちゃいます!!」
小春ちゃんが本気で涙目になって俺の袖を引っ張った。
「皆さま、そして小春ちゃん。案ずることはありません」
俺は、七色に光るゲーミングマシンを前にして、極めて冷静に『限界言い訳タイム』を発動した。
「これは決してメジャー級の凶器などではなく、ただの農薬散布用の大型ファンです。海外製のものは無駄に光る仕様が多いだけ。時速250キロというのも、風速の話でしょう。ええ、ただの農業器具です」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、近くにあったプラスチックのバットで俺の足に鋭いツッコミを入れた。
「どこからどう見てもボールを入れるレールがついてるし! 完全に殺戮マシーンのフォルムしてるじゃないですか! いい加減、現実から目を背けるのやめてください!!」
『小春ちゃんのプラスチックバット・スマッシュww』
『農薬散布用ファン(時速257キロの魔球)』
『適応力バグおじさん、ついにピッチングマシンまで農業器具にすり替えるww』
俺は小春ちゃんのツッコミを受け流しつつ、ドライバーとレンチの入った工具箱を持ってきた。
「とはいえ、このままではオーバースペックすぎて練習にならない。俺の『需品科』としての技術で、十勝の草野球に最適化(デチューン)してやる」
俺はゲーミングマシンの装甲を外し、モーターの出力制御基板に直接アクセスした。
ブラック企業で擦り切れた脳細胞だが、かつて趣味で収集した『北海道および十勝地区・高校野球の過去の予選データ』や、各校のエース投手の球速・回転数記録が、俺の頭の中には完璧なデータベースとして保存されているのだ。
「……モーターの回転数を制限し、ローターの角度を微調整。十勝地区の歴代エースクラス……最高球速145キロ、キレのあるスライダーとツーシームの軌道に設定する」
俺の完璧なDIY魔改造によって、七色に光る自己主張の激しい殺人マシンは、十勝の高校球児を完全再現する『超・実践的ピッチングマシン(需品科カスタム)』へと生まれ変わった。
「よし、試運転だ」
俺は愛用のミズノのバットを構え、マシンにボールをセットした。
『ズバァァァンッ!!』
マシンから放たれた白球が、美しい軌道を描いて俺のインコースをえぐる。
「……ふっ!」
カキィィィンッ!!
俺のフルスイングがボールを完璧に捉え、十勝の青空に向かって特大のホームラン性の打球が飛んでいった。
「うおおおっ! お兄さんすごーい!! 完璧な当たり!!」
小春ちゃんが飛び跳ねて喜ぶ。
『主、普通に野球上手くて草』
『需品科のロジスティクスでピッチングマシンを魔改造する男ww』
『十勝の高校球児のデータを完全再現しててマニアックすぎるww』
だが、驚くのはこれだけではなかった。
俺が打ち返した打球が、庭の奥のネットに向かって飛んでいった、その瞬間。
『ミャーウ!(甘いわね)』
縁側で寝ていたはずのシロが、音もなく空中に跳躍した。
そして、時速100キロ近く出ているであろう強烈な打球を、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――で正確に見切ると、空中でクルリと一回転しながら、ぷにぷにの肉球で『ポスッ』と完璧に受け止め、無傷で着地したのだ。
「キュンッ!」
すかさずコン吉が走り寄り、シロが落としたボールを口に咥えて、一塁ベース(と仮定した切り株)へと見事な送球(トス)を決めた。
「……………………は?」
俺はバットを持ったまま、完全に石化した。
『うおおおおおおおお!!!』
『シロ様、特大ホームランを空中でキャッチwwww』
『キツネの中継プレー完璧すぎだろ!!!』
『ハリウッド級のマシンより、モフモフたちの方がスペック高いの笑うww』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Incredible defense! I will double their contract fee!“(信じられない守備だ! 契約金を倍額にしよう!)』
「お、お兄さん! 今の完全にプロ野球のファインプレー集のやつです! シロちゃんとコン吉くん、絶対試合に出した方がいいですってば!!」
小春ちゃんが目をキラキラさせて俺に詰め寄る。
「……ただの猫の気まぐれなジャンプと、キツネの犬かき(地上版)だ。野生の偶然に期待してはいけない」
俺は限界言い訳を呟きながら、そそくさとバットを置いて縁側に戻った。
「まぁ、いい汗かいたな。小春ちゃん、そろそろ飯にするぞ」
俺の前に並べられたのは、今日も一切ブレることのない、完璧に炊き上げられた『玄米』と、自家製の『大豆パティの照り焼き風』だ。
ハリウッド女優から送られた超ハイテク機材と、世界中が熱狂する神獣たちのスーパープレー。
そんなカオスな状況のど真ん中で、俺は真顔で玄米を咀嚼し、大豆パティの素朴な旨味を噛み締めていた。
「お兄さん……ハリウッド女優からの差し入れマシンの前で、大豆パティ食べてる絵面、本当にシュールですよ……」
「これが俺のルーティンだからな。玄米の栄養素こそが、週末の草野球を勝ち抜く最強のエネルギー源だ」
俺は冷たい麦茶をグイッと飲み干し、庭でボールと戯れるモフモフたちに目を細めた。
七色に光るピッチングマシンと、最強の身体能力を持つ野生の仲間たち。
十勝の限界集落からお届けする、世界一バグった草野球の特訓は、夏の夕涼みの風と共に、最高に平和な夕暮れを迎えていた。
コメント
1件
お疲れさまです、ゆうき あきやさん!第107話、楽しく読ませていただきました!笑 ハリウッド女優のシャーロットからまさかの時速257キロのピッチングマシンが届くって、もう発想が飛びすぎてて笑っちゃいました。それを「農薬散布用のファンです」って言い張る主人公の限界言い訳タイム、毎回最高です。笑 でも一番アツかったのは、シロがホームラン性の打球を空中でキャッチしたシーン!オッドアイの描写も美しくて、神獣感が半端なかったです。コン吉の中継プレーも完璧で、モフモフたちのスペック、もう普通にプロ級じゃないですか。 そして最後の玄米と大豆パティの夕食……七色に光るマシンを背景に正気を保つ主人公の絵面、本当にシュールで好きです。週末の草野球大会、楽しみにしてますね!