テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第108話:試合当日! モフモフ応援団の圧倒的癒し効果
夏の空の下、十勝の町営球場にサイレンの音が鳴り響いた。
いよいよ『十勝地区・親善草野球大会』の開幕である。
「アキヤくん! 今日は頼んだぞ! 君の若い力と、その立派なミットが頼りの綱じゃ!」
ベンチ裏で、ユニフォーム姿の村長が俺の肩をバシバシと叩く。
俺の左手には、長年手入れを欠かさず、完璧な型付けを維持してきた愛用の『ミズノのファーストミット』が装着されている。
元・陸上自衛隊『需品科』として、支給された装備品(道具)のポテンシャルを極限まで引き出すのは当然の義務だ。
「ええ、任せてください。内野の要として、兵站を崩さぬよう完璧な守備陣地を構築します」
俺が真顔で応えると、隣で小春ちゃんがジンバル付きのiPhone miniをベンチの特等席にセットしながらクスッと笑った。
「お兄さん、気合入るのはいいですけど、今日の主役は間違いなく『この子たち』ですよ」
小春ちゃんがカメラを向けた先。
そこには、村のチームの『特命応援団』としてベンチの最前列に陣取る、神獣シロとキタキツネの兄弟(コン吉とコン次郎)の姿があった。
『ミャーウ(しっかりやりなさいよ)』
首に村のチームカラーである赤いバンダナを巻いたシロが、誇らしげに胸を張り、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を輝かせている。
「キュンッ!」
「コンコンッ!」
同じく小さなバンダナを巻いたコン吉とコン次郎は、応援用の小さなプラスチックメガホンを前足で器用に転がしながら、すでにテンション最高潮で尻尾を振っていた。
ジンバル越しに見守る一千万人のリスナーたちは、試合開始前からすでに大熱狂である。
『もふもふ応援団かわいすぎるううう!!』
『バンダナ巻いたシロ様、完全に勝利の女神』
『キツネのチアガールとか反則だろww 鼻血出るわ』
『相手チーム、これ見て平常心保てるのか?』
リスナーの指摘通り、俺たちの一回戦の相手である『屈強な地元建設会社チーム』の様子が、開始早々から明らかにおかしかった。
一回表、相手チームの攻撃。
「プレイボール!!」
審判の声と共に、バッターボックスに相手の1番打者が入る。
身長180センチを超える筋肉隆々の男で、金属バットを軽々と振り回す強打者だ。
彼は闘志を剥き出しにして、マウンドに立つ村長(御年70歳・超スローカーブ使い)を睨みつけた。
だが、その鋭い視線が、ふと俺たちのベンチへと向けられた瞬間。
『……ミャウ♪』
ベンチの最前列で、シロが『頑張ってね』とばかりに小首を傾げ、至高の冷感マイナスイオン波動をふわりと放った。
さらに、コン吉とコン次郎が「きゅぅぅん」と甘えた声を出しながら、二匹でじゃれ合ってコロンと転がったのだ。
「……ッ!!?」
打席の強打者の動きが、完全にフリーズした。
構えていたバットが力なく下がり、闘志に満ちていた強面の顔が、みるみるうちにだらしなく緩んでいく。
「な、なんだあの白い猫……それにキツネまで……バンダナ巻いてる……えっ、ヤバい、超かわいい……っ!」
男の口から、屈強な見た目に似合わない乙女のような呟きが漏れた。
ポンッ。
村長が投げた、山なりの超スローカーブが、ど真ん中のストライクゾーンに決まる。
「ス、ストライク!!」
審判が声を上げるが、バッターは微動だにしない。いや、バッターボックスに立ちながら、視線は完全に俺たちのベンチの『もふもふ達』に釘付けになっているのだ。
ポンッ。
「ストライク・ツー!!」
「あぁ……キツネちゃんがメガホン落としちゃった……俺が拾ってあげたい……」
ポンッ。
「バッター・アウトォ!!」
なんと、相手チームの誇る強打者が、一度もバットを振ることなく、もふもふ達を凝視したまま見逃し三振に倒れてしまったのだ。
「えぇぇぇぇ!?」
小春ちゃんがベンチで素っ頓狂な声を上げた。
だが、これは悲劇(相手チームにとっての)の始まりに過ぎなかった。
続く2番打者も、3番打者も、打席に入るなりベンチのシロたちから放たれる『圧倒的な癒しオーラ』の直撃を受け、完全に戦意を喪失。
「ダメだ、あの猫に見つめられると、殺気立ったスイングなんてできない……!」
「キツネちゃんが驚いちゃうから、大きな音を出したくない……っ!」
屈強な男たちが次々とバットを置き、デレデレの笑顔を浮かべながら三振の山を築いていく。
攻守が交代し、俺たちの攻撃になっても状況は同じだった。
相手ピッチャーは、ベンチで「打てー!」とキュンキュン鳴くコン吉たちの可愛さに胸を撃ち抜かれ、四球(デッドボールなど絶対に当てないための超安全なボール)を連発。
一塁(ファースト)に出塁した俺がリードを取っても、相手のファーストは俺そっちのけでベンチのシロに手を振っている始末だ。
ジンバル越しの配信画面は、もはや制御不能の大爆笑の渦に包まれていた。
『相手チーム、完全に骨抜きにされてて草』
『戦わずして勝つ。これぞ孫子の兵法www』
『もふもふによる精神汚染(癒し)兵器の威力がエグすぎる』
『シロ様、座ってるだけでパーフェクトゲーム達成ww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! The ultimate biological weapon of cuteness! I will double the team’s victory bonus!“(ハハハ! 究極のかわいさという名の生物兵器だな! チームの勝利ボーナスを倍にしてやろう!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”They are so cute! I want to be on that bench right now!“(かわいすぎるわ! 私も今すぐそのベンチに座りたい!)』
試合は完全に村のチームのワンサイドゲームとなり、5回コールド勝ちという圧倒的な結果で幕を閉じた。
試合終了後。
ベンチに戻った俺は、ミズノのファーストミットを手入れしながら、いつもの『限界言い訳タイム』を発動するためカメラの前に立った。
「皆さま。相手チームが全く打てなかったのは、決してシロやコン吉たちの可愛さに癒されて戦意喪失したからではありません」
『出たwwww 主の限界野球解説ww』
『さあ、この圧倒的敗北(癒し)をどうやって論破する気だ!』
俺はキリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「これは『カラーセラピー効果』と『錯視』による、純粋なスポーツ科学の敗北です。シロの真っ白な毛並みと、コン吉たちのオレンジ色の毛皮が、太陽光を乱反射。それが相手打者の副交感神経を強制的に刺激し、極度のリラックス状態(筋弛緩)を引き起こしたのです。ええ、ただの色彩心理学的なハプニングであり、もふもふの癒し効果などという非科学的なものではありません」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、持っていたスコアブックを丸めて俺の頭に愛あるツッコミを叩き込んだ。
「相手チームのおじさんたち、試合終わった後も『猫ちゃんの写真撮らせてください!』ってベンチに大行列作ってたじゃないですか! 完全に可愛さにやられてたでしょ! 素直にモフモフ応援団の勝利を認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのスコアブック・スマッシュ炸裂www』
『色彩心理学的なハプニング(もふもふの暴力)』
『適応力バグおじさん、ついにスポーツ科学まで歪め始めたww』
『主、自陣の兵器(シロ様)の威力を過小評価しすぎww』
一千万人の大爆笑がチャット欄を埋め尽くす中、俺は「痛ぇな」と頭を掻きながら、自分のお弁当箱を広げた。
見事な初戦突破を果たした俺の勝負メシは、今日も一切ブレない。
完璧に炊き上げられた『玄米』と、疲労回復に効くビタミンB群が豊富な『大豆パティの黒酢炒め』だ。
俺は真顔のまま、プチプチとした玄米の食感と、黒酢の酸味が効いた大豆肉の旨味を噛み締めた。
「お兄さん……チームのみんなは打ち上げで焼肉弁当食べてるのに、そこは絶対玄米と大豆なんですね」
「当然だ。陸上自衛隊需品科たるもの、常に最も効率的で無駄のないロジスティクス(栄養補給)を維持しなければならない。それに、この大豆パティの旨味は、焼肉弁当にも決して引けを取らない」
俺が自信満々に玄米を頬張ると、シロが『ミャウ(はいはい、強がりね)』と呆れたように喉を鳴らした。
真っ青な夏の十勝の空の下。
愛用のミズノのミットと、世界一かわいいもふもふ応援団、そしてブレない玄米弁当。
世界中のVIPたちが見守る限界スローライフ野球大会は、最高の勝利と極上の癒し空間を生み出しながら、バグったまま快進撃を続けていくのだった。
コメント
1件
もう第108話読み終わったよ〜!!🐱🦊 いやあもう試合開始からずっと笑いっぱなしだったんだけど!!😂 相手チームの強面おじさんたちがシロ様とコン吉たちの癒しオーラで完全に骨抜きにされて、バットすら振れず三振とか最高すぎるでしょwww 「キツネちゃんが驚いちゃうから大きな音を出したくない」とか言っちゃう屈強な男たち…可愛すぎてお腹痛い🤣💕 そしてもちろん主(アキヤくん)の限界言い訳タイムも安定のクオリティ! 「色彩心理学的なハプニング」って…何言ってんだこのおじさん!!って小春ちゃんのツッコミが炸裂してるのめっちゃ好きw 試合後も相手チームがモフモフに写真お願いして行列作ってる光景が目に浮かぶよ〜📸 それにしてもシロ様のオッドアイの輝きとか、コン吉たちがメガホン転がしてる姿とか、描写が細かくてめっちゃ可愛かった!! 一千万人のリスナーが沸くのも納得の展開だったよ✨ 次の試合も楽しみにしてるね!! 主の玄米弁当も応援してるよ〜😭💖