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八雲瑠月
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愛の家とその牛舎に辿り着いたのは十五分ぐらいだっただろうか。モーモ―と牛の鳴き声が聞こえ、藁と糞の匂いが風で漂ってきた。外灯に照らされた二階建ての家と、明りが点いた牛舎が見えてくる。牛舎は妙な小さな塔が付き、木造平屋を長くしたような外観で、広さだけなら学校の体育館ぐらいありそうであった。愛が牛舎のドアを開け、スイッチを点けると、垂れ下がる数本の裸電球が周囲を照らした。草刈り機やスコップ、フォーク、妙な機械や見知らぬ道具が隅に置かれていた。
「ごめんね汚い所で」
「いや、急にお邪魔してる訳だし、別に気にしないよ」
中央の扉が無い出入口から牛達が牧草を食べている姿が見える。
「こっちだよ書也君、そっちに行ったらモーモーさんに食材を食べられちゃう」
「ああ、分かった」
愛が中央の扉が無い出入口の横にあったドアに入る。愛と共にビニール袋を持って部屋に入ると、微かに煙草の匂いと獣臭さがあった。愛が壁掛けのリモコンスイッチを押すと、シーリングライトが部屋を照らした。部屋は六畳で、大きいテーブルを囲むようにソフェアが置かれ、壁にはエアコン、奥にはテレビ台と二十七インチの液晶テレビ、冷蔵庫、戸棚、電子レンジ、給湯ポッド、水道付きのシンク、デスクには古そうなパソコンとプリンター、電話機が置かれていた。事務所兼休憩所といったところだろうか? 大きなテーブルには煙草の灰皿とライターが数本置かれている。
「助六さん、ちゃんとお茶と缶コーヒーの段ボールを置いてくれたんだ」
愛は缶コーヒーとお茶のペットボトルの段ボールを開けると、幾つか冷蔵庫に入れていく。
「誰か煙草を吸うのか?」
「ヘルパーさんがよく吸ってるかな。家では煙草を吸う人がいないから、分煙も兼ねて、ヘルパーさんの休憩所にしてるの。お父さんがいた時は事務所にしてたんだけどね」
愛は戸棚や冷蔵庫に買ってきたお菓子や飲み物を手際よく入れていく。
「書也君、ブレザー脱いで。臭くなっちゃうよ」
「ああ」
書也はブレザーを脱ぎ、ワイシャツ姿になった。愛にブレザーを渡すと、デスク裏のクローゼットのハンガーにかけてくれた。
「ここにかけておくね」
「ありがとう。それと、買ってきた惣菜はどうするんだ?」
消費期限が短そうな惣菜は明らかに一人、二人の量ではない。他のヘルパーさんが食べに来るのだろうか?
「テーブルに置いて、そこで食べるから」
書也がビニール袋から惣菜を取り出し、並べていくと、愛はさらに戸棚や冷蔵庫からカップラーメンや冷えた二リットルサイズのジュース、紙コップ、割り箸を置き、ポテチなど菓子類の袋まで開けていく。スーパーで買ったばかりの惣菜パン、おにぎり、サンドイッチまで大きなテーブルを埋め尽くさんばかりの物凄い食料の数が並んだ。
「あと、書也君の鶏から弁当も置いておくね。書也君もテーブルに置いてあるものは食べていいからね」
「いくらなんでも多すぎだろ!?」
「そうかな? 助六さんもこれぐらいたくさん食べるよ」
愛はリモコンでテレビを点け、チャンネルを変える。その番組は見た事はないが、漫才とかのお笑い番組のようだ。愛はその番組を見ながら、テーブルから取ったおにぎりの袋を開いて食べ始めた。おにぎりを食べ尽くすと、カップラーメンにお湯を注いで、蓋を取り、電子レンジで温め始めた。
「おい、電子レンジに入れて大丈夫か!? 爆発しないか!?」
愛の大胆な行動に書也が思わず電子レンジに駆け寄る。
「プラスチックの物は駄目だけど、紙製の物は大丈夫だよ。お湯を目分量より少し少なめに入れて、一分温めると、カップラーメンが時短でできるんだよ。あっ!? 書也君も電子レンジ使うよね?」
一分が経過し、電子レンジのメロディーが鳴ると、愛はカップラーメンを取り出した。カップラーメンの紙コップは焦げたり、変形したりはしていなかった。
「ああ、使わせてもらおうかな」
書也は鶏から弁当を電子レンジで温めると、愛はソファに座り、カップラーメンをふーふーしながら割り箸で食べ始めている。
「はふ、はふ、はふ、書也君も温め終わる前に何か食べなよ」
愛はそう言って、テーブルに置かれたカレーパンを差し出した。
「ああ、じゃあ、いただきます」
書也は渡されたカレーパンを受け取り、袋を開けて頬張る。今更ながら手料理と愛の部屋に入れる事を少し期待していただけに涙が出てくる。
「どうしたの書也君? 涙出てるよ」
「カレーが少し辛かっただけだから……」
書也は言って、ソファに置いてあったティッシュを取り、流れる涙を拭いた。
「そのカレーパン、そんなに辛いのだったかな?」
愛は首を傾げ、いつの間にかカップラーメンを食べ終わっていたのか、サンドイッチを口に入れ、カップラーメンの汁をお茶のようにすすっている。
「よく食べるな愛は……」
「そうかな? 普通だよ」
そう言って愛は惣菜のタコ焼きを美味しそうに笑顔で食べ始めていた。それでも、愛のこの笑顔が見れるなら、ここで過ごすのも悪くはないかもしれない。