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八雲瑠月
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「ふぁー。食べたー、食べたー」
愛はテーブルの食材をほとんど食べ尽くしてしまった。テーブルに置いてあるのは全て空の容器とパン、おにぎり、サンドイッチ等の袋となっている。書也も惣菜には手をつけたが、鶏から弁当と愛に渡されたカレーパン、サラダと煮物を少し摘まんで食べたぐらいだった。
「書也君、本当にそれで足りた?」
愛がペットボトルのウーロン茶を注ぎ、紙コップを書也の前のテーブルに置く。
「ああ」
書也はお腹を押さえて、こくりと頷く。愛につられて思ったより多く食べてしまった気がする。
「それじゃあ、お仕事しようかな」
愛は自分の前に置いてあったウーロン茶を一気に飲み干すと、立ち上がる。
「手伝おうか?」
「じゃあね、書也君は食べた物を片付けてくれたら嬉しいかな」
愛はデスクの引き出しから、ゴミ袋を取り出すと、書也に渡した。
「分かった」
書也はゴミ袋を受け取ると、空の容器とパン、おにぎり、サンドイッチ等の袋をゴミ袋に入れていく。その間に愛は欠伸をしたかと思うと、セーラー服とスカートを脱ぎ始め、タンクトップからブラが少し透けて見えた。タンクトップの下が折れ曲がっている為、ショーツが書也の視界に入る。
「ちょっと愛!? こんなとこで着替えるな!?」
「ん? タンクトップに萌えちゃったかな? ブラじゃないよ。んん、でも、下のこれは少し恥ずかしいかな」
愛はそう言って、頬を染めながら、さりげなくタンクトップの下を伸ばし、ショーツを隠す。
「おパンツ見えてただろ!?」
「作業着はここかな?」
愛は誤魔化すようにクローゼットからピンクの作業着とワークエプロンを取り出し、わずか三十秒で着替え終わってしまう。
「はやっ!?」
気がつけば愛は足早に休憩室から出ていった。
書也がゴミの片づけを終えると、何処からか声が聞こえてくる。
『はああああっ!?』
愛の仕事時の気合の声だろうか? それと同時に駆けているような足音が微かに聞こえる。
書也が休憩所を出て、牛舎の方に行くと、愛が牛の後ろからフォークで敷き藁と一緒に糞を押し出し、溝に落とす姿があった。
「大変そうだな。手伝おうか?」
「じゃあね。ネコを持ってきてくれる」
「猫? ああ、分かった」
書也が白黒の毛皮の猫を見つけると、抱っこして、掃除している愛の前に見せる。
「それは家の猫のニャーちゃんだね。ネコというのは手押し車の事だよ」
書也に動物の猫を見せられた愛は苦笑いする。
「手押し車? ああ、あれネコっていうのか? 俺は一輪車と呼んでたから、分からなかったな」
頭を掻く書也は慌てて、藁が積んである手押し車を押して、愛の隣に持ってくる。
「手押し車をネコで通じると思っているから、小説で書いたら誤字になっちゃうかな? 漢字にしても猫だし」
「そんな事を言ったら一輪車も体育に乗る時の方になりそうだな」
愛はその書也の言葉を聞いて微笑する。
「ふふっ……そうだね」
愛は持ってきた手押し車の藁をフォークで一気に取り出すと、綺麗になった石床に敷いていく。
「次の藁を持ってくるよ」
「ありがとう。巻き藁の束が牧場の出入り口にあるよ」
書也は牧場の出入口付近で巻き藁が積んである場所を見つける。巻き藁に刺さっていたフォークを使い、バラバラになっていた藁を手押し車に積んで、愛の所に持っていく。
「この藁でよかったか?」
「うん、ありがとう。書也君、凄いね。手押し車やフォークの使い方も分かるんだね。農作業、やった事ある?」
「いや、初めてだよ。農家の仕事をテレビで見たぐらいで、これぐらいならな」
「じゃあ、どんどん頼んじゃおうかな」
「任せろ」
書也と愛の共同作業で全ての牛舎の掃除を終えていた。
「書也君のおかげで、三十分の作業が十五分で終わったよ。ありがとう」
愛は本当に嬉しそうに言う。
「掃除だけでもわりと大変だな」
「そうでもないよ。わりと自動化されてるからね。例えば……」
愛が壁に付いたブレーカーのようなスイッチを入れると、溝の床部分が動き、汚れた藁と糞が流されていく。
「溝がベルトコンベアになっているのか!?」
「お父さんがいた時はネコで糞に入れて運んでたんだけどね」
「これは何処に運ばれるんだ」
「向こうの堆肥山の方に運ばれるよ。肥料としても売ってるんだ」
糞が全てベルトコンベアに運ばれると、愛はスイッチを止める。
「あれ? ここは掃除、大丈夫なのか? ああ……牛がいないのか」
牛の気配が感じられない牛舎の区画に気付き、書也がファームゲートの隙間を覗き見る。敷き藁は敷かれているが、餌箱に餌が全く無く、牛の姿は見えなかった。
「昨日、モーモーちゃんがお亡くなりになっちゃったんだよ!? だから牛床は空っぽ。ジェリエットちゃんあああん!?」
愛は思い出したかのように牛がいなくなった牛床のファームゲートを開け、敷き藁に抱き付き、涙を流していた。
「名前を付けてたのか……」
本気泣きの愛に呆れ顔の書也。
「だって大切に育てたんだよ。ペットのように可愛いよ!」
書也は何を思ったのか、牛舎の牛床に入り、愛の隣の敷き藁に寝そべる。
「ちょっと書也君!? 心の準備が!?」
愛は転がり、書也から目を逸らし、顔を真っ赤にした。