青白い光に包まれたモニター室。壁一面に広がる監視カメラの映像と表示された囚人たちのバイタルサイン。その1つに妙な動きを見せるものがあった。
全6区画ある居房。そのうちの1つ、最深部の隅に位置する部屋の中。その監視カメラに映っているのは長い黒髪を指にまきつけ、何も無い虚空を見つめる麗夜の姿だった。
麗夜を注視していた看守のひとりは、その仕草を見るなり、座っていた椅子に呆れたように背中を預けさせた。なんて事ない仕草。暇な時や退屈な時に女の子がよくやる仕草であるはずなのに、看守は深くため息まで吐いた。
「…また死人が出るぞ」
看守が独り言のように呟いた途端、麗夜の片腕が前へ突き出された。
刹那、モニターに鋭い閃光がほとばしる。
その直後にモニター室内に心電図の甲高い電子音が警報のように鳴り響き、その場にいた看守たちが弾かれたように心電図と真っ赤な血の霧が広がる監視モニターに顔を向けた。
血の霧の中、わずかに確認できる黒い人影のようなものが地に崩れ落ちた。
静まり返った居房の部屋とモニター室に、心電図が人の死亡を告げる音だけが響く。
凰雅麗夜は、今この瞬間、個性を発動させたことにより部屋に備え付けられてる機関銃によって死亡した。
──はずだった。
命の終わりを告げたはずの心電図が、また動き始める。
血溜まりの中で、何かがゆっくりとうごめく。
よく見てみればそれは死んだはずの麗夜で、いもむしのように部屋を這いずっていた。容赦なく銃弾の雨を浴びせられ、ちぎれてしまった自分の身体を探しているのだろう。
「…囚人番号66607の蘇生を確認。これより取調室にて事情聴取を行います」
まるで海外のB級ホラーやスプラッター映画のような絵面に、若い看守は大きく顔を歪めさせながらモニター室を出ようと踵を返す。
「事情聴取には行くな、答えは分かりきってる。それよりもさっさと部屋の掃除をさせてこい」
しかしそれを、呆れたようにため息を吐いていた看守が止めた。止められた若い看守は静止の言葉に足を止め、不思議そうに首を傾げながら振り返る。
「聴きに行かなくて良いんですか?」
「良い。どうせ“つまらなかった”だの“退屈だった”だのと、人の命なんて歯牙にもかけない返答しか返ってこない。まぁ、たまに“遊びでやった”と言われるときもあるがな」
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