CASE 四郎
美雨の体から光が放たれた。
ジャキジャキジャキ!!!
光の中から赤い鎖が飛び出し、センサーを破壊し始めた。
光が晴れ、美雨の頭には、モルガナイトがあしらわれた王冠が浮いていた。
背中には、薄いピンク色の大きな羽が生えてるよう
に見えた。
何だ?
美雨の体から羽?
それと、あの王冠は何なんだ?
「お、お嬢?その姿は…?」
「怪我、治すね。」
美雨はそう言って、辰巳さんの体に触れた。
シュルルルッ…。
美雨の体の傷から血が浮き出て、辰巳さんの傷の中に入って行った。
「椿に報告せな、アカンなぁー。」
「帰るの?」
「そやな、薬の効果もバッチリやしな。」
二見瞬はそう言って、双葉を抱き上げた。
「四郎君、僕達が殺し合うのは、直ぐになりそうや。」
「どう言う意味だ?」
「三郎君も気い付けやー。一応は、Jewelry Pupilになったんやしな。四郎君を騎士にするんやろ?」
三郎は二見瞬の問い掛けには、答えなかった。
ウゥー!!!
外からパトカーや、救急車のサイレンが聞こえて来た。
「おっと、それじゃあなー。」
二見瞬がいなくなったと同時に、倉庫の扉が開いた。
「あ、やっぱり。第3段階に行きましたね、美雨ちゃん。」
現れたのは赤髪の女と見覚えのある刑事の男だった。
「あの人、私達と同じ…。」
「Jewelry Pupilだね。」
三郎とモモは、赤髪の女を見て同じ事を言った。
確かに、女からは独特なオーラが放たれている。
「皆さん、大丈夫ですか!!救急隊はすぐに対応して下さい!!!」
「奥に怪我人が居るぞ!!」
警察官が入って来たと同時に、美雨と辰巳さんが倒れた。
救急隊は急いで、辰巳さん達の元に向かった。
どう言う事だ?
何で、警察はスムーズに対応してる?
普通なら、俺達は警察に怪しまれる存在の筈だ。
「大丈夫だ、コイツの能力で君達の存在を上書きした。」
謎に思っていた事を、刑事の男が答えた。
「大丈夫ですよ、私達は貴方達側の人間ですから。」
俺達側って事は、椿と敵対している側って事か。
「もしかして、アンタ等は嘉助の知り合い?」
三郎はそう言って、2人に尋ねた。
「正解、お前は三郎だな。嘉助から話を聞いてるよ、君も無茶な事をするね。自分の目をくり抜くなんて、普通の人間は出来ないよ。」
「アイツに話聞いてるなら、大体の事は知ってるんでしょ。アンタの隣にいる女の能力は何なの?」
「秘密、私の能力は口にしちゃいけないの。でも、私と和樹さんは嘉助の古い知り合いなのよ。だから、アイツの計画も知っているし、椿を恨んでいる理由も知ってるわ。」
三郎の問いに答えた女は、嘉助の事を少し話した。
「そうか…。今の所は美雨ちゃんと佐助って子と、双葉ちゃんだけか、第3段階に行ってるのわ、。四郎君だっけ?貴方、早く第2段階くらいに行かないと…。この先、死ぬわよ。」
「「っ!?」」
モモと三郎は驚き、俺の顔を見た。
「ど、どう言う事…なの!?何で、四郎が死んじゃうの!?」
「モモちゃん、四郎君を守りたいなら分かるわよね。三郎君も、四郎にJewelry Wordsを使えるようにしないと。2人共、第2段階に進まないと、二見瞬に勝てない。寧ろ、椿にもね。」
女は訳の分からない事を話し出した。
第2段階?
第3段階だと?
一体、何の話をしているんだ…。
「四郎君、簡単に説明するとね?二見も椿も、Jewelry Wordsを使えるわ。第3段階は美雨ちゃん達を見れば分かるよね?私達は騎士、パートナーの信頼が力になるの。二見は四郎君を本気で殺しに来る、今日は見逃されたのね。」
見逃された?
俺が、二見瞬にか?
「私達は奪い合われる立場だけどね、パートナーを
裏切らない。私達は、パートナーが居てこそ存在しているようなものよ。」
「とにかくだ、四郎君。俺達はどうやら、第2段階に進まないといけないようだ。進むには、モモちゃんを信頼する事だ。」
女の言葉を聞いた刑事の男が、俺に向かって言葉を放った。
信頼…か。
俺には縁遠い話だ。
最初の頃よりは、モモに対しての考え方は変わった。
だが、俺は辰巳さんのようにモモを思えるのか?
「八代警部補!!2人の搬送を終えました!!」
「分かった。四郎君、俺の連絡先だ。何かあったら、連絡してくれ。」
八代はそう言って、メモ帳に電話番号を書き渡して来た。
「辰巳零士の運ばれた病院を書いておいたから、見舞いに行くだろ?じゃあ、俺達はこれで。」
「私の連絡先も渡しておくね。何か聞きたい事があったら連絡して。」
「八代警部補、槙島警部補!!こちらに来て下さい!!」
警官に呼ばれた2人は、倉庫から出て行った。
倉庫には俺と三郎、モモが残された。
「さてと、帰りますか。ここに用は無いしね。」
三郎は倉庫を出て、車に乗り込んだ。
「四郎…。」
「何だ。」
「…、何でも無い。」
モモはそれだけ言って、黙って手を繋いだ。
倉庫からの帰り道、いつの間にか日が暮れていた。
モモは後ろの座席で、スヤスヤと眠っている。
俺は窓を少し開けてから、煙草を取り出し、口に咥える。
「四郎、俺の騎士にならない?」
「騎士って…、お前のパートナーって事だよな。」
「うん、俺は最初からそのつもりだったんだけどさ…。無理強いも良くないじゃん?」
「へー、お前にそんな顕著(けんきょ)な気持ちがあったんだな。」
そう言うと、三郎は軽く笑った。
「あるよ、そりゃ。四郎に関してはね?」
「お前は昔から、俺主義だもんな。」
「えー?確かに。良いんだよ、俺の生き甲斐なんだから。」
三郎は昔から、俺を主体に物事を考える。
俺に縛られているような人生で、三郎は良いのだろうか。
たまに、そう思う時がある。
「それで良いのか?俺に縛られて。」
「今更?嫌だなんて、思った事ないよ。だってさ?隣同士に住んでた時から、一緒に居たし。お互い辛い時も側に居たから。」
信号が赤に変わり、車が停車した。
三郎は俺の手を取ると、手の甲に唇を落とした。
チュッと軽く口付けをされた後、頭に何かがフラッシュバックした。
車を発信させて数分後、黒猫が飛び出して来る映像が流れた。
「これで、第1段階に行けた…かな。ねぇ、何か映像が流れた?」
「あぁ、黒猫が飛び出して来るのが見えた。」
「それ、俺のJewelry Wordsの能力だよ。数分先の未来が見える。」
「こんな簡単なのか?」
「いや、俺と四郎には元々、信頼関係が出来ていたからだよ。普通はそんな簡単じゃないよ、モモちゃんが良い例だよ。」
三郎が煙草を咥えたので、火を付けてやった。
「ありがと、あの刑事達は信頼して良いよ。2人の
言っている事は本当だ、嘉助が言ってた。」
「お前が言うならそうだらうな。」
「四郎は死なせないよ。」
「その時にはならねーと、分かんねーな。」
モモが黙って、俺達の会話を聞いている事に気が付かなかった。
ー東京のとあるバーにてー
嘉助は1人、バーで飲んでいた。
椿から任された嘉助は、このバーのオーナーになった。
会員制のバーで、店内は黒を貴重にデザインされ、キャンドルが綺麗に飾れている。
嘉助は招待した人物達の為に、店を定休日にしていた。
ムーンライトクーラーを口に運び、煙草に火を付けた。
♢ムーンライトクーラー (カルバドス60ml レモンジュース30ml 砂糖1/2 1stpをシェイク、ソーダ適量で満たす。)♢
キィィィ…。
重たい扉が開き、高齢のバーテンダーが男達に声を掛けた。
現れたのは、深緑色の髪の男とブロンドの髪の男だった。
「いらっしゃいませ、お客様。オーナーがお待ちで御座います。」
カツカツカツ。
男達は高齢のバーテンダーに案内され、嘉助のいる席に座った。
「貴方が嘉助か、僕達に連絡をして来たのは。」
「あぁ、何か飲む?ここは、俺の店だから、好きな物を頼んで。」
嘉助は男達にメニューを渡した。
「グラスの白で良い、ノアもそれで良い?」
「良いよ。」
「了解、マスター。白のグラスを2つ。」
「かしこまりました。」
嘉助からオーダーを聞き、バーテンダーは白ワインをグラスに注いだ。
2人の元に白ワインが運ばれ、嘉助はグラスを上げた。
「とりあえず、乾杯しようか。」
「「乾杯。」」
チーン。
「僕達のマスターはどこに居る。まだ、兵頭雪哉の側に居るのか。」
「今は兵頭会の本家にいるよ。William君は今、椿と言う男が狙っている。」
「マスターの血が目的か。」
「天音(あまね)君の考え通りだよ。椿会は、アルビノの血を使って、ドラックを作っている。今は、椿が囲っているアルビノの女性の血を使っているけど、William君に目を付け始めてる。」
ガシャンッ!!!
嘉助の言葉を聞いたノアは、テーブルを叩き付けた。
「Don’t be kidding you bastard [ふざけるなこの野郎])
ノアは英語で、言葉を吐き捨てた。
「マスターの血を使って、ドラックだと?ふざけた
野郎だな。兵頭雪哉は、その事を知っているのか?」
「いや、知らない。知っているのは、俺と知り合いだけだ。だからこそ、君達を日本に呼んだんだ。」
「へぇ、俺達に依頼と言う形で、日本に呼んだのか。その椿って、奴は殺せば良いんだろ。」
ノアはそう言って、嘉助に尋ねた。
「君達でも、椿は殺す事は難しいよ。Jewelry Pupilを2人も従えているからね。」
「Jewelry Pupilか、貴方もそうだろ。」
「うん、天音君の言うとおりだ。君達2人には、俺の騎士になって貰うよ。」
「おいおい、俺達はマスターの物だ。何で、アンタの下に付かないといけない。」
嘉助の言葉に不信感を抱いたノアは、嘉助を睨み付ける。
「君達を下に付けようなんて、思ってない。俺はもう、誰かの大切な人を奪わせたくないだけなんだ。椿を止める為に、君達にとっても悪い話じゃない筈だ。Jewelry Pupilの能力を使えれば、William君を助け易くなる。そう思うだろ?」
「確かに、僕達にとっては悪くない話だ。ただ、貴方を信頼している訳じゃないよ。」
「簡単な事じゃないのは分かってる。今のWilliam君だ。」
そう言って、嘉助はテーブルに七海の写真を数枚出した。
写真には、撮影された日付けも記載されていた。
「っ!!マスターだ。天音、マスターだよ!!」
「あぁ…、大きくなって…。マスターと一緒に居るのは?」
「William君の仲間達だよ。William君も、この子達に心を開いている。天音君とノア君の事を忘れていないよ。ほら、右手首を見て。」
嘉助は2人に七海の右手首の写真を見せた。
「この鳥は2人の事をイメージしているんだ。掘った彫り師に聞いたから、間違いはないよ。」
「マスター、僕達の事をそんな…。大事に思っていてくれたなんて…。」
「今まで、マスターが無事に生活出来ていたなら、良かった…。」
「雪哉さんは、七海君には殺しの仕事は一切させていない。いつか、君達と暮らさせる為に。」
嘉助の言葉を聞いた天音とノアは、口を閉じた。
そして、しばらく考えた後、嘉助の前で膝を付いた。
「マスターの為に、貴方の力を貸してくれ。」
「アンタの信頼に応える働きをする。」
「頭を上げてくれ。俺達は、同じ目的のある人間だ。手の甲を出して、Jewelry Pupilが口付けをすれば、第1段階に行けるようになる。」
スッと嘉助の前に、2人は手の甲を出した。
嘉助は軽く口付けをし、2人の薬指にタンザナイトの石が付いた指輪を嵌めた。
「これは…。」
「この指輪は、俺の騎士である証だ。天音君、ノア君、話の続きをしよう。今後の計画に付いて、2つのパターンを想定して話す。」
2人は席に座り直し、嘉助は話を続けた。
のちに、天音とノアは椿の宿敵と存在になるのだった。
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