テラーノベル
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口をつぐんでいる私に、彼が言う。
「言っておくが、おまえが考えているようなことは、何にもないからな」
「……。……そんなの、信じられないもの……」
彼のことを信じたいと思う気持ちとは裏腹に、ようやく声に出せたのは、否定的な一言だった。
「……なんでだ。おまえは、俺が信じられないのか?」
「信じる」と言ってしまえたら、どんなにかいいのにと思う。だけど、肝心なその言葉はどうしても口から出てこなくて、苦い思いだけが喉元をせり上がった。
「だって……、」
唇を噛みしめて下を向くと、
「……いいから、こっち向け!」
向かい合わせで顎が捕らえられて、やや強引に上向かされた。
「よく聞けよ。エマとは久しぶりに顔を合わせたんで、懐かしくて盛り上がっただけだからな。それに俺たちの仲を疑ってるなら、彼女にはちゃんと旦那がいるしな」
「旦那さんが……」
呟いた私に、彼が「ああ」と頷く。
「おまえがどう聞いてたのか知らないが、俺はおまえの話しかしてなかったし、彼女の方も俺たちのことを仲が良くてうらやましいと、冷やかしていただけだ」
「冷やかして、たの……?」
そういえば二人はずっと英語で会話をしていたんで、何をしゃべってるのかがほとんどわからなくて、それがよけいに不安感を煽っていたんだった……。
「もう機嫌直してくれよ。おまえにそんな顔をされてたら、俺も辛い……」
腕にぐっと抱き寄せられて、平手でぽんぽんと背中が叩かれる。
「いくら久々だったとしても、エマとばかり話して、俺がおまえを構わないでいたことは、謝る……」
彼が私から身体を離すと、道路脇でスッと頭を下げてきた。
「あっ、あのそこまでしてくれなくてもいいからっ……」
慌てて頭を上げてもらおうとするけれど、
「……ちゃんと謝らせろ」
片手で自分の頭を掴むと、彼がさらに深く腰を折り曲げた。
「でも……私も、勝手に勘違いして、不機嫌になってたから……」
ちゃんと彼を信じて初めから気持ちを打ち明けていれば、すれ違うようなことだってきっとなかったのに、私も悪かったからと謝ろうとすると、
「……おまえは、悪くない」
ようやく頭を上げた彼が、私を制してそう断言をした──。
コメント
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第85話、読みました。彼が頭を下げて謝るシーン、胸にきましたね…。ちゃんと誤解を解こうとしてくれる誠実さと、それでも自分も悪かったと謝ろうとするヒロインの優しさが、両方とも愛おしくて。「おまえは悪くない」の一言に、彼のヒロインへの想いの深さが詰まっているように感じました。すれ違いのあとだからこそ、この和解が沁みます。次話も楽しみにしていますね🌷
#さとみくん
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