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役が進むにつれて、涼ちゃんの体重は、最初に言われていた目標を越えて減っていった。
誰かに言われたわけじゃない。
でも、戻すタイミングが分からなくなっていた。
カメラの前に立つたび、
「もう少しこのままで」と思ってしまう自分がいた。
その代わり、体は正直だった。
朝起きると喉が痛い。
少し無理をすると、すぐ熱が出る。
風邪をひく回数が、明らかに増えた。
「免疫落ちてるかもね」
スタッフが冗談っぽく言ったその言葉を、
涼ちゃんは笑って受け流した。
実際、撮影が少し遅れた日もあった。
涼ちゃんの発熱が原因で、スケジュールがずれた。
「大丈夫?今日は休もうか」
そう言われるたび、胸が痛んだ。
迷惑をかけている。
それだけは、はっきり分かった。
だから、
熱があっても現場に行った。
解熱剤を飲んで、
少しふらつくのを誤魔化して、
カメラの前に立った。
「いけます」
その一言を、何度も繰り返した。
カットがかかるたび、
頭がぼんやりする。
視界が一瞬、遠くなる。
それでも涼ちゃんは、
座り込まなかった。
弱音も吐かなかった。
“ここで止まったら、また迷惑をかける”
その考えだけが、体を動かしていた。
演技は、評価された。
「集中力すごいね」
「役に入り込んでる」
褒め言葉を聞くたび、
涼ちゃんは小さくうなずいた。
でもそれは、
体を削っている理由にはならなかった。
撮影が終わって控え室に戻ると、
一気に力が抜ける。
椅子に座ったまま、しばらく立てない。
それでも、
誰かが来る気配がすると、すぐ背筋を伸ばした。
“元気な演者”でいなければいけなかった。
涼ちゃんは、
迷惑をかけないために頑張っているつもりだった。
でも気づかないうちに、
その頑張りが、
別の形で現場を止め始めていた。