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とある日の撮影。カメラが回る直前、涼ちゃんは小さく息を吸って、手を挙げた。
「……すみません。
少しだけ、休憩をください」
現場が一瞬、静まる。
監督はすぐに表情を変えて、うなずいた。
「いいよ。無理しないで」
控え室のベッドに横になると、
天井がやけに高く感じた。
体は横になっているのに、
頭だけがずっと起きている。
――ここまで来たのに。
――止まっていいのか。
――迷惑、かけてないか。
考えが勝手に巡って、
どれも答えが出ない。
しばらくして、
ノックの音。
「大丈夫?」
監督が、そっと顔を出す。
「はい……少し、休めば」
本当かどうか、自分でも分からない返事だった。
監督はそれ以上聞かず、
「また後で様子見に来るね」と言って、静かに扉を閉めた。
ベッドに残された涼ちゃんは、
胸に手を当てて、呼吸を数えた。
速くもない。
苦しくもない。
でも、落ち着かない。
時計を見ると、
思っていたより時間が経っている。
また、ノック。
「水、飲めてる?」
「うん」
それだけの会話。
でも、監督の目は、明らかに心配していた。
数時間おきに、同じやり取り。
具合を確認され、
無理なら今日は止めようと言われる。
涼ちゃんは、そのたびに
「もう少ししたら行けます」と答えた。
行けるかどうかじゃない。
行かなきゃ、という気持ちだけが残っていた。
ひとりになると、
ベッドの端をぎゅっと握る。
「……頑張りすぎ、かな」
誰に聞かせるでもなく、
小さくつぶやく。
答えは返ってこない。
でも、その言葉を口に出した瞬間、
胸の奥が少しだけ、重くなった。
また、足音。
監督が来る前に、
涼ちゃんは体を起こした。
“元気な演者”に戻る準備をするみたいに。
それが正しいのかどうか、
もう分からないまま。