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「証人を召喚します────佐藤香織さん、前へ」
法廷の扉が開き、かつての「女王の側近」が姿を現した。
今の彼女は、ブランド物のバッグを必死に抱え直す
どこにでもいる臆病な主婦だ。証言台に立つ彼女の指先が、小刻みに震えているのが見える。
「香織……!」
隣で美月が嬉しそうに声を弾ませた。
親友が助けに来てくれた、とでも思っているのだろう。
私はその耳元で、甘く、毒を含んだ声で囁く。
「大丈夫。彼女に、あなたの『本当の姿』を語ってもらいましょう」
私はゆっくりと香織の前に歩み寄った。
「佐藤さん。あなたは被告人・白鳥美月さんと中学時代からの友人ですね?当時の彼女は、どのような人物でしたか?」
「え、ええ…明るくて、リーダーシップがあって……」
香織が用意された台詞を口にする。私は満足げに頷き、そこから一気にナイフを突き立てる。
「では、当時あなたのクラスにいた『渡邉結衣』さん……母が殺人犯として逮捕された少女に対して、美月さんはどのような行動をとっていましたか?」
法廷の空気が、一瞬で氷点下まで下がった。
検察官が
「異議あり! 本件に関係のない過去の素行です」
と立ち上がるが、私は冷静に裁判官を見据える。
「関係はあります。今回の事件、世間では『10年前の事件の模倣』と囁かれている。ならば、当時最も身近でその事件を見ていた被告人の精神性を確認することは、動機の有無を判断する上で不可欠です」
裁判官の許可が下りる。
私は香織の目を逃さないよう、至近距離まで詰め寄った。
「佐藤さん。あなたが以前、私に漏らした本音をここで話してください。…美月さんは、結衣さんに何をしましたか?」
「そ、それは……」
香織がチラリと美月を見る。
美月は「何を言ってるの?」という顔で固まっている。
私は香織だけに聞こえる声で、死神のように囁いた。
『あなたの不倫の証拠、隠し通せると思っているの?』
香織の瞳が恐怖に染まる。彼女は弾かれたように叫んだ。
「……美月が、全部やったんです!結衣をトイレに閉じ込めて水をかけたり、『人殺しの娘』って書いた紙を背中に貼ったり……!」
「わっ、私は、逆らったら次が自分だと思って手伝わされていただけなんです!」
「香織!? 何を言ってるのよ!?」
美月が椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。
法廷内が騒然とする中、私はさらに追い打ちをかける。
「それだけですか? 美月さんは、結衣さんの母親が逮捕されたとき、何と言っていましたか?」
「……『ざまあみろ、これで結衣も人殺しだ』って。そう言って、笑ってました……!」
傍聴席から「最低だ……」「やっぱり本性が出た」という落胆と怒りの声が漏れる。
美月は顔を真っ青にしながら、私に縋り付いてきた。
「先生嘘よ、香織は嘘をついてる!なんとかしてよ!」
私は彼女の震える肩を抱き寄せ、マイクに拾われない声で、凍りつくような冷笑を浮かべた。
「美月さん。嘘をついているのは、あなたでしょう? ——」
「え…っ?」
「私が『渡邉結衣』だと、いつ教えようか迷っていたけれど、それが今のようですね」
美月の動きが、止まった。
大きく見開かれた彼女の瞳に、10年分の憎悪を湛えた私の顔が映り込む。
「は…?ゆ…い……?」
「さあ、お掃除の時間よ。あなたの汚い過去を、全部ここにぶちまけてあげる」
第3回公判
「聖母」の仮面は、かつての友人の手によって、見るも無惨に剥ぎ取られた。
崩れ落ちる美月を見下ろしながら、私の胸のうちは、暗い歓喜で満たされていた。
#女主人公
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