「ブランド服のコーディネートなんて分からないよ。でも手持ちの服なら涼さんが連れて行ってくれるお店に相応しくないだろうし……」
その時、「はーい!」と佳苗さんがモデル歩きで華々しく登場した。
「何をしに来た。佳苗」
「やーね。手助けよ。恵を着飾る事ができるなんて、滅多にないんだから」
そう言って、佳苗さんはウォークインクローゼットに入って行く。
私はシンプルに疑問というか、確かめたい事があって尋ねた。
「佳苗さんはそういう感じなのに、恵があまり服に興味を持っていなかったのは、やっぱり反動とか?」
すると恵は溜め息をついて頷く。
「……母親がこうだから、授業参観の時とか目立ってさ。『恵ちゃんのお母さん、綺麗だね』って言われるのは嬉しかったけど、『あんまり似てないね』って言われるのが嫌だった」
「そこでお洒落に興味を持たないのが、恵なのよねぇ」
佳苗さんはハンガーに掛かっている服を見ながら言う。
「私は兄貴と一緒に男の子っぽい格好をしているほうが多かったし、思い出したように可愛い服を買われても、着るつもりになれなかったんだよ」
娘の話を聞き、佳苗さんは溜め息をつく。
「私は良かれと思って、恵に似合いそうな服を買っていたけど、恵はいつも『シンプルな服がいい』って言っていたわよね」
「……ガッカリさせてたなら悪いけど、あの頃から女の子らしくする事への抵抗はあったんだと思う」
そこで、私はボソッと呟いて口を挟む。
「佳苗さんが綺麗で女性らしいから、『あんな風にはなれない』って思った?」
そう言うと、恵はジロリと私を睨み、ポスッと力なく叩いてくる。
「……そうだよ。私は男の子っぽいっていう自覚があったし、逆立ちしてもお母さんみたいにはなれないの」
「やーだぁ! 恵ったら可愛い~! 知ってたけど!」
佳苗さんはムギューッと恵を抱き締め、よしよしする。
「あなたはもうちょっと、お母さんみたいに図太くなれたらいいのにね? 周りに気を遣って遠慮しちゃう子だから、こうなっちゃったのかしらね?」
「佳苗、ステイ!」
照れた恵が言うと、彼女は「あはは!」と笑ってから服を手にした。
「これにしなさい」
佳苗さんが選んだのは白いモシャモシャしたボレロに、ベージュピンクのノースリーブのIラインワンピースだ。
「とりあえず着替えて、シューズクローゼットで靴を見ましょう。あー、楽しい!」
「うう……、スカート……」
恵はワンピースを見てしょっぱい顔をし、うめいている。
「恵、いいじゃん。せっかく買ってくれたんだし」
「絶対スースーする」
「女装したおじさんじゃないんだから」
私が突っ込むと、恵はなんとも言えない顔をして黙った。
私と佳苗さんが一旦部屋を出ている間、つける下着も指導された恵が「終わったけど……」と声を掛けてくる。
「ンアアアアア!」
「きゃわいい!」
私と佳苗さんは一斉に声を上げ、サッとスマホを取りだすとパシャパシャ写真を撮る。
花柄レースのワンピースは、上にシースルー生地が重なっていて、背中は透け感がある。
なのでインナーには、バックスタイルを見せるタイプの下着を着てもらったのだけれど、恵は髪が短いから背中がばっちり見えてとてもイイ!
「しかも姿勢がいいし、細身でスタイルがいいからすっごい格好いい!」
私は熱心にレポートしながら、あらゆる角度から恵を撮っていく。
「……もー、ちょっとやめてよ……」
「あらやだ大変! 急がないと」
次に私は恵をドレッサーの前に座らせ、鼻歌を歌ってデパコスの箱を開け、中身を確認して服に合うアイシャドウを探していく。
しっかりと下地をブラシで毛穴に埋め、コンシーラーにファンデーション、パウダーで毛穴レスの肌にし、フワッとハイライトを入れてシェーディングをし、初夏なのでオレンジやピンクを主体にしたアイシャドウを塗る。
ハイライトカラーにはゴールドを使い、スティックアイシャドウで涙袋をさり気なく作る。
眉毛にもアイシャドウと同色の赤味をサッと足し、コーラルカラーのチークをサッと塗って完成だ。
「きゃわいい~~~~……」
「我が娘ながら、ポテンシャル高くて恐ろしいわ……。お母さん、事務所紹介してあげようか?」
「やだよ、やめてよ」
恵は心底嫌そうな顔をし、佳苗さんに向かってシッシッと手を払うと、姿見に映った自分を見て溜め息をついた。
コメント
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佳苗さん&アカリンプロデュースにより 美しく変身した恵ちゃん....👗💖✨✨ さて、涼さんの反応は....⁉️💕💕🤭