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タブレットの画面が、静かに点く。
ブレた映像。
遠くの声。
風の音と、校舎裏の影。
───最初は、誰もすぐに理解できなかった。
「……ここ……」
桃の声が、喉の奥で止まる。
翠は、画面を見た瞬間、
はっきりと体を強ばらせた。
呼吸が、変わる。
映っているのは、
校舎裏の、いつもの死角。
人気のない場所。
時間表示が、ゆっくり進む。
赫が、息を吸う音が聞こえた。
「……これ……」
画面の端に、
制服の袖。
俯いた影。
──翠。
誰が言うでもなく、
全員が同時に理解した。
空気が、すっと冷える。
黄の手が、無意識に口元に行く。
瑞は、瞬きもせずに画面を見ている。
映像の中の翠は、
今よりずっと無表情だった。
感情がない、というより、
感情を閉じ込めた顔。
音声が、少し大きくなる。
乱暴な声。
笑い声。
短い言葉の応酬。
──具体的なことは、映らない。
でも。
何が起きているかは、嫌というほど分かる。
桃の指が、震えた。
茈は、視線を逸らさない。
でも、奥歯を噛みしめている。
翠は───
画面から、目を離さない。
まるで、
自分を確認しているみたいに。
数十秒。
たったそれだけなのに、
部屋の空気が、完全に変わった。
──さっきまでの沈黙とは、違う。
これは、
知ってしまった沈黙。
赫の声が、かすれる。
「……これ……」
「……毎回……?」
翠は、答えない。
代わりに、
時間表示が、また進む。
日付が変わる。
場所は、同じ。
画角も、ほぼ同じ。
───繰り返し。
黄が、さっきの違和感に確信を抱いて、
息を詰まらせた。
瑞の指が、震え始める。
「……翠にぃ……」
声が、細い。
桃は、もう画面を見られなくなっていた。
それでも、止めない。
止められない。
翠は、ぽつりと零す。
「……ここで……」
「……撮るのが、一番……」
「……証拠、残りやすかったから……」
その一言で。
空気が、
完全に壊れた。
守るためだと分かっても、
理解しても、
受け入れられる話じゃない。
学年主任が、そっと言う。
「……一度、止める」
画面が、暗くなる。
でも。
部屋の空気は、
もう、元には戻らなかった。
翠は、ゆっくり息を吐いた。
そして、
初めて。
「……俺……」
「……こんな顔、してたんだ……」
その言葉が、
全員の胸に、深く突き刺さった。