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萩原なちち
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「え、じゃあ……」
「そう。いつきくんを勝ち取ったのは、りゅうせいくん。僕がだいきさんを好きな間、だいきさんはずっと、いつきくんを見てたんです」
なんだ。みんな、最初から順風満帆だったわけじゃないんだ。
「……しんどかったですよね。でも、上手くいって本当によかった」
「まぁ、僕には絶対的な自信がありましたから。今もそれは揺るぎないんですけどね」
「ふふっ。ですよね、そんな感じがします」
「え!? いや、その話は後で聞くとして。ここからが本題なんです。……聞きたいですか?」
そうだ。まだ全員が出揃っていない。唯一の女性、ミレイちゃん。
……これは、知っておかなければならないことだ。
「……教えてください。いつきさんが、僕に話せなかった本当のこと」
「……実は、僕はミレイのお見合い相手として、大阪から東京へ連れてこられました。でも、お見合いの席で恋に落ちてしまったのは、僕たちの親同士だったんです。婿養子として会社を継ぐ予定が、再婚によって『息子』として継ぐことになってしまった。でも、僕の決心がなかなかつかなくて……結局、ミレイにお見合いの話がまた舞い込んできてしまった」
しゅうとさんが、少し寂しそうにグラスを見つめた。
「その時、僕の周りで最も信頼できるのはいっちゃんしかいないと思って、僕は半ば強引に、ミレイをいっちゃんに押し付けてしまったんです」
「……いつきさんは、ミレイさんには好きな人がいて、自分はすぐに諦めたと言っていました。でも……僕はまだ、いつきさんが幸せになる道はミレイさんと一緒になることなんじゃないかと思ってしまっているところがあって。あんなに素敵な人を、好きにならないわけがないって……」
「……でも、それっていっちゃんにとっての幸せなんかな?」
そんなこと、言われなくても分かっている。
僕だって、いつきさんと一緒にいたい。それが今、僕らの一番の幸せなんだって、頭では分かっているのに。
「……でもいっちゃんからミレイの好きな人の話を聞いた時、決めたんです。やっぱり僕が社長に就くべきだって。ミレイ一人に責任を押し付けるわけにはいかない、僕も家族なんだからって。夫婦にはなれないけれど、兄妹で助け合っていけばいいんじゃないかって話し合ったんです」
「……え、それって、もしかしてミレイちゃんの好きな人って……」
「残念ながら。僕、可愛すぎて女の子に異常にモテちゃうんです。本当、こればっかりは親を恨みますよ」
「うわ……それ、自分で言っちゃうんだ」
「ふふっ」
「ふふふっ」
重苦しかった空気が、しゅうとさんの自惚れ自慢で一気に和らいだ。
しゅうとさんは真っ直ぐ僕を見て、優しく笑った。
「だから、安心してください。ミレイも、会社も、僕が守ります。……ゆうたさんは、いっちゃんの『幸せ』を守ってあげてください」
「……なんか、いい言葉ですね」
不意に視界が潤んだ。今まで僕が一人でうじうじと抱えていた悩みは、一体何だったんだろう。
「……それより、ゆうたさんって、ずっと『いつきさん』呼びなんですか?」
「はい。ずっとです」
「でも、一緒に飲みに行ったことあるんですよね? 『いっちゃん』って呼んで! って強要されませんでした? その時、どんな感じでした?」
「全然! お酒二杯で酔い潰れてしまって。お家を教えてくれたので、そこまで送って行きました。その時は、エレベーターで目を覚まされたので、そこでさよならしたんですけど」
「マジですか? ……うわぁ。本当に本気の本気やん……」
何だろう。なぜか、しゅうとさんが自分のことのように嬉しそうにしている。上司さんたちに対しても、いつきさんはいつも同じことをしているんじゃなかったの?
「いっちゃんって、本当に誰にも自分の家を教えないんですよ。それに、酔ってる間は絶対『いっちゃんって呼べ』ってうるさくて……言わないと永遠に言い続けるんです。ゆうたさんからされる、その丁寧な呼び方が心地いいんですかね?」
「……それは、わからないですけど」
実は、僕も好きなんだ。いつきさんが「ゆうたさん」って呼んでくれるのが。
酔っている時の、あの踏み込んだ「ゆうた」という響きにもドキッとしたけれど。普段の、僕のことを大切に扱ってくれている感じがする「ゆうたさん」という呼び方が、すごく好きだ。
……あぁ、だめだ。いつきさんに、猛烈に会いたくなってきちゃった。
「あ、そうだ! もう一つ謝らないとダメなことがあって。……さっきの、本当は嘘ですから。僕、悩んでるいっちゃんに無理やり『相談に乗るよ』って言って、ゆうたさんとのことを聞き出そうとしたんです。でもいっちゃん、なかなか話してくれなくて。僕の前でちょっと冗談混じりにこぼしたのが、『好きって言ってくれない』っていう、ただの可愛い愚痴だったんです。いっちゃんは本当に信頼できる人だから、人のことをベラベラ喋ったりしませんよ」
「そうですね。僕といる時のいつきさんも、いつも言葉を選んで、誰かの迷惑にならないように話してくれます。冗談で言うことはあっても、人のことを悪く言うような人じゃないって、僕も知っています」
「そうですよね。……でも、本当に僕にできることがあったら、いつでも言ってくださいね? いっちゃんの大切な人は、僕らにとっても大切な人ですから」
うわぁ、嬉しい。
思っていた通りだ。いつきさんは、やっぱり素敵な人だった。
もっと知りたい。まだ知らないいつきさんのことを。お友達さえ知らない、彼の一面を。
「あ、あとこれ。僕と旦那さんからの、いっちゃんへのお祝い返しです。昨日、旦那さんが持って行き忘れてたのがバッグに入れっぱなしになってました。……これで、いっちゃんに会いに行く『理由』ができましたよね?」