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「……そうですね。今から会いに行きます」
「今日は朝から映画を一本観終わるたびに感想を送ってきてたんで。たぶん今行ったら、目パンパンでいつもの顔と違うかもですけど。ほら、もう五本目の感想きてた」
「……ネトフリ、ですかね?」
「え、入ってます? 今、僕らの中でブームで」
「……じゃあ、新しいのを見始める前に、急いで行かなきゃ」
「ほんま。あと、お祝い返しの感想も二人で送ってくださいね」
「わかりました。今日は会えてよかったです。また連絡しますね」
「うん、じゃあね」
「はい、また」
最後は笑顔で手を振り合えてよかった。いつきさんは確実に家にいるみたいだし、このまま向かってもいいかな。映画を観ているなら、電話で邪魔しちゃいけないだろうし。
「えっ、なんで!?!? ゆうたさん!?」
「ふふっ。寝癖、かわいいですね?」
「くるって電話で言ってくれたら、直してましたぁ……っ」
ずっと家にいたからか、少し気の抜けた姿のいつきさんがたまらなく可愛い。本当だ、ちょっと目が腫れてる。それに、お部屋用のスウェット姿……めちゃくちゃエロいな。
「え、カレーの匂い! すごくいい匂いがします!」
「え!? 好きですか? 最近、休みが暇すぎてとうとうスパイスに手を出しちゃって。朝から煮込んでるんすよね。凝り性なんで、完全に沼ってます」
「僕、夜ご飯食べてなくて! 食べたいです!」
なんだか興奮してしまう。僕は料理をほとんどしないから、やりたいと思ったことをすぐ行動に移せる人は、本当に素敵だと思う。
「実は……ナンもありまーす!」
「うわ! 最高! いつきさん大好き!」
「え、……今、なんて言いました?」
あ。
あんなに言い渋っていた「好き」という言葉を、ナンがあるというだけで、いとも簡単に口に出してしまった。
……なんか、恥ずかしい。ナンだけに。
「……いつきさん、大好き、って」
「俺もぉ! 俺もゆうたさん好きぃ、大好きぃ……!」
これでもかっていうくらいギュッと抱きしめられて、なんなら隙あらばチュッチュされている。
お部屋モードのいつきさんは、こんなに甘えん坊なんだ。
「……こうやって会える日は、ちゃんと会ったほうがいいですね。時間が空くと、どうしてもリセットされて緊張感が出ちゃうから」
「……いいんですか? ゆうたさんの貴重なお休み、俺がもらっちゃって」
「……僕は、いつきさんに出会ってから、ずっといつきさんのものですから」
至近距離で目が合って、心臓が跳ねる。
さっきまであったはずの「泣き腫らした目」の面影はもうない。そこにあるのは、いつものカッコいい、男の人の目をしたいつきさんだ。
「……今、迷ってます。ゆうたさんの『空腹』を優先するか。それとも、俺の『性欲』を優先するか」
じぃっと射抜くように見つめられて、そのまま溶けてしまいそうだった。
「……じゃあ、僕はとりあえずいつきさんのことを食べて、カレーは後でゆっくり食べます」
「とりあえずでも、何でも、最初に選ばれて嬉しい」
えへへ、と子供みたいに笑う。本当、この人は会うたびに色んな顔を見せてくれる。
薄い唇を舐めとり、熱い口内を味わう。やっぱりいいな、好きな人とこうして触れ合うのは。さっきまでのトゲトゲした気持ちが、穏やかに溶けていくのが分かる。
「ん? お酒、飲んだんですか?」
「ちょっとだけ。展示会の帰りに、しゅうとさんに偶然会って」
「え!? 俺も行きたかったです! 呼んでくれれば行ったのに」
「いえ、本当に……拉致、みたいな感じだったので。すぐ帰るつもりだったし」
「うわぁ……もう本当、しゅうとのこと叱っておきますね」
呆れたような顔をして、お兄さんの顔になるいつきさん。友達というより、やっぱり弟みたいに思っているんだろうな。
「ふふっ。でも、僕は有意義な時間でしたよ。あ! そうだ、これ。お祝いのお返しだそうです」
ソファの横に置いたバッグから、紙袋を取り出す。しゅうとさんが「二人の感想を聞かせて」と言っていたけれど、お菓子か何かなのかな。
「軽っ! ……あ、俺、分かったかもしれない」
いつきさんが箱を取り出し、耳元で音を鳴らす。僕にはクッキーか何かにしか聞こえないけれど。
「本当、あの人馬鹿だ……。っていうか、しゅうとも注意しろよ……」
「えっ、何これ?」
いつきさんが蓋を開けると、そこには色とりどりの小さな袋に梱包されたものがぎっしりと詰まっていた。クッキーにしては薄いな、と手に取って見てみると――。
『高級スキン』
これ……全部、コンドーム!?
「いや、いつきくんとりゅうせいにならまだ分かるよ? 俺は対象が違うでしょ……」
「しゅうとさんたちは、僕たちのこと知らないんですか?」
「……だって、俺ら、付き合ってるわけじゃないじゃないですか。こんな関係、どう伝えていいか分からなくて。誰にも言ってないです」
「……そうなんだ」
そっか。今の僕たちは、まだ「体の関係が少しある友達」に過ぎないんだ。
いつきさんは、決して自分の気持ちを押し付けたりしない。……だったら、ここは僕が男らしく、自分の気持ちを伝えなきゃいけない。
「あの、僕、いつきさんの『恋人』になりたいです。だから、その……これ、全部僕のために使ってもらえませんか?」
萩原なちち
一瞬の沈黙。いつきさんの目が、カッと見開かれる。
「はい! 使います! なんなら、一晩で使い切ってもいいくらいです!」
「ふふふっ、もう、いつきさん笑わせないで!」
「スピードが俺の持ち味なんで」
さっきまでふざけていたのに、唇が重なると一気に色っぽくなる。
ずるいな。本当に、その顔はずるい。
流れるような動きでベッドに誘導され、そのまま押し倒された。