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「……う、」
……ここは、ど…こだ..…?
「あっ!目を覚ましたかい?」
ネガリシハムの声がやたら澄んでいる…。太陽の様な匂いがする……。
「いやあ〜、ずいぶん待ったんだよ?君がこっち側に来る前に気を失っちゃったから何の説明もできないし…。」
…何だか全身がヒリヒリと痛い気がする。
「…ここは……?」
「ん〜?そうだねぇ、ここは簡単に言うとノゾムくんたちのいた世界の裏側って感じかな?」
頭に情報が入らない。とりあえず体を起こしてみる。
「大丈夫〜?ここに来るとみんな体の形変わっちゃうんだけど。」
言われてみれば、さっきから見える景色が全て白黒だ…。
「ほらっ!ボクも見てみて!」
そういえば見ていなかったネガリシハムの方へ振り返る。
「!?!?!!」
あの衝撃的な虫のような化け物が人型になっている!それでもまだかなり化け物だが…。
正直アレのあとでは霞む。
そこには、体の半分が真っ黒で、もう半分は仮面を付けたふわふわの白い髪(金髪だろうか?)に白いローブを着たネガリシハムが立っていた。
腰が抜ける。そりゃびっくりもするだろう。
「……っははは!本当に君はタヌキみたいなやつだな!傑作だよ!!」
ネガリシハムが太ももを叩いて笑っている。お前の見た目の方が傑作だろう。
「ほら、君も自分を見てごらん?はい、手鏡。」
渡してくれた手鏡を覗く。そこには白目以外の部分が全て黒くなった自分がいた。
「……。」
「あれぇ…?あんまり驚かないね…。」
「お前のせいだよ、シハ。」
「そうなのぉ?」
シハが首をこてんと傾げる。かたや金髪?の仮面を付けた顔、かたや真っ黒な影、黒いだけの僕とはカルチャーショックが桁違いだ。
「体の方は大丈夫かい?」
「今のところ、体中がヒリヒリ痛むのと視界が白黒なのだけだな。」
「ヒリヒリは多分そのうち治るよ、視界不良は…多分何か代わりの能力が発現してるんだと思うかな〜。」
……。頭に血が戻ってきた。だいぶ情報が頭に入ってきた気がする。
「…結局シハは何者なんだ?」
「わかんない。」
「だってそんなのわかったって面白くないし。」
やはりよく分からないやつだ。ここは裏側の世界で、ここに来たら形が変わる。そして僕は世界がモノクロでしか見えなくなった。
「…!?ちょっと待て!」
「…?どうしたの、ノゾムくん。」
「……過去の景色まで全て白黒でしか見えない…。」
まるで、自分の中から、色という概念が抜け落ちている様な……。
「怖かった?」
「……。」
悪寒を覚えたまま、静かに頷く。
過去の景色から、色が奪われてゆく。ただ絶望した。もう…
もう鮮やかなあのヒトを見られない…!
「……君は、君の殺した者に執着しているのかい?君は……、」
「黙れ…!」
僕は…、僕にはあのヒトが全てなんだ!あのヒトは、あのヒトの記憶は!欠けていいものじゃないんだよ!!!
強い感情が噴き出す。内側からどんどんと湧き出るように。しかし、ある一定のラインを超えたところで、僕の体に異変が起こった。
「…!?ゴボッ、げほッ!?」
ボタボタボタッと僕の吐いた何かがこぼれる。全身から血の気が引いてゆく。ソレは、真っ黒な液体だった。
「……はぁ、はぁ…ケホッ、」
パタタッと残りの黒い液体も垂れてくる。強い嫌悪感と疲労感だけが残った。
「…あはっ…あはははは!!!真っ黒だ!」
まったくこいつは狂っている。いつも笑っているから毒気を抜かれたと思ったら、本当にいつも笑っているのだ。
「あはぁ…、どんな味かなぁ……!」
シハが自分の腰から生えている奇妙な五本の触手の一つを伸ばす。アレは虫の時から生えていた気がする…。
ジュッ!!
「ぎゃあぁ!?」
!?一瞬の出来事だった。しかし我が目を疑った。シハが触手を伸ばしたあの液体は、シハの触手を溶かしたのだ。
「…ねぇ、これって結構やばいかも…。」
珍しくシハが真剣な声色で話してくる。そんなのわかっている。
「なんか……さ、コレから、なんでも作り出せる感じしたんだよ。そうでなくてもボクの体を溶かせるって相当だよ…?」
作り出せる……?いや、そもそも僕の吐いたアレは一体……。
「ちょっと触れてみなよ、多分君は大丈夫だと思う。」
興味はある。恐る恐る左手を伸ばす。
…とぷんっ
「……入った。」
「……入ったね…。」
なんでも、作り出せる……か。なら、僕の欲しいものは、ひとつしかない。
右腕も液体に突っ込む。僕の望んでいたものが両手に触れる。どぷん、と音を立てて出てきたのは、あのヒトの模造品だった。
「……ゔっわ…。君やばいよ……。」
そんなシハの声は聞こえていなかった。
愛しいキミが、たとえ模造品でも帰ってきた。しかし、代償が重すぎたのか、また吐きそうだ…。
「…ガボッ!がっ、ごぼぼッ!」
今度はバチャンと激しく黒い液体がこぼれ落ちる。
「ごぷッ…!」
びちゃちゃちゃ、とどんどん液体を吐いてしまう。これは…流石にまずいかもしれない。意味は無いが手で皿を作って液体を受け止めていた。手のひらいっぱいの真っ黒な液体を見ながら、僕はまた気を失った。
あぁ、おかえり、僕の愛しい人。