真っ黒なきみをじっと見下ろす。
眠るきみの脈をとる。
「……きみも、こちら側に来たのか。」
まあ、きみは俺を覚えていないだろう。きみは、『あのヒト』しか見えていないからな。たとえ『あのヒト』に恋人ができていても…だ。
「ばかだな。」
きみへの本音が漏れる。きみのことは全て知っている。その上で、本当にどうしようもなくきみはばかだ。
「やっほ!ノゾムくんどぅお?」
あぁ、来た。つくづく、この世のめんどくさいことは全て彼が引き寄せているのではないかと思う。
「別に…、問題はない。」
「相変わらず塩対応だねぇ…。彼女出来ないよ?」
「どうでもいい…。」
女関係は俺はもう充分だ。
「ま、そんなことは今どーでもよくて、問題はノゾムくんだよねぇ。」
「しばらくは起きそうにない。ここは俺に任せてほしい。」
「…ゲェッ、ホントに大丈夫〜?」
「ネガリシハムに預けているよりずっとマシだ。」
ノゾム…あぁまた『あのヒト』か。きみはいつもそうだな、空馬。
「あぁ、そうだそうだ!その子、自分の好きな子殺してたんだよ!面白くない?」
「…は?」
殺した…?空馬が??……『あのヒト』…を?
いや、『百ノ花 息吹』を……?……まさか…!
冷や汗がどっと吹き出る。背筋に悪寒が走る。空馬が居る限り、何があっても息吹さんは生きていると踏んでいた。それを空馬が殺した!?
「……ぁ、あ」
「…大丈夫!?」
「……大丈夫だ。」
「……チッ、まずいことになっただけだ。もう慣れっこさ。」
「イチシロくん…、」
「あ゛ぁ!?一白(ハジメシロ)だ、二度と間違えんな゛!!」
「きゃぁぁぁぁぁあ!!!」
「ねえねえ、きみはどうして一人なの?」
「……ぼくが、、いて、も…しかたな、い…よ。」
「そんなことないよ。」
「だ…ッ、だって、とうさんも…かあさんも、ぼくが、いると…ずっと、怒ってる…から。」
「…そうだ!君、名前は?」
「な…まえ?…い、いたくない…よ…。あんまり、好きじゃ…ないし……。」
「じゃあ、こうしよっ!わたしもきみも、お互いに名前をつけあって、その名前で呼び合うの!素敵じゃない?」
「そ…そう、だ…ね。それは、いいか、も。」
「…じゃあ、きみはノゾムくんね!」
「…!あ、あり、がと。い、いい名前…。」
「ね!次はノゾムくんの番!」
「じゃ、あ…アカリ…さん?」
「ふふっ!そんなにあらたまらなくてもいいよ!いい名前だね!」
何だか、周りが騒がしい…幸せな夢を見ていた気がするが、どれくらい寝ていたのだろうか。
「世話になる人の名前くらいきちんと読めこのばかぁ!何回目だごらぁ!!」
「あ〜ん!!いじめる!!!」
何??この……なに???
「……あの…。」
「あっ!ノゾムくん助けて!!」
「てめぇ……。」
目が覚めたばかりの奴に助けを求めるな。
「…あの、僕を助けてくれたんですよね?ありがとうございます…えっと…、」
「ハジメシロ カザフミだ。一に白でハジメシロ、風に文でカザフミだ。」
「このばかみたいに何度も名前を読み間違えないように。」
「馬鹿じゃないもん…。」
……しかしあのヒトは?いや、あのヒトの模造品……は?
「!…、じゃあ、ノゾムくんも元気になったし、説明出来てないこともあるからまた来るね!」
「…っえ?」
急にシハはそういうと、僕を持ち上げて、足早に外へ向かった。
「あっ、おい待て!まだ……、」
いくらなんでも急ぎすぎじゃないか?待てって一白さん言ってたし…
「…シハ、そんなに急ぐことは…、ムグッ!?」
「…。」
手で口を覆われる。シハの横顔が凍りついたように冷たい真顔をしていた。
…一白さんは、敵…?いや、そもそもシハも信頼してる訳じゃ無いしな…。とにかくシハにとって都合が悪いんだろう。
一白さんの?診療所のような研究所のようなこじんまりした建物を抜けた時、ようやくシハが話し始めた。
「…あのね、ノゾムくん、あんまりハジメくんの前であの殺してた子のこと話さない方がいいかも…、なんか知ってるぽいし…。」
「都合が悪くなったって言ってたから、下手したら何かやってくるかも…。」
…下手な行動は避けた方が良さそうだ。……そういえばあのヒト…の模造品は…?
「そうそう、君が作ってたあの人形、代償?が足りなかったのか消滅してたよ。」
あぁ、そうなのか……、やはりキミを創るのは容易ではない様だ…。
「まあ、練習すればそのうち作れるようになるんじゃないかな?まあハジメくんのことがあるから、むやみにはやらない方がいいと思うよ。」
「怪我とか病気…とか。まとめて診てくれるの、あそこが一番安全で確実だからね。」
やはりあそこは一白さんの診療所のようだ。こんな場所だしありがたくはあるが、僕があのヒトを殺している以上、むやみに世話になる真似をするのはやめておこう。
あの僕の能力、あれも使えるようにしておいた方がいいだろうし、まずは食器とか、文房具とかから始めよう。
「まあそれはさておきそんな君にボクからささやかなプレゼントだよ!」
「いつも急だな。」
「はいプレハブ小屋〜!」
「ノゾムくん面白いししばらく一緒に住もうとか思ってるからちょっと広めだよ!」
まあたしかに…ここに来てほぼ何も分からないままだからそばに居てくれるのは助かるが。ひとまずプレハブ小屋に入る事にした。
「まあボクまだやる事あるしゆっくりしてなよ。あ、あんまり外は危ないから遠くまで行かないでね〜!」
そう言い残し、また足早に去っていった。まったく忙しいやつだ…。
しかし…、一白…風文…?聞き覚えがある様な…、何かがひっかかるような…。それにシハは、あのヒトが死んだのが都合が悪くなったらしいって言ってたし…。
一白さんとキミは…アカリさんはどんな関係だったんだろう……。
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