テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「バッグ……いく?」
恵に尋ねると、彼女はフクロウかと思うぐらい首を傾げる。
「ブランドバッグを持って歩く自分が想像できない。通勤カバンは決まってるし、プライベートではスポーツ系のリュックが軽くて楽だし……」
確かに二人で遊ぶ時も、恵はあまり革製のバッグを持たない。
「指輪は先日買ったし、腕時計は?」
涼さんに言われ、私と恵は口を〝O〟の字に開いて大きく首を傾げた。
「なんか、アニメで山の精霊にそういう顔をした奴がいたな」
尊さんに突っ込まれたけれど、決してボケてる訳じゃない。私たちは真剣に戸惑っている。
「……というか、本当に二人とも無欲だよね。俺の知ってる女の子は……って言ったら失礼だけど、目を爛々と光らせて、次々に欲しい物を口にするよ」
涼さんはクスクスとおかしそうに笑い、「気をつけてね」と左右確認してから横断歩道を渡る。
「だって……、ねぇ。普通に暮らしている状態でも、欲しい物ありませんっていうほど満たされてるから、あんまり思いつかない。普段、物欲センサーが働くコスメ系なら思いつくけど、今回の買い物はそういう性質じゃなさそうだし」
「んだ。ここで『キャンプ用品欲しい』って言ったら、涼さんが泣くかも……っていうのは分かってる」
私たちの回答を聞き、尊さんと涼さんは顔を見合わせて笑う。
「せっかく一稼ぎしたお金ですし、尊さんたちのお小遣いにしたらどうですか?」
「お小遣いってなぁ……。というか固い話をすると、〝金〟の形で帰国すると一時所得扱いされるし、それだったら免税店で買い物したほうが楽なんだよ」
「なるほど!」
そこまで考えていなかった私は、深く納得した。
「よし、恵。何を買ってもらうか考えよう。これは人助けだ」
「人助けなのか」
恵はそう言いつつも、今の説明を聞いて前向きな気持ちになったらしい。
「帰国までに間に合えばいいんですよね? 明日は予定があるし」
「ああ、考えておいてくれよ」
そのあと私たちは何がいいか考えながらホテルまで戻り、今日は寝る事にして涼恵ペアと別れた。
「はぁ……、濃密な一日だった。これでまだ一日目なんですね」
「喜べ。帰国したらもっと濃密な温泉旅行が待ってる」
「あー、楽しみ!」
そういえば、速水家との集まりもあったと思い出すと、「やるぞー!」と気力が漲ってくる。
「……思うけど、朱里って結構陽キャだよな?」
「そうですか?」
ソファに座った尊さんに言われ、私は目を瞬かせる。
「私、自分の事を陰キャと思ってましたけど……。恵以外にあんまり友達いないし、学生時代は本当に暗かったですよ?」
「最初は似た者同士と思っていたが、涼や俺の親戚とか、色んな人に会わせてもスルッと溶け込んで、すぐ楽しく話せてる。呼吸をするように面白い事を言えるし、もしかしたら思っていたよりずっと明るい奴なんじゃないかと思って」
「そうなんでしょうか……」
私はソファの上に胡座をかき、うーんと考える。
「……格好悪いからあまり教えたくないんですが、学生時代の私、女子からヒソヒソ言われるタイプだったんです。父が亡くなる前は、割と引っ込み思案で人と話すのが苦手な子供でした。好意を抱いている人と『もっと話したい』と思っても上手く言えなくて、好きなのに真逆の事をしてしまう馬鹿な子供だったんです」
尊さんはソファの上に横向きに座り、私の話を真剣に聞いてくれる。
「〝みんなと同じ〟でいる事で少しでも友達と近づきたかったのに、小学校高学年の頃から身長が伸びて、初潮がきて、どんどん〝みんなと違う〟子になっていったんです。……ナプキンを持ってトイレに入るのが、凄く恥ずかしかった。みんな見て見ぬふりをするけど、私のいないところで『上村さんって生理きたんだって』って話しているんです」
今思えば、生理なんて成人女性ならみんな経験しているし、〝そんな事〟だ。
けれど子供はまだ〝当たり前の色んな事〟を経験する前だから、少しでも物珍しい事があると異物扱いされる。
昔と比べてネットで情報を簡単に拾えても、第二次性徴が訪れる頃になると、みんな〝初めて〟に戸惑って多感になる。
「プール授業の時は視線を感じたし、自分がとても〝悪いもの〟に思えて、みんなに話しかけるのが怖くなっていったんです。そしてみんなに生理がきて〝同じ〟になり始めた頃、父が亡くなって自分の心のバランスが大きく崩れていった」
私は膝を抱えて座り直し、両手で足の爪を弄る。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!