テラーノベル
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橘靖竜
#女主人公
「中学生頃って、みんなと〝同じ〟じゃないとハブにされるんです。……私は一生懸命〝同じ〟になろうと努力したけど、父を亡くしても〝普通〟に登校して、落ち込まず〝普通〟に過ごすのに精一杯で、みんなと同じ話をして笑ったり、遊びに行ったりとか……、できなくて、脱落してしまったんです」
私は溜め息混じりに言い、目を閉じて当時を思い出す。
『上村さんって美人だけど感じ悪いよね』
『遊びに誘ってあげたのに、毎回断られて、こっちは誘ってやってんのに、なんでお前が〝上〟みたいな感じなの? って感じ。だる』
『強気そうな顔してるくせに、口数少ないよね~。口ついてるなら言葉にしろっての』
『でも男子ってああいう高嶺の花系が好きなんでしょ? うっざ。絶対あいつ、性格悪いに決まってる』
『男は顔だけ良けりゃいんじゃね? あと、あいつ胸でかいし』
『マジそれ! 付き合い悪いのって、そっち系のバイトで忙しいからじゃない?』
『ウケる~、あり得る』
不思議な事に、心を刺す言葉はどれだけの年月が経っても胸の奥に残っている。
周りの友達全員がこういう感じじゃなかったし、一部の目立つ系の女子が言っていた事だ。
恵や穏やかな性格の友達は、私の父が亡くなった事を知っていたし、無理に声を掛けるのはやめようという感じで、距離感を守ってくれていた。
「……私、本当はいつでも声がかかるのを待っていたんです。『遊ぼう』って誘われたら『うん』って言って、仲間に入りたかった。……でも、誘われた時に、必ずしも応えられるコンディションではなかったんです。……当時は父を喪いたてで、毎日夢の中を生きているようだった。調子の悪い時はろくに人と話せなかったし、そんな私が一緒にいてもつまらないだろうな、って思って」
もう一度溜め息をつくと、尊さんがトントンとソファの座面を叩いた。
「ん」
彼が両腕を広げたので、私はモソモソと異動して尊さんの腕の中に収まる。
「俺も似たようなもんだったよ。高校生までの陰口代表は『浮気相手の子供』。……風磨がその裏にいたとは思えないから、怜香がママ友的な人に話をして『私可哀想ムーブ』をかまして、各家庭の親から子供に話が伝わったんだろうな」
私は尊さんの壮絶な人生を思い出し、ギュッと彼を抱き締める。
「悪い、不幸自慢して勝ちたかった訳じゃなくて。色々言われたけど、俺たちは今、ケアンズで最高に楽しい時間を過ごせてるし、カジノでも勝ったし、結婚するし、最高の友達がいるし。……変えようのない過去を悲しむ気持ちは分かるけど、前向いていこうぜ。多分、朱里のいた学校でここまで幸せな人生を送ってる人って、中村さんぐらいしかいないんじゃないか?」
「確かに!」
私はクシャッと笑い、尊さんの胸板に顔をグリグリと押しつける。
「朱里も俺も、どん底の期間が長かった分、これから人生のピークがくると思おうぜ。最高の幸せはずっとは続かないかもしれないが、朱里の大切な人は俺が守るし、付き合う人は選べばいい。朱里は愉快な女だし、優しい、いい女だ。お前は物凄く価値がある。自分の価値を下げそうな相手とは、無理に付き合わなくていいし、断る勇気を持っていい」
「……はい」
足元を闇でできた泥にすくわれてしまいそうな時、いつでも尊さんが手を引っ張って光の差す所に導いてくれる。
十二年前も、今も変わらず。
私はこの話をしだしたきっかけを思い出し、微笑んだ。
「尊さんが私を陽キャって感じてくれるなら、きっと今、安心できる場所で何にも怯えずに生きていられるからだと思います。……それに、私はすぐクヨクヨしちゃうけど、尊さんのほうがずっと芯の強い人です」
「俺はしっかりした土壌になるから、朱里はその上で綺麗な花を咲かせてくれよ」
「なら、私は土の痛みを知る花になりますね」
私は尊さんの頬に手を添え、チュッと唇を重ねるだけのキスをする。
そのあと、少し考えてから言った。
「顔のついてる、ニコニコフラワーでしょうか?」
「ぶふ……っ、お前の顔がついてたら、意志が強そうだ。根っこでできた足で、スタコラ走っていくんじゃないか?」
「やだ、それなんかもう、何かのゲームのモンスターみたいじゃないです?」
「中村さんの花がスッタカ走ってくのを、涼フラワーが猛スピードで追いかけてくんだよ」
「ひはははははははは! 涼さんフラワー、スピード速そう!」
私たちは訳の分からない話で盛り上がり、大笑いする。
じっくりと話をすると、暗い思い出の多い人生だから、過去にあった嫌な出来事を語りやすい。
当時は相談できる人が少なく、相手に言い返す事ができなかったから、今もわだかまっている想いを誰かに知ってもらい、肯定してもらいたい欲がある。
けれど尊さんの言う通り、どれだけ振り返って過去の嫌な人に文句を言っても、〝今〟その人たちに声が届く訳じゃない。
みんなそれぞれの想い、傷を抱えながら、目先の楽しみや未来の幸せを信じて生きていくしかないのだ。
「おやすみなさい」
寝る準備をしたあと、私はキングサイズベッドで尊さんにくっつき、囁く。
「明日は、今日以上に幸せになれるって思っとけ」
尊さんはそう言って、願いを込めるように私の額にキスをする。
私はこの上ない幸せを感じながら、足元の窓越しに見える南半球の夜空を見て、目を閉じた。
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