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18 - ―――(最終話)

♥

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2024年05月11日

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Side 黒


ふと肩を軽く揺さぶられて、俺は目を覚ます。覚まして初めて、寝ていたんだと気づいた。

「あっ、俺、寝てました? すいません」

スマホで時刻を確認すれば、すでに朝の6時を回っていた。迷惑になるから、もう出なくちゃ。

「ゆっくりで構いません。閉店時刻は不定期ですから」

そうは言っても、常連客でもないのに遅くまでいてしまったことが申し訳なかった。

「ごめんなさい、すぐ出ます」

代金を支払うと、マスターが訊いてきた。「少し眠れましたか?」

「おかげさまで。美味しかったです」

本心だった。真心のこもった澄んだカクテルで、安心して眠りに落ちたんだろう。

「よろしければ、また」とマスターはさりげなくといった感じで名刺が手渡される。受け取って見ると、「Bar Light of darkness」の文字の下に、「高地優吾」と書いてあった。

「下までお見送りします」

マスター――高地さんがカウンターから出てきてくれて、俺は率直に嬉しかった。こんなに丁寧な接客を受けたのは久しぶりだ。

外に出てみると、涼しい空気が俺を包む。

なぜだかあまり酔ってはいなかった。それでも少し火照った身体にそよ風が気持ちいい。

マスターに会釈をしようとしたところで、後ろから彼の声が聞こえてきた。

「俺たちって……星屑みたいですよね」

振り返った。高地さんはいたって真剣そうな表情だ。俺は思わず瞬きを繰り返す。

「どういうことですか?」

「夜の中、明るく光る星でもない。むしろほかの星の明るさにかき消されそうで。だけど確かに恒星で、微かに光ってる。ここはそういう星屑たちの場所にしたくて」

やっぱり素敵な人だ、と俺はひとり納得する。俺みたいな孤独を抱える者でも、快く迎え入れてくれるような優しい包容力を感じていた。夜の街にいることが不思議なくらい。

でも、マスターは夜を生きることを選んだんだ。

「だから、この名前なんですね」

俺は看板を指さす。闇の中の光。それは、星屑のことを指していたんだ。

「気づいてくれました?」と高地さんも嬉しそう。

そのとき、俺はあることを思い出した。せっかく名刺をもらったのに持ち合わせていない。そのことを謝ると、彼は「とんでもない」と柔らかく笑った。

「俺、松村北斗って言います。北斗七星のほくと。次に来たとき、覚えてくれてたら嬉しいな」

あわよくば名前を呼んでくれたら。俺の居場所がある気がして。

そんなことを考え、少し恥ずかしくなって口を開く。

「じゃあまたよろしくお願いします、高地さん」

「お気をつけて」

背を向け、来た道を戻る。

俺は空を見上げる。明るくなってきた空に、光はない。いや、地上からは見えていないだけだ。

星屑だって、ひとつの星だ。僅かながらも光を発している。

ならば俺だって輝けるはず。

お酒のせいかマスターのせいか、心の芯が温まっていた。

さあ、今日から俺は何をしてみようか。


終わり


完結

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コメント

1

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全ての話最高でした!

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