「ごめん。スマホの電池が切れたの放置して、爆睡したり、作り置きのおかずを作るのに忙しかったりで」
親友に嘘をつき、チリッと胸が痛む。
「いや、いいんだけど。田村の事で荒れてたから、どうだったのかなって心配になっただけ。やっぱり寝たり集中して何かすると、気持ちが紛れるよね」
「……う、うん……」
すみません。尊さんとホテルでイチャついてました……。
いや、こんな不誠実なのダメだ。いつか尊さんに許可もらって、恵にだけは教えないと。
彼女がいたから、今の私がいると言っても過言ではない。
そんな恵に隠し事をしたくない。
(ごめんね、あとできちんと話すから)
私は心の中で恵に謝り、仕事に戻った。
お昼は恵と社員食堂に向かった。
二人でパスタセットを頼み、いつものようにお喋りをしながらランチタイムを過ごす。
篠宮家の事情を知りたいと思った私は、情報通の彼女なら何か知らないか聞いてみる事にした。
「ねぇ、副社長ってまだ独身だっけ」
「みたいだね。おっ、狙ってる?」
「いやいや、違うよ。ハイスペックイケメンらしいけど、まだフリーなんだなーって思っただけ」
「でも噂では秘書とできてるって話だけど」
恵はサラダを咀嚼しつつ言う。
「へぇ、お相手は秘書なんだ?」
「|丸木《まるき》エミリさんっていう、どえらい美人が副社長秘書らしいけど、すんごく〝仲がいい〟みたいだよ」
「ほぉ……」
……すると、その丸木さんが尊さんのお見合い相手なのかな。
美人だと聞くと、不安で胸がザワザワする。
「今、その丸木さんって社食にいる?」
声を潜めて恵に尋ねると、彼女は周囲を見回す。
「んー……、……いないね。……っていうか、多分副社長は会食やら何やらしてるから、同行してるんじゃない?」
「あ、そっか」
納得した時、テーブルの下で恵がトンと足をつついてきた。
「朱里がこういう話に興味を持つのって、珍しくない?」
そう言われ、私は動揺する。
確かに私は今まで、社内ゴシップにまったく興味を示さなかった。
昭人と恵がいればいいというスタンスで生きていたので、基本的に会社の人に関心がなかったのだ。
「うーん……。……雲上人の恋愛事情ってどうなのかな? って気になって」
「恋愛事情」と聞いた恵は、私が昭人にフラれた事を思いだして苦笑いする。
「まだ田村を引きずってるのは分かるけど、傷が癒えたら次の人を探しなよ。傷付くのは恐いだろうけど、そろそろ婚活に本腰入れないとならない年齢だし、三十路なんてあっという間だよ」
「そうだね」
私は苦笑いして頷く。
今は尊さんと付き合うと決めたけれど、直前までは本当にどん底で、次の人を探す気力もなかった。
自分の事を恋愛体質とは思わないけれど、尊さんと出会って色んな事がパッと変わったように思えて、つくづく相性のいい恋人の有無は大きいなと感じた。
「そうだ、副社長のお母さんってどんな人か知ってる?」
「えー? やけに副社長に食いつくね。マジで狙ってるの?」
「そうじゃない。ロイヤルファミリーに興味があるだけ。いい物食べてそうだなって」
ギクッとした私は、とっさに変な言い訳をして誤魔化した。
恵はとくに深く詮索せず、知っている事を教えてくれる。
「社長夫人は経理部長だよ。数字に強いみたいで、仕事に関しては鬼厳しいとか。その分、社長からは絶対の信頼があるみたい。……まあ、なんでも経費で落とそうとする人からは、鬼ババ扱いだけど」
恵は小さい声で言って、クイッと顎をしゃくって窓際の席を示した。
「あの窓側の席、暗黙の了解で、経理部長と取り巻きの専用席になってる」
私は横向きに座り、スマホを弄るふりをして窓側をチラ見した。
「マダムたちが座ってるでしょ?」
「あぁ……、あの人たち……」
視線の先には、周囲と明らかに違う雰囲気のマダムがいた。
コメント
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遂に敵を発見....⁉️👀‼️
朱里ちゃん、いたね…敵が…( ᯣωᯣ )ジーーーッ