怜香さんとおぼしき女性は、パーマの掛かったボブヘアで、白シャツにジャケット、紺色のテーパードパンツを穿いている。
五十五歳らしいけど、まだ四十代半ばぐらいに見える。
近くに座っている三人は怜香さんに憧れているのか、似たような雰囲気だ。
「経理部の若い子はやりづらいみたいだよ。気に入られたら万々歳だけど、そうじゃないとキツいって」
恵はヒソヒソと言い、パスタの続きに取りかかる。
(あの人が尊さんに、速水の姓を名乗らせて……)
不自然に見つめてしまいそうなので、私はスマホをテーブルに置いてまた食事の続きに取りかかった。
「綺麗な奥様だけど、恐いんだね」
「まーね。金持ちの奥様なんて皆綺麗で恐いしょ。知らんけど」
恵と話ながら、私は自分に問いかける。
(……私は彼のために、何ができるんだろう)
私は心の中で呟いたあと、小さく溜め息をついた。
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あれこれしている間に、あっという間に十二月の中旬になりかける。
尊さんは食事会になる前、ブランド物のワンピースやコート、靴一式を買ってくれた。
ブランド物と言ってもコテコテした物じゃなく、シンプルで上品な印象の物だ。
そして十二月三週目の週末、私は怜香さんと会う事になった。
(きんっっっっっちょうする!!)
食事会が開かれるのは、有楽町にある日本料理店だ。
尊さんと東京駅で待ち合わせした私は、クリスマスムード一色で浮かれた街を、ガチガチに緊張しながら歩いた。
「右手と右足が一緒に出てる奴、初めて見たな」
尊さんが私を見てボソッと呟くので、ハッとして立ち止まる。
「……なってました?」
緊張していたとはいえ、普通に歩けていたはずだ。
東京のど真ん中で変な歩き方をしていたなら、あまりにも恥ずかしすぎる。
「いや、嘘」
「はーい、針千本飲んでくださーい」
私はジト目になり、尊さんを肘で小突く。
「ホントやめてください。怒りますよ?」
「悪かったって」
彼氏になったからには、躾が大事だ。
「そう緊張するなよ。上辺だけの付き合いで済むなら、ニコニコしてればあっさり終わると思うけど」
「でも、結婚するんでしょう?」
「勿論」
「じゃあ……」
「キレるだろうな」
サラリと言われ、私はガックリ項垂れた。
「そうビビるなよ。結婚するって決めたから、一緒に立ち向かうよ」
「……商品開発部部長VS経理部部長ですか?」
「すげーな、ゴジラVSモスラみてーだ」
「ふざけてないで」
私はハーッと溜め息をつく。
「二人とも立場が悪くなりませんか? 社長夫人がお怒りになったら、言いなりになった社長から何か処分とか……」
「それはどうかな。俺もとっておきの切り札を用意してるし」
またこの男は、煙に巻くような事を言う……。
「……その〝切り札〟って大丈夫ですか?」
「かなり強力だよ。自信がある」
「……ならいいんですが……」
とはいえ、社長夫人をコテンパンに叩きのめし、強引に結婚したい訳じゃない。
確かに尊さんに旧姓を名乗らせ、部長職に留めているのは陰湿で腹が立つ。
でも将来は義母になる人だし、やっつけるんじゃなくて、可能ならヌルッとかわしてうまくやれたらいいんだけど。
そんな事を考えながら、私たちは予約している日本料理店へ向かった。
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コメント
3件
もう軽快なトーク&チームワークもバッチリだね~😆👍️💕頑張って✊‼️
アタシもー💕 二人で共有が既に始まってて大好物💕😋😍💕
ド緊張の前の軽快なミコアカトーク✨好きだわ〜♡ いざ敵陣へ!!!