「あれっ!? な、無いぞ!?」
おかしい。以前使用した限定召喚の書が見当たらない。手にかさばりそうな物は全て腰袋に入れていたのに、入っているのは魔石だけだ。
「イスティさま? 何が無いの?」
「限定召喚をする時の紙切れ……それが無い!」
「そんなのすぐに見つかるなの」
「ん?」
フィーサは心配するよりも呆れたように、
「はぁ~イスティさまってば忘れっぽい。魔石で覚えたのはイスティさまの中に記憶しているはずなの。だから一度でも使えば、紙切れはその場で消えて無くなっているはず」
使った後のことは気にしていない、が正しいな。限界召喚使用時はグルートと戦っている最中だった。それだけに余裕なんてあるはずもなく。
「あ〜そういや……」
限定召喚といえば効果が出るまでかなり長かった気が。
「解決したなの? それじゃあ早速――」
「いや、この場でしばらく待つことになるんだけど」
「イスティさまと一緒にいられるならわらわはいくらでも待つし、嬉しくなるなの!」
ルティたちと合流すれば間違いなくフィーサと話す時間が減る。フィーサとルティは相性が悪いからな……。
「地上に連れて行ってくれそうな召喚……竜の軍団が召喚出来れば良さそう」
「うんうん、イスティさまなら大丈夫なの!」
シーニャはおれから少し離れた傾斜の所で、自分が身に着けている装束にうっとりしながらしゃがんでいる。あれなら軍団召喚が成功して大挙して来ても取り乱すことも無いはず。心配はいらない。そう思いながら魔石を強く握りしめて投げた。
しかし予想外なことに――
「ウニャッ? 変な石が転がって来たのだ!」
投げる方向をあまり意識していなかったせいで、シーニャのいる所に転がってしまった。
「シーニャ! それに触れては駄目だっ!!」
「フギャッ!? お、驚かさないで欲しいのだ! びっくりしてアックの向こうに蹴り返してしまったのだ!」
「――って、えええ!? 向こうってまさか、空に?」
シーニャのせいじゃないにしても魔石が空に落ちて行ったのは想定外。他の魔石でもガチャは出来るが……。あの魔石は特別なモノのはず。地上のどこかに落ちたとしても探しようがないんじゃ?
「ウ、ウニャ……シーニャ、駄目なことした?」
「大丈夫だ。よしよし……」
「フニャン……」
シーニャは耳を垂らしながら落ち込んでいる。彼女のせいでは無いので、すかさず頭を撫でて落ち着かせたが。
「わらわが虎娘をなぐさめてやるなの。イスティさまは空を見ていて!」
「ん? 空を?」
鞘に収まっていたフィーサだったが、シーニャの落ち込む姿に見かねて人化。シーニャを落ち込ませた原因がおれにある以上、素直に従うしか無い。魔石がどこかへ飛んで行ってしまった。かと言って、何が起こるかさえ見当もつかない。
しばらくして、
「ウニャ? 何かたくさん聞こえてくるのだ。すごく早く動いているのだ!!」
フィーサに付き添われているシーニャだったが、耳をピンと立たせて突然声を張り上げた。
何かの気配でも感じ取ったのか?
おれもすかさず空の向こう側を眺めていると、
「何だあれ……?」
さっきまで壮大な雲海が見えていた空の色が、黒一色に染まっているように見える。しかも動いていてこっちに向かっているようだ。
「イスティさま、何が見えているなの?」
「ウーウウウー!! たくさんたくさん来るのだ!」
次の瞬間。ゴゥッ、とした重苦しい風が洞窟内に吹き込む。同時に、おれの目の前には見たことも無いような姿の魔物が立っていた。魔物は空を覆い尽くすほどの群れを成しているが、その内の一体が姿を見せた感じか。
戦うにしても狭い洞窟の中にいるおれたちが圧倒的に不利だ。
戦うべきか、それとも?
「……マセキ」
「へ?」
有無を言わさず動こうとした直前、おれに対し石を手渡して来た。
これは――魔石か?
間違いなくシーニャが空に蹴り飛ばした魔石だな。
「メイレイ?」
言葉を話す魔物の群れから見える名前は、【キング・デーモン】とあった。
悪魔の王が飛んできた?
いや、もしかして限定召喚か。空を飛んで来てわざわざおれの前で命令を待っているなんて、どう考えてもそうだよな。手渡された魔石を腰袋に入れようとすると、熱さを感じると同時に魔法文字が浮かんだ。
【アック・イスティ テイマースキル Lv.666】
【デーモンテイマー 習得】
スキルが上がりすぎだろ!
レベルとか一体どうなってんだこれ……。
おれからの命令を待っているようだし、地上に戻るいい機会と見るべきだな。
「ウウウ……怖いのだ怖いのだ!!」
「イスティさま、わらわ、剣に戻るなの……」
デーモン族の群れは狭い洞窟の中にまでは入って来れないようだ。しかしシーニャとフィーサは、尋常じゃないほど震えている。てっきり竜が来るかと思っていたのに、デーモン族とは意表を突かれたな。とにかくこれで地上に降りられるし、二人には辛抱してもらうか。
それよりもデーモンを呼べた流れでおれの装備を変えられるのでは?
魔石が熱いうちにガチャをすれば何か変わるかもしれない。
すると、
【Lレア デーモンヘルム Lv.666】
【SSSレア デーモンメイル Lv.6】
【SSレア デーモンリング】
【SSSレア デーモンレギンス Lv.66】
【SSSレア デーモンマント】
――見事なデーモン装備が出た。
しかも全部位出ていない辺りがひねくれまくりだ。
腰衣だけはルティのを履くからいいとしても。全身真っ赤な炎装備から一転、真っ黒な装備になってしまった。しかしようやくルタットに向かえそうだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!