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「怖いのだ怖いのだ……」
「ひゃぅぅ……わらわは怖くなんて、ひゃうひゃうぅ」
フィーサは鞘に収まる予定だった。だがシーニャの怖がりがフィーサにも伝播し、人化から戻れなくなってしまった。両手剣にさえ戻れていればフィーサもおれと一緒に行けたのだが――
悪魔の王とされるキングは人間の少女にしか見えないフィーサを拒み、格下デーモンに渡されてしまった。シーニャも同様だ。
「モウスグニンゲンノマチ、オソウ? オソワナイ?」
「へ?」
おれを乗せたキングと脇を固める側近が雲の下から見えた小さな町を指す。多分ルティたちがいるルタットだと思われるが、デーモンの様子がおかしい。
「メイレイ?」
――うっ?
魔法発動の気配が感じられるけど、まさかな。ゴゴゴ。とした魔法発動の音が鳴り響く。これはまずい。
「おれを降ろして即座に帰還だ!! 攻撃は認めない!」
「ワカッタ」
どうやら召喚されたことで人間の町を襲うと思ったみたいだ。側近のデーモンたちは攻撃態勢で急降下を始めていたが間一髪だった。
「アルジ。マタイツデモヨブガイイ」
デーモンキングと側近は素直におれの命令に従って、即座に遠くの空に帰って行く。フィーサとシーニャを乗せたデーモンの群れはまだ近付いて来る気配が無い。おそらくここに来るまでに時間もかかるはずなので、ルタットの町に入ることにする。
町に入ってルティたちを探そうと見回すと、思った以上に小さな町ということが分かった。のどかな風景で落ち着く感じがするからだ。しかし近くの方で町の人が妙に騒いでいることに気付いた。
もしかしてルティたちだろうか?
「ギャー! あ、悪魔だーー悪魔がいるぞ!!」
――お、襲われるぞ!! に、逃げろー!
――お助けをー!!
騒いでいるのは男ばかりだが、空へ戻らなかったデーモンたちがおれの横にでもいるのか?
――などと思っていたら、おれの姿に腰を抜かしている。
そういえば全身デーモン装備で身を固めてたんだったな。
「こらーー! そこの真っ黒い魔物さん!!」
あの声は間違いなく――などと思いながら目をやると、腰に手をついた彼女が立っていた。
「あなたですよ! 悪魔さん!! ここは人間の住む町ルタットなんですよ? 襲っちゃ駄目なんです! それ以上入るつもりなら本気出しますよ!!」
戦いたくて仕方が無いのか。相手が正体不明の悪魔でも度胸があるな。ともかくここは、おれの声を聞かせて落ち着かせてやろう。
――だが、その時。
「てぇぇぇぇい!!!」
メイドエプロンな彼女の姿が視界から外れ、頭上から重そうな拳を振り下ろそうとしていることに気付いた。
あれ、ルティの奴いつの間にこんな飛べるようになったんだ?
彼女とは一度戦ったことがあるが、高く飛んで攻撃する子ではなかったはず。ルティの一撃はかなりの衝撃と重みがあるので、当たってしまうわけにはいかない。そう思っていると、おれの体が自然と彼女の攻撃をはね返していた。
一瞬だけ硬直状態になり、その時装備が効果を発揮したようだ。
「むぅぅぅ~!? 効いてない!? こんなことじゃ、あの方が来るまで守れないじゃないですか~!」
あの方――それはきっとおれのことである。すでに目の前にいるのに、この状況でどうやって気付いてもらえるっていうんだ。こうなれば荒療治になってしまうが、特化スキルを使ってルティの強さを確かめてみることにする。ルティの一撃はデーモン装備のダメージ吸収効果が働いて痛みは感じられなかった。
デーモンと勘違いされている今こそルティと真っ向から戦えるいい機会。まずはルティに気付かれないように、気合の入った声を張り上げることに。
「ウオオオオオオ……!!」
なるべく低い声にしたつもりが魔物に近い叫び声になってしまった。
「あ、悪魔の雄たけびというやつですか!? まだまだお仲間さんが来るんですね? でもそうはさせませんよ!!」
そうじゃないのに……。こうなればルティに突進するしかない。恐らく防御を取るよりも反撃《カウンター》をして来るはず。
そして案の定、
「このぉっ!」
反撃を喰らう訳には行かない――そう思った瞬間、直前になってルティの背後を取ることに成功。
「ヌオオオオオオ!!」
「――ああぁっ!?」
ルティの背中ががら空きだ。ダメージを負いかねないが、やや力を抜いた重い一撃を繰り出す。
「キャアァァッッ!?」
不意打ちという形でルティの背後から攻撃を喰らわせた。背中からの攻撃を受けたルティは、その場で踏ん張ることが出来ずにはるか前方の家に向かって吹っ飛んでいった。手加減をしたのに後ろからの攻撃はやり過ぎたか。もしかして起き上がれないダメージを負わせてしまったんじゃ。おれの心配をよそにルティに近付く影があった。
「はぎゃぅっ!? あれれ、水が~?」
大したダメージを受けていなかったルティに対し、水膜のようなもので包んでいるように見える。
ルティを守りつつ、おれに殺気を飛ばすのは――
「……フゥ。何をしているかと思えば悪魔と戦っているなんて、全くあなたって人は!」