コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「つまらないことを聞いて、ごめんなさい……」
いくらお酒を飲んでいるからって、私ったら一体何を聞いているんだろうと謝ると、
「いいえ、かまいませんよ」
三日月が笑いとも吐息ともつかない声を、「ふっ…」と、小さく漏らした。
「私がそう呼ばれているのは、実際にそういう一面があるからなので……」
そう答える彼の顔は、本気とも冗談とも取れるようなどっちつかずな表情にも窺える。
「でも、そんな風には見えない……」
薄い唇にたたえた穏やかな笑みを崩さない彼には、いざそう言われてもそんな一面があるなんて微塵も感じられなかった……。
「では、あなたにも見せてあげましょうか?」
そう言ったかと思うと──
不意に私の座るソファーに両手を突いて、まるで体の上に覆いかぶさるように上体をぐっと迫らせた。
突然のことに驚いて、呆然と口を開ける私に、
「普段の私は、Sっ気は隠しているんですよ……」
耳元に唇を寄せて、三日月が吐息を吹き込むように口にする。
吹きかかる吐息に胸がドクンと高鳴って、うろたえて泳ぎかける視線を、しっとりと濡れて色気を孕んだ彼の眼差しがじっと捕らえる。
「その、脅えた瞳も、嫌いではないので……」
冷たく滑らかな指先が、瞼をすーっとなぞるように触れる。
真近に私を見つめる彼には、いつもの物静かな雰囲気からは想像もつかない、
艶っぽくすら感じられる男性的な色香と、妖しいまでのサディズムが浮かんで見えるようだった……。
「三日月…」
魅せられたもうひとつの顔に、どうしようもなくただ惹かれてしまう。
「……サディスティックな私は、お嫌いですか?」
迫られて弓成りに反る私の腰に、彼がもう一方の腕をまわし、鼻先が付きそうな程に顔を寄せる。
「あっ…え、嫌い…じゃ、な…い……」
まるで体中の血がふつふつと沸騰しそうで、言葉さえうまく紡ぎ出せなかった。
「なら、この私も、好きなのですね?」
唇に触れそうで触れないくらいの近さで、そう問いかける。
艶やかに濡れた彼の唇の動きに目が吸い寄せられたまま、固まったように声も出せなくて、こくこくと首を縦に振って頷いた。
「……私も、あなたのことが、好きですよ…」
彼の唇が近づいて、僅かに開いた私の唇にチュッ…と音をたてて触れた……。