テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
4
643
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「和也が死んだ後、ずっと落ち込んでいた彩は、俺と付き合う事で元気を取り戻せたって言ってくれたんだ」
「嘘よ!」
彩はベンチから立ち上がり、大きな声で拓馬の言葉を否定した。
「どうしてそんな嘘吐くの? 何が目的? こんなに楽しい日をぶち壊しにして面白いの?」
大きな声で拓馬を責める彩を見て、道行く入園者達が何事かと足を止める。拓馬の目に、興奮して涙まで流し出した彩が、最後に見た大人の彩の顔とだぶった。
――どうして俺は大好きな人を悲しませてしまうのか……。
「どうしたの?」
突然、明菜が泣いている彩に駆け寄って来る。ジェットコースターが終わり、戻って来た明菜と和也が揉めている気配を察して駆け寄って来たのだ。
「何があったんだ?」
状況が分からず、呆然と立っている拓馬に和也が聞く。
「ごめん。俺が質の悪い冗談を言って、彩を悲しませてしまったんだ」
「お前こんなに泣くほどの冗談って……」
「もう良いの」
彩が和也に寄り添って言葉を遮る。和也は優しく彩の肩を抱いた。
「冗談なら良いの。ごめんね、大袈裟に騒いじゃって」
彩は明菜から受け取ったハンカチで涙を拭き、懸命に笑った。周りで様子を見ていたギャラリーもそれぞれまた歩き出す。
「このまま変な空気で帰るのも嫌だから、最後に観覧車に乗ろうか」
明菜が努めて明るく提案する。
「そうだな、そうするか」
和也も何とか空気を変えたくて同意し、彩の手を取って歩き出した。
観覧車は園内の一番高い場所にあり、四人はそこを目指して階段を上って行く。和也と彩が前を歩き、拓馬と明菜が続いた。四人とも黙って階段を上り続ける。
観覧車の搭乗口に着くと二十人程並んでいたが、ゴンドラが次々とくるのですぐ四人の順番になった。
「あっ、私達は次のに乗ります」
和也と彩がゴンドラに乗った後に明菜が係員にそう告げた。
特に相談した訳では無かったが、暗黙の了解で和也も何も言わず、ゴンドラは動き出した。拓馬も明菜の判断を有り難く思った。今、彩と同じ空間に居ても、楽しい話など出来そうに無かったから。
拓馬が次に来たゴンドラに乗り込むと、明菜はその向い側の席に座る。二人が座ったのを確認して、係員がドアを閉めた。
ゴンドラがゆっくりと乗降スペースを離れ宙に浮いて行く。拓馬は何も言わずに、夕暮れに染まる街並みを眺めている。明菜はそんな拓馬を黙って見ていた。
「彩はどうして泣いていたの?」
待っていても拓馬からは何も言わないので、仕方なく明菜は訊ねた。
「俺が未来から来た事を話したんだ……」
拓馬はため息交じりに答えた。
「そうか……とうとう言っちゃったか……」
ある程度予想していたかのように、明菜は大して驚く事無く呟いた。
「全否定されたよ。和也の死の前では、俺と付き合って幸せだった事なんて聞いても貰えなかった……」
「それは仕方ないよ。今は和也君に夢中なんだから」
「そうだな。そもそも親友の彼氏のポジションから付き合えると思っていたなんて、思い上がりも良いとこだな」
拓馬は自嘲的に笑う。
「結局、彩に告白は出来たの?」
「いや、するタイミングすら無かった……」
拓馬は小さく首を振りながら答える。
「じゃあ、またどこかで告白する?」
その時、ゴンドラが頂上に達し、一つ前のゴンドラを下に見る位置になった。中では和也に肩を抱かれて、彩が幸せそうな顔で笑っている。
「いや、もう告白はしない。二人の仲を邪魔する事もしないよ。明後日に和也を助けて、二人を応援する」
「辛くないの?」
「いや、不思議と辛くはないな。今日、告白するって決めた時には、自分でもそうなるって薄々感じていたんだろうな……」
その言葉を聞いて、明菜はほっとしたような表情を浮かべた。
「和也君を助けたら、その後はどうするつもりなの?」
「えっ、どうするって?」