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きみの瞳に恋をしている 壱

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きみの瞳に恋をしている 壱

51 - 第51話 Y・DAY 在ロシア大使館/2等書記官による札幌地下鉄テロ未遂事件

2025年10月15日

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札幌市営地下鉄南北線。北24条駅からさっぽろ駅へと向かう車内は、土曜日の夕刻とあって満員状態だった。

3号車中央の座席に座る、在ロシア大使館、ラリーサ、コドチェンコワ2等書記官は、黒色のリュックを抱えながら周囲の乗客達を観察していた。

目の前のスーツ姿の男性は、今しがた乗ってきたばかりの乗客。

その右隣の若いカップルは、北12条駅からスマートフォンを片手にゲームに夢中になっている。

会話はなく、時折ぶつかる男性の肘に、隣のふくよかな女性が不快な顔を向けていた。

扉前のベビーカーから聞こえる赤ちゃんの笑い声。

我が子をあやしながら、周囲の乗客に気を使う中年夫婦の光景は微笑ましく、ラリーサは、故郷の家族を思い出していた。

ウクライナとロシアとの戦争で、国外退去処分となったラリーサは、サハリン沖で日露共同開発事業に携わる技術員として1週間前に再来日した。

目的はひとつ。

札幌市営地下鉄をターゲットとした破壊活動。

滞在先のホテルには遺書も残してあった。

同胞の活動家らは札幌を中心に、あらゆる公共交通機関でテロを実行する手筈となっていた。

日本国を混乱させ、ロシア国民の安全確保を名目に、根室から極秘部隊が侵入し、その後正規軍が北海道へ進軍する作戦だった。

ラリーサは赤ちゃんを眺めながら思った。


『私のカタラモノはなに?』


問いかけた自分の不甲斐なさを、ラリーサは呪った。

此の期に及んで人間らしさが芽生え始めている。

前に抱えたリュックの脇ポケット。

そこに収まる黒色のステンレスボトルには灯油が入っている。

ガソリンでも良かったが、ラリーサにとっては灯油の方が身近な存在だった。

一般人による、地下鉄車内での自殺。

そうでなければならなかった。


どうせ死ぬのだ。


世の中を変えられるのならば、自分のちっぽけな命などこの国にくれてやる。

弟と東京駅で交わした言葉が去来する。

弟は今頃、横浜市営地下鉄の電車で同じ想いをしている事だろう。

ラリーサは、グッと唇を噛んだ。

電車がさっぽろ駅へと近づく。

ラリーサは、ポケットの中のZIPPOのライターを握り締めた。

灯油を自身の身体にかけて火を点ける計画は自ら考えたものだ。

爆弾では意味がない。

それに、セキュリティーでも不安はあった。

結局のところ、手段はなんでも良かったのかもしれない。

この世に未練はないからだ。

ラリーサは、ステンレスボトルに手を掛けて、ポケットからライターを取り出した。

その時、目の前のスーツ姿の男性の手が腕を掴んだ。

ゲームに夢中になっていた筈のカップルが、ラリーサに覆い被さる様にして身体を拘束した。

女の声が耳元で聞こえる。


『公安です。もういいでしょうー』


ラリーサは泣いた。

戦死したウクライナ人の恋人の元へは、まだ行けそうもない。


きみの瞳に恋をしている 壱

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