テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ハミデール王国の中央に位置する大きな公園。
通称『クリスタル・ヒロシくん記念公園』。
数多の功績が認められ、勇者ヒロシの名を冠した公園が作られたのだった。
ヒロシ自身の銅像の前で、ヒロシはカトレアの到着を待っていた。
時間ピッタリに、筋肉少女カトレアがやってきた。
牛がスッポリ入りそうな巨大なリュックを軽々と背負っている。
迷彩柄のスポブラ、スポパンという健康的な装いは、スポーツジムに赴くボディビルダーのようだ。
カトレアは、唐草模様のでかいリュックを地面に下ろす。
オイッスぅ~! 十三歳とは思えない、背中を痛めたゴリラのような声を発すると、カトレアはゆっくりとベンチに腰掛けた。
「ピーチ姫はまだ来ていないのですね」
「呼んでないからね」
「いいんですか?」
「玉座に『ヒロシ・センサー』が搭載されてて、俺がどこにいるか分かるっぽい」
「ピーチ姫って、ストーカーですか?」
「ストーカーより質が悪い。あいつは暗殺者だな。そういえば、変態水着を誰かに売った?」
「はい。ズリオチールの王女さまに」
「やっぱりおまえかい!」
「今年の流行だとウソをついて、王族に変態水着を売り歩いてました」
「そのズリオチール王国のアデライドってヘンタイの姫が乗り込んできてね__」
石畳をゴリゴリと削るような音が、ヒロシたちの耳を襲った。
騒音の主は、王女専用の新型玉座『レイジング・ブル』を巧みに操るベルティーナだ。
王女の派手な登場に、道行く人たちから拍手喝采がわき起こる。
玉座から降りたベルティーナが、笑顔で民衆に向かって手を振った。
大きな音に迷惑しているかと思いきや、人びとの顔からは笑みが溢れ出ている。
“おねえちゃんって、おじいちゃんみたいなニオイがするぅ”と言われながら、街のチビッ子に小石をぶつけられるベルティーナの姿は、いつみても微笑ましい。
別の子どもからカンチョーを食らったベルティーナは、心なしか頬を赤らめている。ベルティーナからカンチョーのお代わりを催促された子が、少し引いている始末だ。
気さくを通り越したド変態のベルティーナは、ハミデール王国の民草から人気があるようだ。
玉座に戻ると見せかけて、ベルティーナが、ヒロシに特攻をしかけてくる。
ヒロシに抱きつこうと、両手をいっぱいに広げる。
「おまたせっ! ピロすぃ~、会いたかったぞなっ!」
「やめてくれ。恥ずかしい……」
Sランク冒険者パワー!
ヒロシは、乙女モードらしきベルティーナの顔面をわしづかむ。
魔力が送り込まれた右手の握力は、四〇〇キロ。最高で六〇〇キロとちょっと。
残り少ないワサビを、チューブから絞り出すかのように、じんわりと。
「ピロシ。照れなくてもいいんだぞっ! イダダダ……顔が……」
「恥ずかしいのは、新型玉座だ」
数日かけて改造したというベルティーナの玉座『レイジング・ブル』。
なにやら、魔改造を施したようだ。
屋根とハンドルがついたほかに、ドリンクホルダー、全く機能しないカーナビなど、わけのわからないものが大量に搭載されている。
「シートベルト付きの玉座なんか見たことがない。どうでもいいけど、やたらと大きくなったな」
以前と比べて、いまの玉座は超ワイドになっている。
スキー場のリフトくらいの幅だろうか。
「ピロシキとイチャこらできるように、キングサイズにしたんだぞっ!」
「足回りもイジったのか?」
「わかる? 私の脚力をフルに引き出せるように改造してもらったの!」
ベルティーナは輝かせた目を玉座に向ける。
言い終わるが早いか、ベルティーナが玉座に搭乗する。
虹色に光るシートベルトを装着すると、恐ろしい速度で走り出した。
ヒロシが瞬きをする間に、ベルティーナは百メートル先に到達していた。
「楽しそうですね、ピーチ姫」
カトレアは、バキバキな笑みを浮かべて暴走王女の後ろ姿を眺めている。
「それは何よりだが、走り屋にクラスチェンジしたほうが良さそうだよな」
「シートベルト、切れないといいですね」
「さすがに大丈夫だろ」
「ベルトが切れる確立は『1/5000』ですから」
ヒロシとカトレアが話している間、ベルティーナは爆走を続ける。
四輪ドリフトでヒロシの銅像辺りを一周すると、すぐに元の場所へと戻ってくる。
急ブレーキ(ベルティーナの足)をかけた途端、やっぱり切れるシートベルト。
すっ飛ぶベルティーナ。
#玉座がメインヒロイン
#漫画原作希望
勢いあまって、ヒロシの銅像を粉砕する。
「なんでお兄さんは半笑い?」
「ドワッフルの職人は、いい仕事したなと思って」
「ですよね~」
カトレアは、なんだか嬉しそうだ。
「ドピン子。塗装し直したのか? なんか目が痛い……」
「キレイでしょ? 夜でも目立つようにしたのっ♪」
ベルティーナは、抱えていた銅像のアタマを置いた。
揚々と語るベルティーナの言葉のとおり、玉座は蛍光ピンクに塗り替えられている。
「ドピン子、銅像を弁償しろ。おい、人のはなし聞いてる?」
ベルティーナの玉座トークは、しばらく続いた。
「見て、ピロシ。長旅になりそうだからトイレも付けてもらったの。ちなみに、私が出したものは、イスの後ろから出てくるんだぞっ!」
見た目だけは高貴なベルティーナが、超ド級の笑顔でシモの話しを繰り出してくる。
玉座の後ろから突き出る太いマフラー(排気管)のようなものを指さした。
「ボットン式の便器自動車かよ……」
ヒロシが玉座の座面のフタを開けると、U字型の便座が顔を出す。
「出発するか」
「エモーション・ドラ~イブ!」
ベルティーナは、自身のヒザにヒロシを搭載した。
新型玉座を動かすには、恋愛感情が必要だ。
ヒロシが王女に恋愛感情を抱くことで、玉座が走行する。
その名も『エモーション・ドライブシステム』。
余談だが、カトレアは、玉座に搭載された便器スペースに格納されている。
「カトレア。座り心地はどうだ?」
「言いわけねぇだろ!」
ベルティーナの新型玉座をレース仕様に改造してもらうため、ドワッフル族の集落を目指して出発した。
「玉座のスピード遅くね?」
肌の保湿をしながら、退屈そうにヒロシが呟く。
玉座は時速三キロで走行中。
エモーショナル・ドライブシステムが機能していないため、玉座はボットン式便器自動車に成り下がっている。
ベルティーナが玉座を押して走行させたのは、言うまでもない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!