テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#玉座がメインヒロイン
#漫画原作希望
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヒロシとドピン子は、カトレアのふるさとであるドワッフル族の集落を訪れていた。
ベルティーナの玉座をレース仕様に改造してもらうためだ。
ドワッフルたちは、武器や防具、各種アイテムを製造する技術者集団である。
カトレアのすすめで、この集落にやってきたのだ。
深い森の中を進むと、ヒロシたちを鉄製の大きな扉が出迎える。
三十二ケタの番号をそろえるタイプの錠前が、扉の口を固く閉ざしている。まさに鉄壁。
「こっちが入口です」
カトレアがリュックから金づちを取り出すと、ひとなぐりして錠前を破壊した。
「壊して大丈夫なのか?」
「カギはハッタリなので問題ないです。毎回こわして入るタイプなので」
言いながら、カトレアが重そうな鉄扉を軽々と開け放つ。
「いや、ちょっと待て。錠前は誰がかけるんだ?」
外側から施錠した人はどうすんだ?
どうやって中に入るんだよ……。
そんな疑問がヒロシの脳裏をよぎる。
「なんだ。カトレアか。また錠前をぶち壊しやがって……」
「毎回壊して入るタイプなんじゃ?」
「んなわけあるか!」
「ですよね~」
ヒロシがカトレアに視線を向ける。半笑いで。
遠い目をしたカトレアが、「暗証番号、一桁もおぼえてないんで……」と言い放った。
それもそうだな。
三十二ケタなんて、俺も記憶出来る自信がない……。
ヒロシがぼやく。
「んで、そっちのオマエは死ね!」
ダルマ体型のドワッフルな男が、ヒロシを睨む。
お約束とばかりに、ド直球を投げ込んでくる。
「お父さん、ヤメて……。ヒロシお兄さんは、いいカモなんだから」
「ところで、カトレアのオヤジさん。変顔で俺を和ませようとしているんですか?」
「元からこんな顔だ、てめえ3回くらいブチ殺すぞ! 死ね!」
カトレアのオヤジさんが、べんらんめぇ口調で語りかけてくる。
東京の下町を思い出す。日本に生息する江戸っ子でも、そんな話し方をする人には、滅多におめにかかれないだろう。
高い確立で、語尾に“死ね!”がついてくる。毒はあるが、猛毒ではなさそうだ。
口と顔は悪いが、きっと良い人に違いない。
異世界で遭遇する職人は、ガンコおやじと相場が決まっている。
想像したオッサンの登場で、ヒロシの顔から自然と笑みがこぼれる。
「てめぇ、娘に手ぇだしたら秒でブチ殺すぞ! 死ね!」
大振りのハンマー投げそうな勢いで、カトレアの父親らしきドワッフルが悪態をついてくる。
禿頭なのに、胸毛はボーボーという、いかにも職人といった雰囲気だ。
だがしかし、オッサンの裸エプロンは勘弁してほしいと、ヒロシは思う。
「筋肉ロリ少女に手は出しませんよ。カワイイ顔してますが、首から下は、ほぼ筋肉だし」
「んで、そっちのピンクの化けモンは、いますぐ壁を直しやがれ!」
いつの間にか、ベルティーナがヒロシの隣にいた。
ヒロシらが到着する前に、壁の一部を破壊して、ドワッフルの集落に侵入していたのだ。
カトレアの親父さんの指さすほうへ顔を向ける。『大』の字に空いた、壁の大穴がヒロシに目に飛び込んできた。
両手足を大きく広げたベルティーナが、壁を突き破ったらしい。
ベルティーナの額に書かれた『プリングルスvsチップスター』については、誰も突っ込まなかった。
「ねえ、ドピン子。ドアって知ってる?」
「頭を押し付けて突き破るアレのことかしら? 一度も手で開けたことはないのだけれど」
「おい! おめぇが開けた壁の大穴に詰め込むぞ」
「お父さん。王族にむかって失礼なこと言わないで」
カトレアは、顔を青くしながらドピン子を恐る恐る見やった。
「しるかっ! んなもん関係あるか! 王族だか、ひょうきん族だか知らねぇよ。用がねえなら、さっさと帰れ!」
「ちなみに、壁の厚さは?」
目を輝かせたヒロシが、カトレアの父親の方を向く。
「五十センチってところじゃねか?」
「新記録だぞ、ドピン子」
ベルティーナが壊してきた床や壁の厚みは、素材を問わず最高で三十センチ。
石頭王女が、破壊の新記録を打ち出した瞬間だった。
「そうなの? 自己ベスト更新?」
よくわかっていない様子のベルティーナが、小首を傾げている。
王女の辞書に『ドア』という文字は載っていない。
ドアの類は開けずに壊す! が普通と、ベルティーナは思っているらしい。
「いや、もはや“事故”だろ……」
カトレアの父親が、半笑いで突っ込んでくる。
「あらあら、まあまあ……カトレアがお客さんを連れて来るなんてめずらしいわね」
カトレアの母親のようだ。
年齢は不詳だが、少し若くすればカトレアにソックリだ。
若いころは、美形だったに違いない。
「カトレア……母親に似てよかったな」
「てめぇ、ぶち殺すぞ」
「だって、ほら。ハゲ散らかしるのに胸毛だけがボーボーって、バランス悪すぎですよ。ありあまる胸毛を頭に植毛したほうがいいと、俺は思っていますけどね」
「作業の邪魔だ。用がすんだら、さっさと消えろ!」
ヒロシは作業場から追い出されてしまった。
「あの様子じゃ、玉座の改造してくれそうにないな」
「人間嫌いですからね……でも、気に入られたら、速攻で手のひら返しますよ」
「そう願いたいが……難しそうだ」
「ということで、私は食材の調達に森へ行ってきます」
「どういうこと? ひとりで行くのか? 護衛するけど?」
「慣れてるんで大丈夫です」
「俺は、ハミデール国王からモンスターの護衛を任されている」
「私はモンスター扱いか! ってか、ピーチ姫のお守りをしたほうが……モンスターの安全のために」
「だよねぇ~」
「お兄さん、なぜに笑顔?」
★
その日の夕方ちかく。
割り当てられた部屋(馬小屋)でヒロシがヨロイの手入れをしている時だった。
ベルティーナが、裸エプロンという出で立ちで訪ねてきた。
ヒロシが引くほど微妙な格好だった。
「夜食でもどうかと思って」
「メニューは?」
「カレーよっ! ヒロシの居た世界でカレーが嫌いな人なんて存在しないと聴いたわ」
言いながら、ベルティーナは何故か額からマヨネーズをひねり出している。
「まさか、脳ミソじゃないよな……」
そんなことより、ドピン子王女は額の『プリングルスvsチップスター』に気づいてないのか?
「安心なさい。正真正銘“ベルネーズ”よ!」
ベルティーナ+マヨネーズのことらしい。
「ちょっと、記憶が飛ぶくらいで、まったく問題ないわ!」
「問題だらけだろ……」
練習の甲斐あって、ベルティーナは調味料の類が出せるようになったらしい。
ベルティーナの頭の大事な部分が溶けだしているのではないかと、ヒロシは試食を拒否している。
「ひとついいか? エプロンのことなんだが――」
「裸エプロンというのかしら? 殿方はこういう格好が好きだと聞いたのだけれど」
ベルティーナは、エプロンの絵をカラダに描いている。
王女を前から見ると素っ裸。
背後からであれば、確かに裸エプロンだ。
下のプリンセスが全部見えてるんだよ……。
さすがのヒロシでも目のやり場に困る。
気絶させて服でも着せようかと悩んでいた時だ。
扉をノックする音が、馬小屋に響く。
運悪く、カトレアの母親が訪ねてきたのだ。
カオスな状況をどう説明したものか。
このままでは誤解を招きそうだ。
考える前にカラダが動く。
ヒロシは咄嗟にベルティーナの尻をケリ飛ばし、山と積まれた牧草の中に突っ込んだ。
「あらあら、まあまあ」
牧草の山に上半身を突っ込み、尻をまる出しにしたベルティーナを見やる。
「お邪魔だったかしら?」
寝息を立てるベルティーナの尻を、カトレアの母親が二度見する。
「そんなんじゃありません。腐ってますけど、曲がりなりにも王女なんで」
「分かってますとも。それはいいですが、ヒロシさん、王女さまの扱いがぞんざい過ぎではありませんか?」
「コイツはこれくらいしないと懲りないんで」
王女には別の部屋が用意されていた。
ベルティーナが隙をねらってヒロシに夜這いをかけようとしたのだ。
ヒロシに玉砕された変態王女のパンツに、ヒロシの足跡がついている。
「それにしても、個性的な寝相ですね」
よほど疲れていたのだろう。
反対側から顔を出した変態王女は、両腕をピンと伸ばし、スヤスヤと眠りこけている。
「カツオ出汁!」
和風の夢でもみているのだろうか。
ベルティーナが寝言を叫ぶ。
「変態の出汁は置いておくとして、何か御用があったんじゃ?」
「そうでした。カトレアを見ませんでしたか?」
カトレアの母親が、神妙な面持ちでヒロシを見やった。
昼間の姿とは異なり、筋肉質なカラダから、華奢な容姿に変わっている。
ドワッフル属がバキバキな筋肉を保持できるのは、日の出から日没まで。
日の沈む時間が刻々と迫っている。
「森のなかで危ない目に遭っていないか心配で……。主人は床についてしまって。朝まで起きないと思うのです……」
「探しに行きますよ」
牧草に頭を突っ込んでいたベティーナの目が覚めたようだ。
「おはなしは聞かせてもらったわ。ドヘンタイ族は、太陽がアレしたときにアレになるね?」
額のホクロからベルネーズ(マヨネーズ)を垂らしながら、近づいてくる。
「ぜんぜん分かってねぇじゃん……」
取り敢えず、森へ行ってみるか。
モンスターが心配だ。
ベティーナは置いていくとしよう……。
ヒロシはベルティーナをぶっ倒す方法をかんがえつつ、カトレア捜索の準備をはじめる。
「ドワッフル属がバキバキな筋肉を保持できるのは、日没までなので__」
神妙な面持ちで、カトレアの母親が口を開いた。
「わかったわ。その“イチモツ”までに、“カトちゃんペっ(カトレア)”を張り倒せばいいのね?」
ベティーナ王女は、いろいろと分かっていないらしい。屈託のない笑顔を、ヒロシに向ける。
「王女さま……あのね……」
カトレアの母親が、イチモツの意味をベルティーナに説明している。
顔面から火を噴射したベルティーナが、ヒザを抱えてうずくまった。
ヒロシが話しかけても、ベルティーナからの返事はない。
どうやら、ピンクの屍になったらしい。
「王女の討伐、完了です。ご協力感謝します!」
さて、森へ行ってみるか。
冒険っぽくて、なんかいいな。
久しぶりに、やばいモンスターの狩りができそうだ。
一週間ぶんの食料を携えて、ヒロシが防壁の扉を開け放つ__。
「良し……帰るか……」
カトレアが地面に刺さっていた。
カトレアの収穫、完了。